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ジュアル未完(TOX)

ジュミラ前提
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僕の脳裏でいつも展開される、きっと僕だけしか知らない小さな三文芝居は今日も微量の曖昧を含んで世界を指し示した。それは僕の脳のスペースを間借りした小さな劇場の上、天井に描かれたひとつの星座。あれは僕の星たち、僕の世界だ。僕はその世界を彼女と呼んだ。空でも海でも大地でもあった彼女はいつだって僕を惑わせ、しかし僕を導き正し信じられないほど美しく笑うのだ。ぴんと張った線を点と点の橋として貫ききらきらと光り輝く世界は僕の瞳の表面をひんやりと撫でつける。ああきっとずっともう大丈夫。彼女というきらめきさえあれば僕はもう迷うことがない、この夜に包まれていたって暗闇に足を掬われることはないんだ。根拠を愛さなくてはならない立場に居座っていた僕はそういう風に理屈の禁忌へと逃げこみ、眩い光に縋った。継ぎ接ぎだらけの想いを持ってただ立ち尽くしているのはきっと楽で仕方なかったんだろうね。だってそこにいさえすれば世界は手を引いてくれた。僕は実に無力で臆病で、いつだってどこか物悲しい男だ。でも確かに彼女を愛していた。不出来な言葉になるけれど、それはほんとうに確かだった。
彼女に依存するような形さえ為していた僕は、ある時とても大きな罪を知った。僕がゆるすか、それとも終わらせてしまうか。選択権はこちらが握っていた。

ジュアル未完(TOX)

「アルヴィン、僕のこと好きでしょう」

ふ、と瞳の奥で魚が泳いだ。不動の茶色がゆらゆらと揺れている。僕にとってこの問いは限りなく確信に近い賭けだった。触れた手の温度、計れない距離、紡ぐ言葉の節々。それら少しずつから検出された淡い違和に、僕は勝手に名前をつけただけ。しかし間違えている気はさらさらしないのだ。アルヴィンは恐らく、いや、きっと僕のことが好きだ。現に彼はいま揺れている。もうこれは、僕にとって肯定と言っても大丈夫なくらいだった。

「そりゃあ、好きだぜ?」

仲間なんだから、と取り繕う彼の声は掠れている。

アルレイ未完(TOX)

拝啓アルヴィンへ。お元気ですか?わたしは相変わらず元気です。前置きに書けることもないのでさっそく本題に入るね。実はわたし今度ひとりでエレンピオスに長期旅行することになったんだ!アルヴィンはいま仕事でエレンピオスにいることが多いって前の手紙に書いてたよね?もしかしたらそっちで会うかもしれないね。わたしのこと見かけたらちゃんと声かけてね!

とりあえずの行き先はトリグラフだと手紙には記されていたので、俺は自分でも驚くような素早さで荷物をまとめ汽車へ乗り込み一直線にそこへと向かった。ああユルゲンス、トリグラフの近くでの仕事に俺を配属してくれてありがとう。仕事仲間に勝手な感謝の意を述べ、車窓から見える愛着の根付いた街に想いを馳せる。ああ、もうすぐ到着だ。
あいつももうガキという一言で頭を押さえるには手が足らないくらいの年頃だとは思うけれど、正直俺の視界に映るレイアはまだ子供という括りの中の一端であるのだ。だかららしくないことは重々承知だが妙に不安を覚えてしまう。性格上空回りや無茶をしやすい娘だから特にだ。


供養

ジュアル未完(TOX)

抵抗を試みる両手の力はさすが傭兵だけあって煩わしいぐらい強い。20cmほどの身長差がある僕らだ、普通なら小さい僕の不利でアルヴィンの圧勝という結末に終わるだろう。しかし残念ながら、僕は人が触れられると弱い箇所に詳しい。とりあえず、とぎりぎり爪が食い込むほど力強く彼のそれと相対していた両手の右だけをさっと離し脇腹を突いた。彼は完全に油断していたという体で、うひゃだかなんだかよくわからない声をあげた。その際に力が弱まった瞬間を僕は逃さない。即座に彼の両手をシーツへと叩きつけるように押しつけた。一瞬顔を歪めたアルヴィンは、卑怯だろ、と年甲斐もなく怒っている。

「べつに正々堂々といこうとは言ってないよ」
「それでもおたく、こういうのには同意ってもんが必要で」
「同意ならさっきしてくれたでしょ」

はあ?なんて間抜けな声を出す口は手で塞いでしまった。必死に喋ろうとしているアルヴィンの息が手のひらにかかってちょっとくすぐったい。じたばたと暴れることをやめようとしない手と足をのしかかるように押さえつけておくのも少し疲れてきた。特に手なんかはいま片手で彼の両手を封じているわけだからかなり骨が折れる。僕は上体を前に倒してずいっとアルヴィンの顔に自らのそれを近づけた。鼻同士が触れるような距離に、アルヴィンの動きがぴたりと止まる。大人しくなった彼を前に、僕は薄い赤を見つめながら静かに呟いた。

ジュアル未完(TOX)

「星がきれいだったんだ。だから夜が嫌いだった」

切り取られた壁にはめこまれたガラスの向こうで彼の嫌いが瞬いていた。闇のように空を覆いつくす色に散り散りと添えられたそれら。確かにすごくきれいで、だからこそ僕は彼が放つ言葉の意味を汲み取れずにいた。きれいなものをきちんときれいと感じているなら、嫌う理由なんてないはずだ。なのに彼はベッドシーツに爪を食い込ませる。窓の外に視線をやる気は彼にはないらしかった。僕は彼の分も、なんていう都合のいい解釈を用いて果てしなく続く夜を見ている。いつか夜をテーマにした詩集を読んだのを思い出した。その中の詩には決まり文句のように、美しいという単語が使われていたことも。
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