海翔と長深田未完(ロボノ)

八汐って長深田先生の愛人なの?と、クラスメイトの男に突然問いかけられた。それが昼休みの話。もちろん冗談っぽくからかうように尋ねられたわけだけれど、それにしたって普段ロボ部+重度の格ゲーオタとして敬遠されている俺に同級生が話しかけてくるというのがまず珍しい。向こうも俺が面倒くさくてノリもあまり良くないと知っているだろうに。そこまでわかっていてもそうからかいたくなるくらい、俺はミッチーの愛人っぽいとでも言うのだろうか。失笑ものだよこれは。

「ってことなんだけど、どうしてくれるのさミッチー」
「どう?どうっつってもそりゃお前、先生はなんにも悪くないだろうが!」
「いいや、たいていのアホくさい問題ではだいたいミッチーがその発端だからね。今回もたぶんミッチーのせいでこうなってる気がする」
「あのなあ八汐、なんでも決めつけで判断するのは一番よくないことだぞ。これ豆知識な!」

放課後の現在、偶然にも廊下でばったり出くわした俺とミッチーは、共にロボ部のハンガーへの道のりに沿って足を揃えていた。あき穂はチャイムが鳴ってすぐ教室を飛び出したので、今頃はもうハンガーでガンつく1の整備でもしているのだろう。俺はついさっきまでキルバラのリーダーボード7位の相手と真剣勝負を繰り広げていたため、あき穂はいつの間にやら俺を置いて行ってしまっていた。まったく、薄情な幼なじみだよ。無事7位を倒したときあき穂の姿が見えないことに気づいた俺は少々急ぎ足で教室を抜け、そこから少し進んだところでミッチーに会ったのだ。ちなみにこの不良教師が今日ロボ部に来る理由を先程訊いてみたが、返ってきたのは「なんとなく」というなんだかだらしのない5文字だった。ほんと2年経ってもしっかりしないなあ。

「だいたいなんでアキちゃんじゃなく俺が愛人なんだか。性別的にはアキちゃんが妥当でしょ」
「瀬乃宮妹はなー、愛人って雰囲気はまったくないわな」
「じゃあ俺には愛人の雰囲気があるって?」
「さあなぁ。言われたからにはあるんじゃないか?先生にはよくわからんけどな」

そう言うとミッチーは快活に笑った。笑い方がやっぱりアメ社長によく似ている。この無責任教師め、というか愛人の雰囲気っていったいなんなんだ。まずホモと見られかけてるのも大問題だし…。こなちゃんは喜ぶかもしれないけど、こんな形で後輩を喜ばせたくないよ俺は。

「わかったぞ八汐!」

と、ここでミッチーは突然横を向き頭に電球のマークでも浮かべそうな勢いで何か閃いたことをアピールしてきた。なにどうしたの、とめんどくささを隠すのさえ面倒な俺は我ながらに低い声のトーンで問いかける。するとミッチーは人差し指を立てるお決まりのポーズで、ずばり、と話題を切り出した。

「お前のその気だっるそーな様子が愛人感を漂わせる要因だ!もっとシャキッとしてろシャキッと!」
「ええ…やだよ」

昴海未完(ロボノ)

「俺、セックスできないんだよね」

僕の一世一代の告白を受けた彼はそんなことを口にして、半笑いを浮かべながらひとつの恋を終わらせようと目論んでいた。ごめんね、という言葉の形に沿って彼の双眸は三日月を為している。ちなみにセックスができない理由は言えないらしいが、少なくとも彼にとってそれは死活問題に匹敵するほどのタブーである、と、今し方本人が説明していた。そして僕なのだが、僕は今、とんでもない苛立ちを覚えている最中だ。頭をかきむしりたくなる。八汐先輩、あなたやっぱりゲームの腕以外のありとあらゆるものがポンコツな人格破綻者ですよ。あなたは何もわかろうとしていない。いつも裏側のみを読み取ろうとして、つるりとした表面を見つめようとしないのだ。ふざけないでくださいという言葉を怒りで震えた声に乗せる。いつの間にか両手で拳を作っていたせいで握りしめられた手のひらに爪が食い込んでいるが、そんなこと今は実に取るに足らない瑣末だ。だからごめんって言ってるじゃない、などと普段通りヘラヘラしながら返してくる先輩を前に怒りは沸々と募っていくばかりで、思わずきっと彼を睨んだ。すると彼は先程以上に馬鹿にしたような笑みを顔に貼り付けて、しかし目は絶対に逸らそうとはしない。前にもこんなことがあったな、なんてぼんやりと考えたりもしたが、今回の結末は前とは違っていた。先輩のほうが先に目を逸らしたのだ。
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