足立+菜々子未完(P4)

なんでもないのに涙が出るのはなぜなんだろう。例えばジュネスで買い物してるときとか、外で見回りしてるときとか、きれいな満月の日だったりとか。一人ぼんやり月を眺めて涙する20代後半の男って絵面的にどうなんだろう。少なくとも我が家のポストに婚活のチラシが舞いこむくらいには寂寥感溢れる構図であることは間違いない。でもべつに人肌に焦がれているわけでもなくて、ただなんでか知らないけど本当に自然に、ほろりと涙が零れ落ちる。突然のことだから自分でも予測できなくて非常に困るんだよなあこれが。月がきれいってだけで泣く理由なんかどこにもないのに。あ、そういえば今日はジュネスのキャベツが安いんだった。早く買いに行かないと売り切れる。あ、ほらまた涙出た。

「…なんにもないのに、ないちゃうの?」

あんまりにも迷惑なこの症状にそろそろ頭が痛くなってきたある日。堂島さんちの酒をありがたく頂戴している最中に、ちょうど傍に菜々子ちゃんがいたから、なんとなく悩みを打ち明けてみた。こんなの同僚とかに相談すんのも面倒だし、小さな子ならこんな話すぐ忘れるだろうと思ったから。しかし僕は自分でもびっくりするくらいには誰かに悩みを打ち明けたかったらしい。ばっかみたいだ、人と人との触れ合いなんてぬるま湯に浸かる気なんてさらさらなかったってのに。我ながらちょっと滑稽で笑える。

「かなしいことも、うれしいこともないのに、ないちゃうの?」
「うん。なんもないのにさ、泣いちゃうんだよ。変でしょ」
「んー…」

朋←杏←陽(CLANNAD)

まるい紫は悲しみに暮れているらしかった。すんすんぐすぐす、まるで泣いているかのような擬音がその紫から聴こえてきて、自分の耳を疑いながらその顔を覗きこんでみれば、信じられないことに、いや案の定、そいつは泣いていたのだ。きれいな薄紫を赤に染めて、つり上がっていた眉をめいっぱい下げている。ふんぞり返っているいつものこいつの面影は、この姿には見出せなかった。そんな短いスカートで三角座りなんかしたらパンツ丸見えだよ、なんて言葉も今のこいつにはそよ風程度のものなんだろう。いつもなら辞書投げつけて顔真っ赤にして怒るのにね。

「なんかあったの」
「……」

いちおう訊いてみるも、予想通り返答はなし。まあ人間話したくないことだってあるだろう。僕にだってたくさんあるし、あいつ、岡崎にだって、きっとたくさん。今日あいつ嬉しそうに女子と帰ってたよ、僕になーんも報告しないでさ。なんてことこいつに知らせたらどうなるかな、泣くかな?ああいや、もう泣いてるんだった。ってことはもう知ってるんだね、あいつが女子と帰ったこと。それで泣いてたのか。なるほど合点がいった、と一人で納得してうんうん頷いている僕に、不意にかけられる涙声。

「陽平」
「なに」
「あたしって、バカなのかな」
「なんでさ」
「だって、何年もずっとこんなこと続けてさ。あいつのために泣いても、あいつがこっち向いてくれるわけないのに」

ひどい声だな、どっかの猫型ロボットみたいだ。あとバカだ。かなりのバカだ。僕よりバカだ。もう救いようがないね。おまえが泣いてるのひた隠しにしてるからあいつは気づかないんだよ。何年もそんなこと続けても諦められないくらいあいつのこと好きなんでしょ、じゃあ女の特権駆使して色気でも涙でも使えばいいのに。おまえはいつまで経っても動かないんだ。あ、ねえ杏、ところでさ。

「おまえさ、ボンバヘ好きの金髪野郎って好き?」
「全ッ然タイプじゃない」
「だよねー」

ほら、どこまでいっても一途でさ。やっぱりおまえはバカだね、大バカだね。こんなに素敵な僕に告白されてるのにすっぱり断っちゃうんだから。

主足(P4)

うう、気持ち悪い、きもちわるい。胃の中で台風かなんかが渦巻いてるみたいだ。喉にも違和感とか不快感とかがぐるぐるぐるぐるぐーるぐる。この状態を明確に言葉で表すなら、まさしく吐き気という3文字だろう。とにかくもう、気持ちが悪くて仕方がない。死んだほうがマシだこんなの。今だけ死んでたい。いや、これから先も死んでたいかも。だってもう疲れちゃったよいろんなことに。目ぇかけてやってた女子アナはただの尻軽ビッチだったし、エンコー大好き女子高生には全力で拒否られるし、挙げ句の果てにゃあどうだ、イケメン(笑)男子高校生(性格に難ありまくり)に求愛される始末。そりゃ吐き気も起こるわ。う、むり、家帰るまで抑えられなさそう。ちょうど道の端に溝あるし、そこに吐いちまおうか。それとも目の前のこいつのお綺麗なツラに吐いてやろうか。せんせー、僕は後者がいいと思いまーす。よーしよく言った足立くん、じゃあこいつに僕の全部をぶちまけちゃおうか!こいつも僕のことが好きって言うなら、僕が一度咀嚼した食物たちを顔面に浴びれるなんてこれ以上ない幸せだと思うことだろう。うえ、限界だ。ああ、くそ、こいつに届かない。がくりと膝から崩れ落ちて地面に手をついた僕を見下ろすそいつの顔は、相も変わらず上品に整ったままだった。なんて憎たらしくて不気味なクソガキなんだろうか、貼り付けていた笑顔さえもそのままだなんて。

「吐いてるところも素敵ですね足立さん」

いやだこいつやっぱりきもちわるい。僕は胃の中にあったほとんどの食物を道端に撒き散らした。

主足未完(P4)

まどろみの中で君を見た、ような気がする。でも手を伸ばす自分が君の瞳の中に映って、すごくすごく滑稽だったから、僕は君を追いかけようとはしなかった。そんなへんな夢。どうせなら君が無様に野垂れ死ぬ夢とかが見たかったんだけどなあ。ああでも夢で誰かが死んだらその人は長生きするって言い伝えがあったっけ。長生きなんてされちゃ不快極まりないな。じゃあ君が90歳ぐらいになってもまだ生きてる夢を見ればいいかな?そしたら逆に早死にしたりして。

「足立さん」

花千枝未完(P4)

ディア、ディアラマ、ディアラハン。いつもいつも戦闘中に耳を包むあいつの呪文。いいなあ回復呪文使えるの。あたしも回復したいのに。あ、どかばき。いたた殴られた。

「ディアラマ!」

ぽわーん、擬音で表すとそんな感じ。あいつが魔法の言葉を唱えたとたんに、あたしの傷はすぐ癒えた。あ、回復してくれたんだ。意外に周り見てるよなあこいつって。

「あんがとー!」
「あとでビフテキ奢れよー!」

うわ、なんとがめつい男。そういうとこがモテない原因なんだよ。なんて白い目線を送っている場合じゃない、今は戦闘中だった。って、うお、また殴られたよ。

「気ぃつけろよ里中!」

ディア、また聞こえる呪文。そして癒えるあたしの傷。…うん、あたしけっこうあいつに迷惑かけてるかもしれない。今度ビフテキぐらいは奢ってやろう。
こんな風に過ごしていって、日が暮れて。帰り道で落ちていく太陽を眺めているとき、ふと隣の花村が呟いた。
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