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キーボと王馬(論破V3)

「ねえキー坊、ちゃんと元に戻してあげるから一回だけバラしていい?オレ等身大ロボット組み立てるの夢だったんだよ」
「嫌に決まってるでしょう!ここから出たら絶対に訴えますからね王馬クン!」
そうやって彼に過剰なロボット差別を受けていたのももはや懐かしくなるほど遠く朧気な記憶になりかけている。中空を翔けながら箱の中の玩具のようにそこにあった校舎を思い、静かな思考回路の中でボクはじっと考えていた。今、その建物は瓦礫と化してボクの真下に散らばっている。そして瓦礫の中にひとつ、見覚えのある機械がぽつりと鎮座している。生命の残り火が流れ出すとても大きな機械だ。
王馬クンがプレス機に圧されて死んだと結論づけられた瞬間、ボクはあの凶器となった機械の天井を思い出していた。迫る天井はボクの命などないもののように無慈悲に帳を降ろしに来る。あの光景を彼も見たのだなと、そう思った。ボクをバラすどころか、キミは実体すらなくなってしまいましたね。
腕に力を込め、プレス機に向けてランチャーを放つ。それは粉々に砕け散って瓦礫のひとつになった。

王馬とゴン太(論破V3)

窓の外を眺めていると、珍しい虫さんがぴょこんと草むらを跳ねるのを見かけた。あの虫さんとは前に会った時あんまり仲良くなれなくて寂しかったから、今日は仲良くなりたいな!そう思って、急いで窓を外して外に出た。草むらの近くに駆け寄ってさっきの虫さんを探す。小声で虫さんを呼んでみるけれど、恥ずかしがり屋さんなのかなかなか出てきてはくれなかった。
「おい、ゴン太!」
急に後ろから声をかけられてすごくびっくりしてしまう。振り返ると腰に両手を当ててとても怖い顔をしている王馬君がゴン太を睨んでいた。どうしよう、見つかっちゃった!
「ごめん王馬君!窓の外に虫さんが見えたから……」
「はあ?お前ってやっぱり脳みそスカスカのバカだよね。オレ前に言わなかったっけ?このシェルターにはもうオレとゴン太以外の動物はいないんだって」
そうだった。ここにはもう虫さんはいないんだった。そもそもゴン太達がここにいる理由は、有毒ガスや隕石のせいですごく危なくなった外の世界から一時的に避難するためだ。危ないから一歩も部屋から出るなって言われているから見たことはないけど、ここではとっても大きな空気清浄機が回っていて、それは虫さんにとってあまりいい空気じゃないらしい。だから虫さんはもうこのあたり一帯にはいないんだって王馬君は前に言っていたっけ。じゃあさっきの虫さんはただのゴン太の見間違いなのかな。確かに見たと思ったんだけど、王馬君がいないって言ってるんだから、いるわけがないのかな。
「あのさあ、ゴン太。お前頭だけじゃなくて目まで悪くなって、そんなので外の世界の復興なんか手伝えると思うか?もし外なんか出ていってもお前は一生みんなの足手まといだよ」
「ええっ、それは嫌だよ……!」
「だろ?」
王馬君の目元が優しくやわらぐ。ゴン太を見る王馬君の表情は森の家族みたいに柔らかくて暖かかった。でも何か冷たいような生温いような、不思議な温度にも感じられる。ああ、うまく言えない。ゴン太は本当にバカだなあ。
「いいか?みんなの足を引っ張りたくないなら、絶対にここから出ようなんて思うなよ。ここじゃないとお前は生きていけないんだからな」
ゴン太に言い聞かせるように王馬君はそう言った。でも、ずっとここにいて王馬君に迷惑をかけ続けるわけにもいかない。それにゴン太は早くこの世界のみんなのことを助けたいんだ。だから王馬君の優しさは本当に嬉しいけど、ゴン太は絶対にここから出ていかなくちゃいけない。よし、ゴン太はここで紳士になる準備をしよう。それが今のゴン太に出来る唯一のことだ。
「王馬君!ゴン太は早く紳士になって、外のみんなを助けられるように頑張るよ!」
「……お前結局全然話聞いてないじゃん」

百王(論破V3)

「百田ちゃんはさ、なんでそこまでバカみたいに人を信じるわけ」
『そこ』に寝そべりながら、王馬は細い声でオレにそう問いかけてきた。振り返ってその表情を窺うと苦しげに寄せられた眉間が皺を作っている。青ざめた頬の血色は悪いなんてもんじゃない程の色で、それは確かにもうすぐ死ぬ人間の顔だった。
「人間なんて嘘ついて当たり前じゃん。キミの大好きな最原ちゃんだって、相当嘘つきだよ?信用なんてしても嘘で裏切られるのが普通なのにさ」
「そこまで何かを信じられるのって、やっぱりキミの長所だよね」
そう言って王馬は薄く口角を上げた。こいつから褒め言葉まがいのものを投げられると思っちゃいなかったから面食らってしまう。絶対にこの言葉も嘘なんだろうとは理解しているが、ただ王馬の目は意外なほど真っ直ぐにこっちを向いていた。
「あーあ。せめてキミが一番に死んでくれてればなあ」
言って、王馬はオレから視線を外しゆっくりと目を閉じる。かなり毒が回っているのか、語尾はほとんどかき消えるようにか細かった。
「……オメーの長所は嘘の上手さだな」
「それにどれだけ悩まされたかわかりゃしねえよ」
簡潔に、それでも身の丈を越すほどの実感を詰めて王馬にそう返す。そしたらそいつはいかにも嬉しそうに、呪いじみた笑顔で幕切れを示した。
「オレ、勝ち逃げって大好きなんだよね」

キーボ(論破V3)

ボクがまだ自我を持って間もない頃、研究所で一匹のハムスターが飼われていた。博士は朝と晩にこの子に餌をやるようにとボクに言いつけていて、ボクもその教えをしっかりと守っていた。生き物の世話をすることでより豊かな感情を学べるようにという博士のねらいだったのだろう。
ある日、いつもどおり餌をあげたのに、ハムスターが普段のように小屋から顔を出さなかった。どうしたのだろうと小屋を持ち上げてみるとハムスターは丸まったまま微動だにせず、手のひらの上に乗せても何の反応も示さない。きっと充電が切れてしまったのだろう、ボクも充電がなくなると動けなくなってしまうからよく分かる。そう思いながら博士のところまで駆け足で向かった。忙しなく何かの機械を操作していた博士に声を掛け、ボクは「ハムスターの充電をしてあげてください」と言った。すると博士はとても寂しそうな顔で微笑んで、ボクの肩をそっと掴む。瞳の奥がとても優しかった。
いいかいキーボ、どんな命にも等しく終わりというものがあるんだよ。
そう切り出した博士はボクに命について教えてくれた。生き物の寿命や命の尊さ、ボクも博士もいつかは平等に死ぬのだということ、他にもたくさんのことを。話を終えた後、ボクと博士は研究所の裏庭にハムスターを埋めに行った。何だか不思議な気持ちです、とボクが呟くと、博士は「涙腺もつけるべきだったな」と申し訳なさそうに眉を下げていた。
「と、いうことです!どうですか、これで分かったでしょう!ボクはそうやって皆さんと同じようなプロセスで倫理や感情を学んできたんです!ですからボクをロボットだからといって差別するのは確実に間違いなんですよ、王馬クン!」
「ふーん。で結局ロボってチンコついてるの?」
「あなた本当に最低ですね!!」

龍シャロ(大逆裁)

雑貨屋を見に行こうと屋根裏から降りてくると、ちょうど降りた場所に立っていたホームズさんに首根っこを掴まれた。突然何なんだとかワガハイと同じ扱いなのかとか考える暇すら与えられずソファに引きずり倒され乗し掛かられる。彼はぼくの首筋に頭を埋めて大きな大きな息を吐いた。しばらく出方を窺ってみたが、そのため息以外の行動がなかなか起こらない。何が何だかまったく分からないがとりあえず早くどいてくれないだろうか。全身の力を抜ききっているのか重くて仕方がない。
「ホームズさん、なんなんですか」
背中を叩き声をかける。しかし大した反応は返ってこなかった。もう一度呼んでみるけれど、いかにも気だるげな唸りがひとつあげられるのみだ。しばらく不毛な抵抗を続けていると、やがてようやくその顔が重たげに上げられた。眉をこれでもかと寄せた不機嫌そうな表情は、まるで今のぼくの鏡のようである。人を引き留めておいてこれとは何という自由人なのか。
「静かにしたまえ、ミスター・ナルホドー」
「そうして欲しいならまずどいてください」
肩を押しながらそう告げるがこの体重から解放される気配はまだ感じられない。ホームズさんはまた大きなため息をひとつついて、なあ、とぼくに対して投げやりに言葉を放した。
「ボクを褒めてくれよ」
「……は?どうしてですか」
「何だっていいじゃないか、そういう気分なんだよ。とにかくボクのことをてきとうにアメイジングだとでもミラクルだとでも言って盛大に褒め称えてくれよ」
先刻までも充分訳が分からなかったけれど、口を開くとさらに訳が分からない。ぼくが彼の言うことをきくまでは梃子でも動かないつもりだということぐらいしか今彼から察せられることはなかった。退屈そうに口を尖らせるホームズさんを見やりながらさて参ったぞと胸中で呟く。ホームズさんがぼくに何を求めているのか見当すら付かなかった。褒めてくれと言われても、何をどう褒めれば良いというのか。
「……最近何か良い事をしましたか?」
「おっと、ボクから何かを提示したりはしないぞ。それにボクの思う良い事がキミの思う良い事とも限らないしな」
「"のーひんと"ですか……」
呟けば、ホームズさんが投げやりな笑い声をあげた。憂鬱そうな瞳がぼくを見つめているが、位置の影響で上目遣いになっている。普段は見下ろされるばかりなのでなかなか新鮮な光景だなとぼんやり考えていた時、ふとその青い目に意識を奪われた。彼やアイリスちゃんと目が合う度不思議に感じるのだが、どうして西洋の人々の瞳はこんなに飴玉のような色をしているのだろう。目の前のそれに吸い込まれるような錯覚を覚えながら、ホームズさん、と彼を呼んだ。青が微細に開かれる。
「目が綺麗ですよね」
言った瞬間、ホームズさんの瞳は丸く開かれ、より飴玉に近づいた。驚いているらしいその様子に言葉を間違えただろうかと冷や汗が滲む。しばらく彼の出方を待ち、この状況をどうするか、ああそろそろ昼ご飯の時間だな、などといろいろな思考を浮かべ、そうしていうるうちにホームズさんはついに沈黙を破り盛大に吹き出した。あっはっはっは、と実に楽しげに腹を抱えて笑われてもこっちは対応に困るばかりだ。
「やっぱりキミは飽きないなあ!いや面白いな、退屈も吹っ飛んじまった!」
「それは何よりですが……」
「シンプルだがなかなか良い口説き文句だ。妙齢のレディにでもなった気分だよ」
口説き文句。そう形容されて、ぼくはそんなに恥ずかしい事を口にしただろうかと狼狽える。ホームズさんは満足げな表情を浮かべながらようやく起き上がり、ああ良い気分だ、と呟くとぼくの居るソファの向かいに座った。キセルを手に取りマッチで葉に火を付ける。きちんと座り直しながら、煙が立ち上ぼり空気に融けていく一連の事象をただ眺めた。彼の目はすっかり輝きを取り戻しているのでおそらくぼくは彼にとって正当な対処が行えたのだろう。そう納得して、今度はぼくが長く深いため息をついた。
「さて、暇潰しをさせてくれた礼にチップを弾もう。もっとも昨日のポーカーでキミからぶんどった分だけどね」
「……まあ、返ってきて良かったですよ」
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