基緑基未完(稲妻11)

俺は今日、子供を産んだ。端正な顔立ちと燃えるような赤い髪を持った子で、外見は実に申し分ない。しかしながら、ひどくとてもそれはそれは、最上級の意味である語群たちを心ゆくまで並べ立てたいくらい、不器用な子供だった。せっかくの容姿はその不器用さのおかげであってないものになってしまっている。宝の持ち腐れってこういうことを言うんだな。なんてぼんやり考える俺にしがみついて、生まれたての子供はひたすらわんわん泣いていた。聞いたこともない大声で、見たこともない顔で。俺が産まれたときも、こんな風に泣いたのかなあ。涙と鼻水をぐちゃぐちゃに混ぜて謎の液体を作り出してたのかな。そのとき顔も知らない父さんと母さんは、きっと俺の涙を拭いてくれたんだろう。なら、俺もこいつの涙を拭いてやらないと。なんたって俺は、こいつの第2の産みの親なんだ。基山ヒロトを産みなおした男なんだから。お疲れ様でしたグラン様、もういいんじゃないですかと声をかけた俺に、ヒロトは怒りも悲しみも寂しさも全部全部ぶちまけた。そして最終的には俺にしっかり抱きついてわんわん泣いている。たぶん彼の中でグランはいなくなって、やっと基山ヒロトが産まれたんだ。その門出を真っ先に祝うのがエイリアの下っ端だった俺だなんて、自分でもびっくりしてるけど。嬉しくないわけじゃない、いやむしろ嬉しくて仕方なかった。初めて産声を聞いたのは、初めて顔を見たのは、初めて抱きしめたのは、この俺なんだ。好きな人の誕生の瞬間を見ただなんて、喜ばしくないわけがない。

吹染未完(稲妻11)

左手にがっちりはめられた腕時計を見やっても、電車が来るまでの時刻にはまだまだ到達しそうになかった。まばらに人が存在するホームの人々は皆個々の事情に精一杯で、お互い干渉することはない。塗装が剥がれかけた赤いベンチには、なぜか井戸端会議を始めるおばさんたちや、これからデートにでも行くのだろうか、きらきらという効果音を散りばめたいぐらいにおしゃれをした女の人が携帯の画面に目を落としながら腰かけている。その女の人に負けないぐらいめかしこんでいるボクも、彼女の線上に座る一人だ。前述の浮かれ気分な両者とは打って変わって、物憂げにはぁ、なんてため息をついている。たぶん今のボクは周りにきのこでも生えているように見えるぐらいじめじめとしているんだろう。だって、こんなに寒いホームに30分もいたら、そりゃあ気分も落ちてくるよ。まあボクの自業自得だけれど、それでもやっぱり今日の寒空を恨んでしまうのだ。こんなに懐の狭いボクを見たら、彼はボクを嫌いになっちゃうかなあ。呆れる止まりでいてくれたら嬉しいんだけど、彼がボクをどれくらいの気持ちで好きでいてくれてるのかがわからないから、なんだか不安になってしまう。ああ自分でもわかってるよ、ボクって本当面倒くさい男だ。もっと彼に見合うように男らしくなりたいのに、いつも女々しく考えこんでる。愛想尽かされるのも時間の問題だよね。アツヤ、いつまで経っても女々しい兄ちゃんでごめんね。これじゃあアツヤを安心させられないよね。胸中で呟くと、風に運ばれて聞こえてくる小さい頃の弟の声。兄ちゃんもっとしっかりしろよ、と常にボクを叱咤していたアツヤの言葉が記憶の奥底から掘り出された。そうだ、弱気になってちゃダメだ、自信を持っていかないと!いつまでもうじうじしてたらみっともないし!ばちんと両頬に一発張り手を食らわせれば、すぐさまひりひりと襲ってくる痛覚。冷え切ったほっぺたにこれはかなり効いた、正直すごく痛い。きっと赤くなっているんだろう頬を軽くさすりながら、ちょっと強くやりすぎたなと反省した。ああ、あんまり張り切るとうざったいと思われるかもしれない…。うう、やっぱり帰結するのはポジティブ方面よりネガティブ方面。こんなに悩んでしまうのは自分の元々の性格も起因しているだろうけど、ボクの身を冷やし続けるこの寒空も原因の一端を担ってるんじゃないか、なんて思ってまたもや空にガンを飛ばす男子中学生がホームに約一名。けっきょくボクはまたなんの罪もない寒さを憎んでしまってるわけだ。貧相な思考回路と下手したら広辞苑を超える厚かましさに自分でもため息が漏れ出る。早く迎えにきてよ、特急電車に乗った王子様。ボクそろそろ地面に転がって生まれた摩擦熱で暖をとりそうだよ。桜よりも一足先にボクの頭が春を迎えちゃいそうだ。何より君に会いたくて会いたくて君に焦がれてたせいで、ボクの心はもう丸焦げなんだよ。どす黒くて、醜いんだよ。やっぱり遠距離恋愛なんて、ボクには無謀だったのかなあ。たった1ヶ月離れ離れになっただけでこれなんだもん、先が思いやられるよ。それに比べて君は寂しいなんて一言も告げずに、週3ペースで東京での近況なんかを短く綴ったメールだけ送ってきてくれるよね。

吹雪独白未完(稲妻11)

見切り発車で決めた覚悟は空振って宙に霧散した。集めようと手を伸ばしたって水蒸気に成り変わったそれに触れられるわけもなく。しょせんそれだけの覚悟だったらしい。湿った手のひらは確かにさっきまで水をたゆたわせていたことを証明しているのに、少し温もりをプラスしてしまえば大気に還ってしまったのだ。ボクの涙は。ボクの決意は空気に消えた。もうやめとこう、ここで終わりにしようぜ、にいちゃん。胸の中のアツヤが鼓膜を揺らす。そうだね、いい提案だねアツヤ。それもいいかもしれないね。でもねアツヤ、ボクはバッドエンドが怖いんだ。

円バダ未完(稲妻11)

その日、朝目が覚めて時計を見たら、いつもより1時間ほど早い起床だということを知った。ああ、なんだか夢を見た気がする。一週間前に出会ったあの男が、私に笑顔を向けているだけの夢。ただそれだけなのに、私の胸には形容し難い暖かみが去来していた。拳を作って、左胸を軽く2、3度叩く。
「円堂、守」
あれから初めて、あいつの名前を呼んでみた。ただの排除対象ではなくなった、円堂守という一人の男。はつらつとした笑顔も快活な声も、すべて網膜に刻みこまれている。鼓膜に染みついている。脳裏に、焼きついている。
もそりとベッドから体を起こす。布団に感じる名残惜しさはあまりなかった。報告書でも纏めようかと机の上に視線をやったとき、中央を陣取るように置かれた一枚の真っ白い紙がふと目につく。その横には1年ほど愛用しているシャープペンシルが無造作に置かれていた。ああ、そういえば昨日の夜に報告書を纏めようとして、けっきょくそのまま眠ってしまったんだったか。普段ならば報告書なんてものの一つや二つすぐに仕上げられるが、近頃の私は集中力が霧散しがちだ。


粘着系バダップちゃんの80年ネチネチを書きたかったけど力尽きた

豪鬼未完(稲妻11)

重ねられた手と手が作り出す温もりにすがってしまえればどれだけ楽かと思考回路に問いかけた。隣に腰掛けるそいつは絶対に俺を拒絶するなんてことはしないだろうし、むしろ新たな温もりを与えてくれるのかもしれない。一見冷たく見える容姿とは裏腹に、底抜けに優しいこいつの性格を俺はよく知っていた。もしかしたら、チームメイトの誰よりも知っているのかもしれないと、錯覚する程度には。いや、きっとそれはないだろうけれど。豪炎寺のことをチームの中で一番知っているのは、恐らく円堂だ。


いつか続き書きたいです
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