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主明(P5)

明智吾郎は死んだ。死んだ?そんなバカな!明智吾郎は生きている。あいつは大罪人だ、のうのうと死ねていいはずがないだろう!今日もきっとまたルブランに現れて、きっちりと貼りつけた仮面でこんばんはと俺に話しかけるのだ。俺を騙しながら、騙されているなどと知らないまま。明智、ああ明智、誰も彼も愚かだ。俺達は全員犯罪者で、誰も誰かの罪を責められはしない。けれど死んでしまったとなれば話は別だ。お前は罪から、俺から逃げたのだ。だって死だなんて一等安易な救いじゃないか。
目を閉じてまた開くと、目の前に明智吾郎が立っていた。微笑を湛えながら、しかし目は笑っていない。俺の認知の明智吾郎だ。俺は明智の前へと走って、その細い体を突き飛ばした。尻餅をつく明智に跨がり胸ぐらを掴む。
「償え」
「償え!」
「償ってから死ね!」
大声でそう叫ぶと白い空間に俺の声ががんがんと反響した。明智は得意の薄っぺらい笑みを消して、無表情に俺を見る。首でも絞めてしまいたかったが、殺してしまえば意味がない。この男は大罪人で、今までの罪人達のようにこれから死ぬよりも辛い罰を受けなければならなかった。生きていなければならなかったのだ。それなのに勝手に死んでいった。お前と仲間になんてならなければ、お前にコーヒーなんて出さなければこんな気持ちにはならなかったのだろうか。
明智は俺をじっと見ていた。が、やがていびつに笑った。そんなにへたな笑い方は初めて見る。
「俺を苦しめるのがそんなに楽しいのか」
そう呟くと、いびつな男は俺の顔に唾を吐いた。

主竜(P5)

「お前の隣、俺だろ?」
なんてお前は簡単に言うが、ならこれから俺はどうすればいいって言うんだ。地元に帰る俺にお前は着いてきてくれる訳じゃない。俺だって残りはしない。お前の隣が俺ではなくなることに、なあお前、ずいぶん無関心じゃないか。……なあ、聞いているのか、竜司。
聞こえるわけもないのに、何度もそんな風に胸のなかで問いかける。世界すら奪った身なのに、度胸なんて人一倍あるはずなのに、お前への臆病はいつまでたっても治らない。

「今日お前んち泊まる」
一週間後に出発だというときに、急に竜司は俺にそう言った。その目はテレビのゲーム画面に向けられていたので、詳しい感情は窺い知れなかった。アクションに合わせて控えめに明滅する画面が竜司の横顔を照らしているのが、夕方になって薄暗くなってきた屋根裏部屋だとはっきり分かった。
「……ちゃんと操作しろよ。ゲームオーバーんなっても知らねえぞ」
呟くように言われて、言われるがままコントローラーを握り直して画面に視線を戻した。

やっぱり無茶だよな、なんて最初から分かってはいたが、部屋が寒過ぎるとあんまりにも竜司がごねるので暖を取るため仕方なく二人で布団に入った。ベッドと呼ぶには脆いビールケースの上、男二人が寝転ぶには狭いやら痛いやら最悪の有り様である。けれどぴったりとくっ付け合った背中から相手の熱はよく伝わった。竜司は体温が高い。俺の体温はそこまで高くないから、竜司から熱を奪ってしまってやいないかと心配になる。
スペースの限界によりソファーで寝てくれているモルガナの寝息だけが屋根裏部屋に規則正しく響く。竜司の寝息はいつまでたっても聞こえてこない。俺も眠れはしなかった。
「なあ」
「うん?」
呼び掛けに被せるように返事をしてしまう。早すぎはしなかったかと少し恥ずかしくなった。竜司はもぞもぞと動いて、なかなか次の言葉を口にしようとしない。シーツを握りしめてただ待っている。やがて、お前さ、と呟かれたときにはもうずいぶん時間が経ったように思えた。
「マジに帰んだな」
「うん」
「電話もチャットもしまくるから」
「うん」
「休みは会いに行くし。お前も来いよ」
「うん」
竜司の言葉が途切れる。今どんな顔をしているのか、とても見てみたかったけれど勇気がなかった。見てしまえば絶対に帰れなくなってしまうだろう。人のために生きるというのは、自分の感情を人のせいにすることではない。竜司のために帰らないのは、きっと自分勝手な話だ。
竜司がひときわ大きく動いて、ビールケースがガタと揺れる。次に自分の足に竜司の足が絡み付いてきた。暖かい。足というのは、竜司の心がある箇所だ。喉の奥で感情がつっかえる。
「お前の隣は俺だろ」
「……うん」
「分かってんならそれでいいんだよ」
話すというよりはまるで自分に言い聞かせるように竜司は俺にそう言った。毛布を頭までかぶって、つんと痛みの走る鼻をシーツに埋める。きちんと伝わっているのか、きっとお互い不安になっている。それでも触れあっている肌のこの温度さえ覚えておけば、何度だってここに帰ってこれるのだ。なあ竜司お前こそ、ずっと分かっていてくれ。お前の隣に還るのはいつだって俺なんだ。

龍アソ(大逆裁)

「後悔していないか」
大学の道から随分外れた細道の途中にあまり大きくない鳥居がある。奥にはとても小さな神社と灯籠が二つ、昨晩から降りつづける雪をこうべに被せて冷え冷えとそこに立っていた。控えめに敷かれた石畳もすっかり白で覆い隠されている。中に入ろうとは思わなかったが、どうしてか目に留まった。オレが足を止めたのに合わせて、後ろから聞こえていた雪を踏む音も止む。後悔って何の、と呟きのように返ってきた返事はどうにも聞こえづらかった。きっと雪のせいだろう。
「キサマはじきにオレと倫敦へ向かう。正規ではない方法でだ」
「オレと来るという選択をしたことを悔いてはいないか」
背後でおさえた笑い声がする。きっといま眉を下げて微笑んでいる。
「気が早いな。行く前から後悔なんて出来ないよ」
水が溜まり薄氷を張った賽銭箱が網膜をひっそりと刺した。久々に相手の目を見ず会話をしている。キサマの父上に叱られてしまうかも知れんな。
此処に来るまでに付けた足跡などすぐに陽に溶けて消えるのだ。帰路はとうに消え去っている。ようやく後ろを振り返れば成歩堂は鳥居の奥を興味深そうに見詰めていた。頬や鼻の頭が赤く染まっている。
「お参りしていく?」
もはや神など去っていそうな寂れた神社を指差し、オレにそう尋ねる。長く息を吐いたのち、ゆるく頸を振った。
「今日はいい。それより、牛鍋でも食いに行かないか」
そう言ったら男はこちらに振り返って大きく頷いた。ようやく視線が合った、と些細なことばかり考えた。


100個ぐらい同じようなの書く芸人

小ネタ詰め

・大逆裁(龍アソ)

あの夏から変わらず忌々しい。その器用な赤い舌は今日もオレの前にちらちらと顔を見せる。男が米を食らい口の端に飯粒をつければ赤は不意に現れ米を掬い取っていく。団子のたれが串に垂れればまた現れ緩慢に舐め取っていく。ああ腹が立つ。たった器官一つに、何故こうも心臓を逸らせねばならないのか!

「実はぼくさ」潜むような声は店内の雑音に掻き消えてしまいそうだった。やたら真剣な眼差しがオレを真摯に見つめている。思い詰めた表情はまるで告白か何かでもしているかのように悲痛だった。思わず喉を鳴らす。男の次の言葉を、全神経を過敏にさせてただ待った。「今日財布忘れたんだ」「…おい!」

洋鞄の蓋を閉めた瞬間無数の想いが刃となりオレの背中を刺し貫いたのだ、胸の前まで顔を見せた切っ先がオレに祝言を告げる!ついに捕らえた、この腕の中だ、灼熱に茹だる真夏の某日から今日までずっとこの時を待っていた。船員に、赤の他人に伝えられる。これは私物なのですと。ああ毒のように甘美だ。

人の騙しかたを知らないと言う。嘘の隠しかたを知らないと言う。感情の果てを知らないと言う。まったくいじらしいではないか。この男の両の水晶に貼り付く濁りはオレが斬り伏せてやろう。この男に辞書を作ってやろう。愛を書き憎は消した。「任せろ。全てオレが教えてやる」「ああ、助かるよ、亜双義」


・P5

例えば今日だってチャットは朝から鳴り止まず、今ヒマ?なんて文面が何度も画面に表示される。やる事だって行く場所だって会える人だって自慢じゃないが山ほど存在するのだ。それでも向かうのは地下通路のいつもの場所、俺の誘いに対してお前は普段通りに言う。「お前は暇なんだな」……ああ憎らしい!
(主喜多)

「喜多川くんって好きな人いる?」「ああ」予想外の返事に私は驚いた。何故だか当たり前のように、いないものだと思っていた。「告白の予定は?」言ったら喜多川くんは絵を描く手を止めて考え込む様子を見せる。やがて諦めたように笑って、絵の中の爛漫と咲いた花を指差した。「この花が枯れた時だな」
(主喜多/喜多川とモブ女子)

「俺にはお前だけだよ」頑丈な意志を込めた眼差しで奴は俺にそう告げるが、その目は俺にだけ向けられているものではないのだと思う。お前の隣に特定の人物がいた覚えがない。代る代る知らない女と男がいる。「嘘は好かない」「……信じてくれよ」信じてほしいなら、そう曖昧に笑うものじゃないだろう。
(主喜多)

「個展を開くので是非来てくれ」という手紙とチケットを握りしめて、俺は祐介に会いに行った。祐介は喜んで、俺に丁寧に絵の説明をしてくれた。その最中、ふとある一枚が目に留まる。人物画だった。想い人を描いたものだということが、一目ですぐに分かった。「…祐介お前、俺のことが好きだったのか」
(主喜多)

ぺごくん「はぁ……祐介……好き……」
祐介「破ァ!!!!!!!!隙ィ!!!!!!!!!!!」
(主喜多)

「今度結婚するんだよね。ご祝儀期待してるから!」色気もへったくれもねーよ。スマホ机に置いたあと俺はひとしきり笑った。国会議事堂の前で俺にビンタかました女が、結婚!こんなにめでたいことはなかった。初めてあいつを見た日のことを思い出す。その日に名前覚えたぜ。きれーな色だと思ったんだ。
(竜司と杏)

電車が通りすぎる瞬間、ここにいないはずのお前が一瞬だけ俺の隣に出て来て、俺を呼んで笑ったんだ。瞬きしたら消えたけど、確かにそこにいた。幻覚と幻聴が交互にきちまった、ヤベエと思うだろ。なあ、お前のことどう表したらちゃんとした形になるんだ、教えてくれ。…俺国語苦手なんだよ。
(主竜)

「本当のこと言ったら幻滅するよ」パンの包装紙を開ける無遠慮な音が冬の公園に響く。茶色に錆びた遊具はどこまでも物悲しく光を失っていた。隣の竜司は焼きそばパンを大口を開けて頬張る。寒空の下の公園と焼きそばパン、少しちぐはぐな組み合わせだと思った。「しねえし。言えよ」「嫌だ」「言えって」「言わない」「じゃあ俺が言うわ」あのさ、と呟くのに合わせて吐かれた息の白さだとか、きっと一生忘れないのだ。もう一度言ってくれないか、心臓がうるさくてうまく聞き取れなかった。
(主竜)

主明(P5)

「俺がお前に出来ることをずっと考えていた。どうしたらお前の存在を取りこぼさずに済むのかとずいぶん悩んだ。倫理なんて目に見えないものはもうどうでもよくなっていたんだ、ただお前が生きているだけで俺もうまく息が出来る気がしていた。気づいてるだろう、これは最初から最後まで俺のエゴなんだ。お前の思いすら度外視していた。そんなことは本当にどうでもよかった。俺はずっと、ずっと悩んで焦って嘆いて、どうすればお前に気兼ねなく触れられるのかとずっと、ーーでも答えなんてないんだ、こんなことに。お前は、お前も法に則って見ればただの悪だ。きっと助からない。それがこのゲームの掟なんだ。ならばせめてお前の命の火がながく燃えるよう、俺はお前から俺を奪うよ。それがお前の実りになることを願う。……好きだったよ、明智先輩」
俺から拳銃を奪った傷だらけの男は虚ろな目をしてそんな長口上を口にし、頭に銃を突きつけた。後は轟音、貫通した銃弾は無機質な音を立てて床に転がり落ち、鮮やかな遺物を撒き散らして男は机に突っ伏す。全てがたった一瞬の出来事のように思えた。頭がついていくはずもなかった。怪盗団のリーダーが拳銃自殺。顛末としては何の問題もない、むしろ殺す手間が省けたとさえ言える。それなのにどうして俺の頭はこうも空虚に透いている。どうして全てが消え失せたような思いに囚われている。
こいつは死の間際、俺に同情を差し向けた。可哀想な明智吾郎、お前を救ってやろう。先の言葉を要約すればそうだ。俺は、こいつの自己満足の対象だった。俺たちは互いを道具として見ていた。取って付けたようなこいつの告白は、笑えるほど陳腐だった。明智先輩だなんて良く言えたもんだな。吐き気すら込み上げる。お前の道具になるのだけは死んでも御免だ。お前は俺の道具なんだよ。道具が持ち主を思い通りに操れると思うな、クソ野郎。
男の手から滑り落ちた銃を拾い上げ、血を拭う。何もかもバカみてえだ、汚い空ばかり見て無駄な生涯を送った。男を真似るように拳銃を頭に突きつける。まだ弾は残っていた。
「ざまあみろ!」
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