モブ霊未完(MP100)

「シゲオ、面倒なことになった!すぐに来てくれ!」
六時間目が終わってすぐに慌てて飛んできたエクボは詳しい説明をしてくれないまま僕を相談所に引っ張ってきた。今日は肉改部もないし本屋にでも行ってみようかと思ってたんだけど、エクボがこんなに慌てているってことはけっこう大変なことなんだろうから仕方がない。早く入れ、と言われて急いで扉を開けると、そこにはソファに寝転がっている師匠がいた。いや、正確には『悪霊によってソファに寝転がされている師匠がいた』と言うべきだろうか。
「おいエクボ、呼んでこなくていいっつったのに!」
「低級なら俺様が食ってやれるが、こいつはこう見えて上級だ!しょうがねーんだよ!」
悪霊は師匠の体をずるずると這っている。師匠の顔は真っ赤になっていて、息がかなり上がっていた。服もやけに乱れている。かなりの時間悪霊と格闘していたんだろうか。珍しいな、いつもならすぐ僕を呼ぶのに。
「すぐ除霊しますね」
「シゲオ、こいつ妙にすばしっこいから気をつけろよ」
エクボの忠告に頷きながら師匠と悪霊のほうへ近づく。悪霊は僕に気がつくと、しゅる、とその触手のような体を師匠の服の中へと滑り込ませ身を隠した。それと同時に師匠がうめき声をあげる。
「あっ、師匠。大丈夫ですか」
「だっ、大丈夫だ、心配すんな」



やっぱ霊幻新隆にはエッチな霊障にあってほしいよ

モブ霊未完(MP100)

久しぶりに霊幻師匠に会った。しばらく旅に出ていたからこの街に帰ってくるのは久々だったけど、街も師匠もあまり変わっていなくて安心した。「モブ、元気か」と僕の肩を軽く叩く師匠を見上げて微笑みを返す。あ、身長は少し近づいたな。耳のかたちや笑ったときにできる目尻のかすかなしわがよく見えるようになった。
「大きくなったなあ」と彼はしきりに僕に言った。でも師匠よりは小さいですよ、と返したらそういう意味じゃないと笑われる。じゃあどういう意味なんだろう。久々にラーメンでも食うかと誘われたけど家族との食事の予定があったので悪いと思いつつ断った。
「そうか。まあ、家族孝行はできるうちにしておいたほうがいいしな」
そのとき、師匠の瞳がすこしだけ揺れた。あれ、と思った。師匠の感情がこうして外側に現れるようすにあまり馴染みがなかったからだ。珍しいな。いや、僕の背が伸びたからこういうことが見えるようになっただけなんだろうか?わからないまましばらく師匠の目を見つめていたけれど、どうした、と尋ねられて慌てて会話に意識を戻した。
師匠はとりとめのない話をいくつか僕に話した。エクボには早く成仏してほしいだとか芹沢さんに彼女ができたとかたまに街で偶然律や花沢くんに会うだとか、他愛もない話は止まらない。みんなの近況が聞けるのは純粋に嬉しかったけれど、やっぱり師匠の仕草や言動の中にたびたび現れる何かが気になってあまり集中できなかった。

モブ律未完(MP100)

セしないと出れない部屋in影山兄弟
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「こんなの、何かの冗談だよ。きっと」
その文字列を見た兄さんは開口一番そう言った。僕だってそう思いたい。たちの悪いお遊びだと。だけど、こんな悪趣味を働くとしたらいったい誰なのか?僕たちは拉致と言っていい扱いでこの白い部屋に来た。下校中に突然薬品を嗅がされて意識を失い、ふたりとも気がつけばこの部屋にいたのだ。超能力はさっきから試しているけどまったく使えない。驚くべきことにそれは兄さんも同じなのだという。僕はともかく、兄さんの超能力を封じ込められる人間なんて人類にいるのだろうか?しかも、お遊びで。爪の生き残り?それともどこからかの私怨によるものか。いや、どちらも考えがたい。爪は鈴木統一郎の失脚によって完全に解体されたと言ってもいい。万が一残党がいたとしても、鈴木統一郎や兄さんを超えるほどの力を持つ者はあそこにはいないはずだ。私怨の線も考えがたい。こうまでされるほど怨まれる心当たりが互いにあまりにもなさすぎるし、あったとしてもここまでの能力者に該当者がいない。となると、新勢力。何か新たな脅威が僕と兄さん──いや、兄さんに迫ってきたという可能性が高い。目的はもちろんこの力だろう。
「律、こんなの真に受けなくていいよ。出口を探そう」
兄さんは平静を装おうとそう呟く。でもその頬には汗が伝っていた。
出口を探すのは賛成だ。換気口を見てみたり壁に穴を開けたり、そういうところから出られる可能性はゼロじゃない。なんとか知恵を絞ってここを抜け出すことも可能なはずだ。……ただ。もしどこにも抜け道がない場合。覚悟を決めるのは僕だ。



しげお様はわからんけど影山律くんはセ部屋でどシリアスになりそうだなって…

モブ律(MP100)

兄さんから紹介されたその人は芯の強そうな美しい女性だった。この人との結婚を考えている、と兄は僕に伝える。なんだか高嶺さんに似ているね、あと雰囲気は少し霊幻さんと同じものを感じる。やっぱりこの人はこういう人間が好きなんだ。よろしく、と手を差し出され笑顔でそれを握った。
兄さんはその女性のどこが素晴らしいかをたくさんの時間を使って僕に話した。彼女はそれを照れくさそうに聞きながらも、頬を赤くして喜んでいた。僕は適切な相槌を打ちながら微笑んでいる。膝に置いた手をきつく握りしめながら。時計の秒針の音がいやにうるさく鼓膜に響いた。兄さんが僕の名前を呼ぶ回数をなんとなく数えていたけれど、今日はあまり呼ばれないから途中でやめてしまった。
「茂夫くんとの出会いは運命だなって、ちょっと思ってるんです」
恥じらいながら彼女がそう言って、隣の兄さんも顔を赤くさせた。それはすごい、そう思えるほどの出会いってなかなかないですよ、と耳触りのよい言葉を投げる僕。自分なのにまるで他人のようだ。運命なんて持ち出してもいいのなら、僕と兄さんはどうなるというんだろう。兄弟として同じ姓に生まれてきた僕らは紛れもなく運命の二人ではないのか?そんなふうに柄にもなく馬鹿馬鹿しい思考ばかり巡る。でも考えてしまうのだ。
「すみません。質問してもいいですか」
「はい、なんでしょう?」
あなたは曲がったスプーンを完璧に元の形に戻せますか?
超能力を使って。
なんて、言えるわけがないんだ。もう全部が遅いのだから。
「……二人はどこで知り合ったんですか?」

モブ霊(MP100)

高校から制服がブレザーになった。ネクタイを結ぶのが難しい。春休み中に花沢くんに結び方を教えてもらって、なんとか格好悪くないように結べるようになった。
「おーおー、モブがネクタイしてやがる」
師匠はブレザー姿の僕を見て可笑しそうに笑った。何が可笑しいんだかわからないけど少し照れる。ソファーに座っている師匠は事務所の入り口に立つ僕を手招きした。それに従って師匠の前まで歩いていき、向かいに座ろうと思って彼を通り過ぎかけたときにがしりと腕を掴まれた。
「練習したのか?」
師匠に腕を離す気配はなかった。仕方なく横に座って、はい、と返事をする。僕を見やる瞳が何を考えているのか汲み取ることはできない。
「花沢くんに教えてもらって」
「へえ」
と、師匠の指が僕に伸びた。それは僕の顎をなぞる。突然のことにびくりと体を震わせてしまった僕に彼は小さな声で「動くな」と囁いた。その口が楽しそうに歪んでいる。猫にするみたいに首の下を撫でられて、次に喉仏に触れられた。
「ちゃんときれいに出来るようになったんだな」
首筋をゆっくりなぞられて、つい息を呑んでしまった。くすぐったい。背筋がぞわぞわする。師匠の指は下降して、やがて僕のネクタイの結び目にたどり着く。形を確かめるように触られたあとにずぼっ、と襟元に指を突っ込まれた。一方師匠のもう片方の手は僕のブレザーのボタンを外している。器用ですね、なんて軽口をたたこうと思ったけれど喉がかさついてうまく声を出せない。ネクタイが彼の手によって緩んだ。
「せっかく頑張って結んだのになあ。悪いな、モブ」
絶対悪いなんて思ってないだろ、あんた。外されたネクタイが床に落ちて、拾う間もなく首筋にキスをされた。俺のも外せよ、という言葉を耳に吹きかけられたらもう拒むこともできない。……この人のネクタイも床に落としてやろう。僕にできる抵抗って今はそれくらいだ。
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