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じんたんとめんま(あの花)

めんま生まれ変わり
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「おめでとうございます!」

病室から転がってくる歓喜の声。それまで長考に浸っていた俺を現実に引き戻したそれと共に、赤ん坊の甲高い泣き声が鼓膜を揺らした。はっとしてすぐさま病室の扉を開け放ちベッドに駆け寄る。そこでまず目に付いたのは、ナースが赤ん坊を抱きかかえている姿。そして白いシーツに髪を散らして額に大粒の汗を浮かべた妻の姿だった。

「女の子ですよ」

ナースは言う。妻は澄んだ瞳に留めていた涙をほろりと落とした。おんなのこ、弱々しく反芻した言葉はまた妻の涙腺を緩ませる。赤ん坊は元気に泣き声を反響させていた。ふっと肩の力が抜けて、俺の涙腺まで緩む。ああ、と、自分の唇から漏れるのは感嘆と幸福だけだ。お父さん、赤ちゃんを抱いてあげてください。そんな声が隣からして、妻より先に抱いてもいいものかと少しばかり思案したが、かちあった視線の向こうで彼女は柔らかく頷いてくれた。逡巡しながらも両手をナースの前に差し出せば、しあわせな重みがそこに降ってくる。その子の、透き通った青色の目が、俺を見据えた。ゆっくりと胸の前まで持っていくと、泣き疲れたらしい赤ん坊は静かに眠りに落ちる。自然と口元が綻んだ。

「産まれてきてくれてありがとな」

腕にかかる重みがとても愛おしくて、なぜだか懐かしくもあった。赤ん坊の顔をじっと見つめる。目も鼻も耳も口もどれも小さくて可愛らしく、そして俺が初めて恋をしたあの子に、とてもよく似ていた。まるで生まれ変わりのような。
生まれ変わり、ああ、そうか。生まれ変わり、なのか。
あの子は言った。生まれ変わってまたみんなと会うんだと。だからまた必ず会えるんだと。そっか、ここに、俺のところに産まれてきてくれたのか。一番最初に、俺に顔見せてくれたのか。

「やっと会えたな」

めんま。そう言ったあとにすぐ、頬に生ぬるい涙が伝う。風が吹いて窓際の花が揺れた。
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