スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

折兎折未完(TB)

虎←兎←折
----
「なんていうか、僕の中にはずっとずっと同じ人が居座っているんです。父や母もそうなんですけど、愛しい、ではなく恋しい、と思う人が。いるんです、僕の心の中にずっと。その人はいつも僕に笑ってくれて、その笑顔の忘れ方がどうにも僕にはわからなくって。それだけなんです。本当にそれだけ。それだけの理由であなたを突き放しているんです。せっかく僕なんかを好きだと言ってくれたのに、ごめんなさい。でも僕は中途半端な気持ちで誰かと付き合いたくないんです。本当にごめんなさい」

バーナビーさんは実に真摯で誠意のこもった言葉だけを僕にくれた。この人は僕のことをきちんと真剣に考えて、考え抜いた結果に僕の気持ちを受け取れないと言ってくれている。そのことがとてもよくわかって、もう僕はそれで報われたし、充分すぎるなあ、と思うことができた。このひと、断るのうまいなあ。

「好きなんですねえ」
「おかしいでしょう?あんなおじさんを好きだなんて」
「何がおかしいんですか!全然そんなことないですよ」

シンジャ未完(マギ)

「生まれ変わったら魚になりますのであなたは魚になった私を釣って王宮の水槽で飼ってくださいね」

懇切丁寧に来世の行動を指示する男は今俺の腕の中にすっぽり収まりながらさめざめと泣いていた。ぐすんぐすんと生娘のように涙を零すジャーファルを見つめながら、もうこいつに酒は飲ませないでおこうと密かに心に誓う。同時に酒癖の悪い自分はいつもこんな風に誰かに絡んでいるんだろうかと考え酒を少し控えようと決めた。ジャーファルのこぢんまりした頭を優しい手つきを意識してゆっくり撫でながら、どうして魚になるんだ、となんとなく尋ねてみせる。

兎虎未完(TB)

「あなたがワイルドタイガーじゃなくなっても」

僕はずっと鏑木・T・虎徹を愛していきますからね。そう言って笑うバニーは夜の闇の中でだって輝きつづけていた。ちかちか眩しいネオンも届かないような寂れた公園の錆びたベンチにいたって、バニーはきれいに瞬いていた。もうすぐ俺がこの街を去ることを知っているかのように、相棒はふわりと慈愛に満ち溢れた笑顔のまま俺の黒を緑に染め上げていた。くすんだ色ばかりが俺を俺だと主張するのに、バニーには虹色が味方についている。煌びやかなそいつが俺には眩しすぎて、途方もなく悲しい。それでもバニーは俺に暖色をつけようとしていた。虎徹さんには、明るい緑が似合います。黒も似合いますけど、僕にとっての虎徹さんはやっぱり緑です。そう言ってうつくしい微笑みを俺なんかに使うんだ。でも、でもバニー、そうじゃない。俺にはやっぱり黒が合ってるんだ。おまえがスポットライトを浴びるために、俺は辺りを侵す黒にならないといけない。相棒じゃなくて引き立て役としておまえの隣に並んでたんだよ俺は。それに緑が似合うのは俺じゃなくて、ワイルドタイガーじゃないのか。鏑木・T・虎徹に、本当に緑は似合っているのか。

兎虎未完(TB)

惰眠を貪るいとおしさを僕は生まれて初めて知った。真横で寝息を立てる彼に教えられたそれは、とてもとても気持ちがよくて少し困るほどだ。僕の家、割と広めのリビングの床に投げ出されたふたつの体躯は夢の中へ船を進めることをやめようとはしない。ふたりで共用しているシーツを奪ったり奪われたりしている間に、壁時計が示す時刻は午後2時35分を回っていた。ふたりして微睡みだしたのは確か1時頃だったはず。ああもう1時間半も昼寝してしまったのか。普段ならとんだ失態だと頭を抱えるような現実だ。

兎虎未完(TB)

熱を含んだ吐息が首筋にかかる。くすぐったいと思っている間に吐息は感触へと変わった。まるで吸血鬼みたいに、バニーは俺の首にがぶがぶと噛みついている。噛むだけじゃなくたまに舐めたり触ったりしてきて、ああなんというかもどかしい。そうしている内にもバニーの右手は忙しなく動いていて、やけにゆっくりと腰をなぞる手つきに欲情が持て余される。バニーの唇は場所を移動し、今度は俺の唇に狙いを定めた。深く口付けられ、すぐさま長い舌が侵入してくる。そうしてしばらくの間口内をぐちゃぐちゃにかき回された。さすがに息が続かなくなりバニーの背中をバンバンと叩いて救助サインを出すと、見るからに名残惜しそうな顔をして口を離される。二人を繋ぐように引いた唾液の糸がてらてらと光っていたことが、えらく印象に残った。

「バニー、ちゃん」
「なん、ですか」
「あんま、焦りなさんな」

最初からこんながっつかれたらおじさんこの先保たねーわ、と途切れ途切れに告げる。するとバニーは眉をめいっぱい下げて、頬をかああ、と紅潮させた。りんごのような顔のまま、そんなの、と唇の形が言葉を辿る。

「虎徹さんが目の前にいるのに、そんなの、むりです」

焦るななんて、無理に決まってます。と、バニーは繰り返す。


ぶっちゃけおじさんに「焦りなさんな」って言わせたかっただけですねはい
前の記事へ 次の記事へ
カレンダー
<< 2011年08月 >>
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
アーカイブ