あなたに好きって言ったらね、僕は今すぐ殺したいほど君のことを想ってるよ、なんて返されて。それもいいかもしれないけれど、俺が定めたゴールは「僕もだよ」っていうシンプルな一言だったから、ああまた失敗しちゃったんだなって思った。だから俺はすぐさまビルから飛び降りてリセットを謀ったわけだけどね、そのときのあなたの顔ったらたまんなくかわいかったなあ。ざまあみろ、と、嘘だろ、って。あなたは半分半分でそう思っていたんでしょう?わかりますよ、何年見てきたとおもってるんだ。
4月、また振り出しに舞い戻った俺は、いつもとなにも変わりない里中たちの話を聞きながらあの場所を目指した。まだかまだかと待ち望みながら。そうしていつもどおりに彼が視界に入る。相変わらず自身をぶちまけるあのひとは人間らしくてとてもすてきだった。彼は吐くときだけ人間に戻る。それ以外はなにか得体の知れない生き物のようだ、彼が人間らしく暮らしているつもりでもね。最初っから違和感だらけだったもの。今すぐ声をかけて愛を並べ立てたい衝動に駆られたけれど、そこはぐっとこらえてひとつのイベントを素知らぬ顔で通り過ぎる。だってここじゃふたりっきりになれないから。確実にふたりになるときまでおあずけを自分に強いた。
オレはただ田島の瞳の中に白球の幻影と等身大のきらめきを見つけてしまっただけであって、あいつがスキだとかコイをしただとか、ましてやホモだとかそういう単語たちとは至って無縁なままなのだ。そうだよな?頼むからそうだと言ってくれ。
(田花)
足立さんが俺のことを特別視しているかどうかが重要なので、好きか嫌いかという点は正直二の次なのだ。「でも君嫌いって言われたら泣くよね」「そりゃまあ、ある程度はショックですし。いけませんか」「いいよどうでも」
(主足)
「絶対に負けられないのよ、世界でジュードのこと一番好きなのはわたしなの。ジュードのために髪だって伸ばした、口調も変えた、おっぱいは育たなかったけど血が滲むくらいの努力はしたわ。ジュードは私の恋なの、人生なの、世界なの。あなたなんかに一番は絶対にあげない」
(めんどくさレイア)
「おまえのこと考える度に俺のチンコは爆発しそうになって何度も何度もおまえでオナニーしたさ。なあ、これって恋だよな?恋以外の何物でもないよな、なあ相棒、でも俺が必死におまえで抜いてたときおまえはそこらのエロ本とかAVで抜いてたんだよな、ああ、俺だけを見てりゃいいのに、ばかだな相棒、」
(主花/病み気味花村)
「俺思ったんです、正気でいるからつらいんだって。やっと気づきました。気が狂っちゃえばもう何もかも楽じゃないですか、今ここで大笑いしながら足立さんと仲良く死んじゃえればもう最高じゃないですか。ね、足立さん、なんで今まで気づけなかったんだろうね」「でも君はそれで幸せなの?」「え?」
(主足/あなたのせいでずっと飛べない)
「ユキは僕のこと好き?」「す、好きだよ」「お嫁さんにしたいの好きー?」「そ、う…だよ」「僕も!ユキのお嫁さんになりたーいの好き!」「…でも、できないしなれないだろ」
(うろ覚えあの花パロユキハル)
「好きだよ」「え?」「一回しか言わねー」「……」「えっおまなに、泣いてんの!?え!?す、好きだよ、何回でも言ってやるから!ほら泣くなって!」「ち、ちが、そうじゃなくてぇ、」
(ユキ夏)
俺がどんな気持ちで海を見つめるあいつを見つめていたかなんて関係ないという風に、久しぶりに会ったあいつはちゃっかり彼女なんてものを作っていた。悲しみに任せて釣りをしていると目から海が流れてくる。俺はこの先もずっとあいつが好きなんだと思う。だってあいつ、俺にごめんって言ったのだ。
(ユキ夏)
「君はいつまでこのモラトリアムに逃げるつもりだい?これが終わったって君はまだ猶予される側に居座り続けられるじゃないか」「でも、俺は足立さんと幸せになりたいんです」「幸せって?」「足立さんを俺の手で助けて、そうして二人で嘘みたいに平和な1年を過ごしたいんです」「はは、平和ねえ」
(厨二主足)
世界が変わるだとか恋をするだとかあなたが好きだとかそういう感覚がよくわからなかった。俺の表面を滑る世界はもしかしたらずっと白黒で雑音に溢れていたのかもしれない。でもいま、世界は極彩色で、しんとした不確かな時間がぽつりとそこにあるのみだ。だってキスした、いま、夏樹とキスした!
(ユキ夏)
静まった格技場の中でふと目が覚めた。いまだぼけている視界を晴らすためごしごしと目をこすり、今はいったい何時かと思案する。周りのやつらの発する微かな寝息から察するに、まだ起床時刻には到達していないだろうことは想定できた。しかし今から寝直すのも微妙か、と考えつつ仰向けの体を横にしたとき、不意にオレの姿を捉えるひとつの視線が目に入る。それの送り主はなんと、斜め後ろあたりに場所をとっていた田島だった。わけもなく心臓がどきりと跳ねる。いつ起きたんだとかいつから見てたんだとかなんでこっち見てんだとかいろんな思考が頭をぐるぐるぐるぐると実に忙しなく回り、意を決してなんだよと言葉を口から押し出してみせると、田島は特有の眼力でしばらくオレをじいーっと見つめてきた。こいつのこういう目を正面から受けるのはやっぱ苦手だ、どうやっても圧倒されてしまう。そうして意味がわからんくらいにオレを見つめたおしたかと思えば、やがて田島は徐々に俯き始め、
「ぶはっ」
なぜか吹き出した。なんでだよ。直後に顔洗ってくるとか言って立ち上がった田島の顔はなんだかまだにやけている。何がそんなに面白いんだとただただハテナを浮かべるしかないオレだったが、上体を起こし伸びをした瞬間にはっと閃いてしまった。もしかして、オレの寝顔が吹き出すほど間抜けだったのか?そう考えてしまうとやけに恥ずかしくなって顔に熱がぶわっと集中する。くそー田島め!おまえだっていつもアホみたいな顔で寝てるくせに!
花井の寝顔がかわいすぎて笑うしかないの会
「おとうさんもうおしごと行かなくてよくなったんだって!だから菜々子ね、これから毎日おとうさんとジュネスいくんだ。それでね、お兄ちゃんともいっしょにいきたいんだけどね、菜々子がはなしかけてもお兄ちゃんはずっとずっとないてるの。お兄ちゃんジュネスいこって何回いっても、お兄ちゃんは菜々子のおっきなしゃしんのまえでじっとしてるだけなの。なんでお兄ちゃんはないてるの?かなしいことあったのかな。菜々子、お兄ちゃんがないてるのみたくないよ」
ちいさな女の子が目に涙を浮かべてこっちを見つめている。もうこれが何度目になるかなんて、そんなことはすっかり忘れてしまった。当たり前だけど君はいつまで経っても変わらないね。ちいさくてかわいいみんなの菜々子ちゃんのままだ。
「君はいつまでも僕を加害者の位置に留まらせるんだね」
「…なに?」
「うーん、菜々子ちゃんはかわいいねって話だよ」
かわいいかわいい菜々子ちゃん。しっかり者の菜々子ちゃん。不幸にも事件に巻き込まれ命を落とした、悲運な堂島菜々子ちゃん。僕の記憶の中にちいさく、でも確実に残り続ける小学1年生の女の子。彼女の姿を目にするたび胃がキリキリと痛んで、喉の奥がじわりと熱くなる。