主モナ(P5)

「ワガハイはいつか絶対に人間になるぜ」
冬の冷たいアスファルトに肉球をつけながらモルガナが言う。その横を歩きながら、うん、と小さく頷いた。
「モルガナならなれるよ」
「当たり前だ!」
ふふんと得意気に笑うモルガナの口から白い息が漏れた。寒いだろうなと心配になる。ポケットに入れた俺の手も氷のように冷たかった。もし同じくらいの背だったら、寄り添って歩けるのに、と思う。モルガナが人間になったら手をつないで歩けるし、俺が猫になったらぴったりくっついて暖めてあげられる。でも今はどうすることも出来ない。……今日はいつもよりいちだんと寒く感じる。
「俺、猫になりたいなあ」
「へえ、オマエ変わってるな。まあ猫も悪くはないけどな」

主モナ(P5)

「おい、オマエ!」
もう寝ようかとソファーから腰を浮かした瞬間、横にいたモルガナがそう声をかけて俺を静止させた。見るとその顔はしかめられていて、何だか怒っているような表情になっている。
「顔よく見せてみろ」
ぶっきらぼうにそう告げられて、言われたとおりしゃがみこんでソファーの上のモルガナの前に自分の顔を持っていく。モルガナはその先端の白い前足を上げ、俺の頬にペトリと触れた。同時に、おいおい、という呆れたような声が発せられる。
「オマエ、隈が出来てるじゃないか。ちゃんと寝ないと潜入で失敗しちまうぜ?」
怪盗にとって体調管理も大事な仕事だ、と叱るように俺に話す。確かにここ2日程は寝られなかった。ベッドに入ってもまったく寝付けなかったのだ。原因は、今俺に説教をしてくれているこの仲間だった。
モルガナが家を飛び出した時、最初は心配しながらもすぐに帰ってくるだろうという気持ちを悠長にも持っていた。けれど夜になっても帰ってこなかったことで不安は肥大し、早く帰ってきてくれと祈る気持ちは自然と俺の目を冴えさせた。無事戻ってきてくれた今、瞼が2日分の眠気を重くのし掛からせている。
「眠そうだな。今日はちゃんと寝ろよ?」
素直に頷き、大きなあくびをひとつする。モルガナも俺につられたように伸びをして、「もう寝ようぜ」といつもどおりに俺に言った。計り知れない安堵に、顔が綻ぶ。
「何笑ってんだぁ?ちょっと怖いぞ」
「モルガナ」
「うん?」
「寝かしつけて」
はあ?と言いたげな表情が器用にも猫の顔で表現される。ちょっとおかしくて笑ってしまっていると、何を言ってんだオマエと怪訝をそのまま言葉にされた。
「一人じゃ寝れないんだ」
「……オマエ、何急に子供みたいなこと言ってんだよ。もう高校生だろ?」
ため息をつくモルガナをそれでも熱心にじっと見つめる。初めはただただ呆れていたモルガナは、俺の視線を長く受けているうちに居心地悪そうに目を泳がせる。やがて根負けしたのか、ああ、と大きな声をあげた。
「わかったよ、寝かしつけてやるよ!まったくオマエは、ワガハイがいないと寝ることも出来ないのか!」
「うん」
「即答してんじゃねーよ!」
怒りながらも、モルガナは布団に潜り込むと珍しく胸元のあたりまで来てくれた。髭が前を向いていて、どことなく上機嫌にも見える。
「ワガハイのあったかい体がこんなに近くにあるんだ、これで眠れなきゃ一生不眠だぜ」
「うん、よく寝れそう」
「当たり前だ!……ちゃんと寝ろよ」
おやすみと言うと、モルガナは照れくさそうにおやすみと返した。あまりにも温いので抱きしめて眠りたかったけど、怒られそうなのでやめた。

日向と松田未完(ロンパ2)

「お前、ちゃんと薬飲んでんだろうな」
松田がいつもの数倍険しい顔をしてそう言った。視線の先には俺の脳みそのレントゲン写真がある。何がどうなってるのかは素人目ではとうてい分からないが、その雰囲気からして良い傾向にはないのだろう。
「飲んでるよ。朝昼晩欠かさずに」
「じゃあ何でこんなスッカスカになるんだよ。ああ元からか?」
「……そうかもな」
「御託並べてるヒマはねえんだよ」
机を強く叩き、威嚇するように俺を見る。かなりイライラしているらしい。嘘はついてないんだけどな、お互い信頼はゼロということみたいだ。
「じゃあ訊くけど、この薬って本当に副作用を抑えるためのものなのか?飲むたびに頭が痛くなるぞ」
「ああ、それでいいんだよ。効いてる証拠だ」
「おかしいだろ、それって!副作用を抑えるために飲んでるもので体調が悪くなるなんて、それじゃあ……」
「おいグズ」
そう言ってじろりと睨んでくる。松田は絶対に俺の名前を呼ばない。どうしてかと理由を聞いても答えない。自分自身がどんどんあやふやになっていくようで、こいつと喋るのは苦手だ。


お題「信用のない螺旋」でした
アニメで二人いっぱい会話してくれて嬉しかった〜(幻覚)

小ネタ詰め(大逆裁)

ほぼ龍アソ


「聞いてくださいホームズさん ぼくはどんどん元気になっていきます 毎日楽しいことがたくさんあって、幸せになりそうで怖い アイツの事を忘れてしまう」「どこか行こう どこに行きたい?」「海が良いです アイツ、朝の海が好きだったんです」「うん」「前にそう話してたんです」「うん」
(しあわせになりたいパロ)

本当はずっと遠くの朧気に浮かぶ月を眺めるべきだ、しかし男はオレの目の前で月を遮りながら笑っている。そのせいで綺麗な明かりだと言うことすら憚られた。逃げ道が塞がれている。こればかりはただ当惑する他はないのだ。ああほられんげが揺れるぞ、おあつらえ向きに風が吹いた。「亜双義、好きだ」

「ボクはもう退屈だ、こんな世界は!さらばだ諸君、そこで足掻いているがいい!」硝子の外れた窓を背に彼はそう叫ぶ。まさかと思った矢先、その体はゆっくりと後ろに倒れていった。ホームズさん、と叫んで手を伸ばす。瞬間、彼と視線が交錯した。細められる目の内に秘めた感情。きっとぼくだけが見た。
(龍シャロ)

窓枠のはじに寄り掛かり、さあ往くぞさあ往くぞとおまへの手を握るのだが、妙な亊にまつたく降りれやしない。早く降りて仕舞わないと往けないのだと言い聞かせるが、其れでも降りることは出来ない。嗚呼困つた、何故かしらと隣を見やれば、男は諦めたように笑つて居る。どうして笑つて居られるのだ。

帰っていく先輩達の後ろ姿を見つめながら潮風を浴びる。亜双義の横顔を見ようとして、何となく止めた。「休み明け、嘘でしたって言えば許してくれるよ。良い人達みたいだし」言ったら、少し間を置いてから亜双義が呟いた。「許されなくても良い」風はこんなに強いのに、はっきりと聞き取れてしまった。
(25時のバカンスパロ)

下腹から流れ出るものは不愉快な程に生暖かく、己からそれが出ているというのが妙に可笑しく思えた。成歩堂はオレの腹に触れるとその赤の付いた手を口元に運び、べろりと舐めあげる。不味くはないのかと問う前に訊きたいことが一つあった。「成歩堂、何故撃った?」「…ぼくにはおまえしかいないから」
(ケンタとジュンとカヨちゃんの国パロ)

亜双義の風邪が辛そうだったので「接吻してぼくにうつす?」と言ってしまったが最後、熱い舌がぼくの口内を好き勝手に蹂躙した。亜双義の口の中は驚く程に熱い。怯んで逃げようとした舌は即座に絡めとられる。ようやく解放されたかと思えば、その口がにやりと歪んだ。「後悔したか」「…反省はしてる」

性交は許すのに口づけは許さないという亜双義の基準は、確実におかしいと思う。けれど「オレがすべてを成し遂げた時までそれはとっておきたい」なんて大げさなことを言われてしまっては、こっちとしても反論する言葉は出てこなかった。だって先の台詞、それほどぼくとの口づけを大切なものだと思っているという表れに聞こえてしまった。今日も亜双義の体のあらゆる箇所に唇を落として、触れて探って揺さぶっているけれど、その赤くてらてらと湿るところにだけは触れていない。本当は今すぐにでも舐めあげて塞いで口内をまさぐりたい。けれど、それは亜双義の信頼に対しての裏切りだ。真っ赤な舌が時たまちらついて、挑発するようにぼくの視界に現れる。ぼくより回らない舌。コイツの珍しい欠点が、今は鋭い武器に見える。「ここばかり見ているな」
(途中で飽きたやつ)

龍アソ(大逆裁)

「あれ、豚肉だ」
「喜ばしいことにな」
「今日は鶏肉だって言ってなかったか?」
「どうやら変更になったらしい。おかげで命拾いした」
「はは、大げさだなあ」

雪の残骸が道端に散り散りになって転がっている。一瞥して、すぐに目を逸らした。深くかぶった帽子の下で橙の街灯が不明瞭な光を見せている。それからも視線を外し、夜道をじっと歩きつづける。吐く息が白く染まり、指先が手持無沙汰にただ冷えている。何かを待っているけれど、いくら待てども何もやっては来ない。

「この数十日、よく耐えたな。あと少しすれば寝台で思い切り体を伸ばして寝られるぞ」
「我ながらよく頑張ったと思うよ、本当」
「やはりキサマはオレが見込んだとおりの男だ。今回の無茶の詫びに借金の十五銭のうち十銭は免除するとしよう」
「……そんなに借りてたのか、ぼく」

「なるほどくん、おかえりー!」
扉を開けた瞬間にアイリスちゃんの明るい声が駆け出してくる。ただいまと返事をしながら家の中を進むと、茶葉の香ばしいかおりが鼻をくすぐった。部屋を覗くとアイリスちゃんがソファに腰かけカップに紅茶を注いでいる。
「いいにおいだね」
「今回はね、かなりのジシン作なの。なるほどくんもどう?」
「いただこうかな。荷物置いて来るよ」
ハーブのにおいを横切って屋根裏へ登る。古雑貨屋で買った物たちを床に下ろし、ひといきをついた。窓の際で埃が光る。部屋の隅の茶器が陽に照らされて、椀のふちが白い三日月形に染まっていた。連想の末に、自分の爪を見る。ずいぶん伸びたものだ。

「明日、船が港に到着する。まずは高等法院へ向かい、主席判事にお会いする手筈となっている。その間キサマにはまた洋鞄に入っていてもらうことになるだろうが……。……何だ、そんな顔をするな。キサマはただオレを信じていればいい。オレとキサマが共に在れば、何処に向かおうと怖いものなどありはしないさ」

ふとした瞬間、景色の中に亜双義が現れる。訪れた悲劇を切り抜け、この英国の地で、ぼくの視線の先でいつもどおりに笑っている。陳腐な妄想だということは分かっていた。けれど消し去ることもできない。窓の外を眺めながら刀の柄に手を置く。いたかもしれない亜双義はいつだって笑顔だった。
嗚呼どうかずっとそうやって笑っていてはくれないだろうか。たとえ思い起こしたくない日であっても、その笑顔でぼくの胸臆に寄り添っていてはくれないだろうか。それがぼくの恐れであり、願いだった。ずっと何かを待っている。

「到着だ、成歩堂!さあ、せいぜい暴れてやろうではないか!」
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