ジョナディオ未完(ジョジョ)

「愛してるよ」
降り落ちる金の価値をお前は考えたことがあるか?ないよなァ、だってお前の手元にそれはいつも散らばっていたんだから。お前は恵まれた環境で、金と共に育った男だ。欲しいものはなんんでも買ってもらったんだろ。時計だって犬だってなんだって、ばらばらばらばら降ってくる。おれの周りの金はいつも舞い上がってゆくばかりで、おれが跳びでもしなければ掴めやしないのに。つまりお前とぼくの価値観ってのは天と地ほど違うんだ。もちろん跳んだおれが天、ただそこにいるだけのお前が地だぜ。おれが天に立ったからにはもうお前に価値を降らせたりはしない。だからその言葉だってお前にとっては最大級の愛の表現なのかもしれないが、おれには道端の糞程度の価値しかないんだ。なにが愛だ、本当にお前はばかばかしいことしか言わないんだな。
「それをわざわざぼくに言ったってことは、ぼくに愛されたいってことかい」
「よくわからないけど、そうかもしれない」
「じゃあ君、金になってくれよ」
「え?」
「…いや、なんでもないさ」
おれは将来大金持ちになる。そのためにはたくさんの策略を練らなければならない。こんなやつに構っている暇も惜しいくらいに、時間がないのだ。ジョジョから奪った時計がかちかちと秒針を進めている。どうして人生は100年ぽっちしかないのだろう。こいつとくっちゃべっているだけで100年が終わったらどうしてくれるんだと、考えるだけで指先がかゆくなった。
「すまないけれどぼくは君のことをなんとも思っていないよ」
「…そうかい」

ジョナディオ(ジョジョ)

「男性に告白されたんだ」

学校からの帰り道、夕暮れの橙に染めあげられたジョジョは突然そうやって沈黙を破った。へえ、ああ、そうかい、という風な間の抜けた返しがうっかり口から漏れ出てしまう。こんな男くさいやつに告白をする『男』だなんて、そいつの顔を一度拝んでみたいものである。だいたい見つかったら即刻牢屋行きだというのによくやるもんだ。これだから自分の立ち位置が見えていない阿呆は人生を持て余すんだよな。おれの巡らせる思考など知る由もないという様子でなんだかひどく照れたような困ったような顔をしたジョジョは、すこし眉を下げながら頭を掻いた。

「それで、彼には申し訳ないけれど、断ろうと思っているんだ」
「ああ、うん、賢明だ」
「でもどういう風に断ればいいのかよくわからなくて」

本当に途方に暮れたようにジョジョは重いため息を吐いた。肩を落としてしょぼくれているせいで最近いやに大きくなり始めた図体がいつもより小さく見える。それを見て、ああこいつはこういう奴だよな、と漠然と思った。ジョジョの困惑の理由の一つとして考えられるのは、こいつの恋愛経験の浅さだ。エリナの一件から、こいつには浮いた話がまったく見られなくなった。女性との経験さえ幼少期の一度きりしかないのだから、突然男とくればそりゃあ戸惑うに決まっている。 そしてこいつは変に優しさとかいう不必要なものばかり持ち合わせている奴だ。わざわざ同性に告白なんてする勇気を出した相手に対しての向き合い方をいま必死で考えているんだろう。吐き気のする甘さだ、ああジョジョ。おまえのそういうところ大嫌いなんだ。

「じゃあぼくが代わりに断ってきてやるよ」

そう言ってやると、ジョジョは予想外だったんだろうこの言葉に目を丸めていた。べつにこいつが困っているから助けてやろうとか、そういう魂胆はまったくない。むしろ目的はこいつの良心に取っ掛かりをつけてやることなのだ。おれが断りに行くという行為は、おそらく奴の紳士としての誠意に反することだ。案の定ジョジョはぼくの提案を断ったが、もう奴が断ろうがぼくの意志は決定してしまった。幸いジョジョに告白してきた馬鹿ってのはぼくらの所属するラグビー部の先輩だ。接触する機会はいくらでもあるんだよ、残念だったなジョジョ。どこか不安そうな奴の横顔を尻目に、ぼくはいま最高に素晴らしい気分に酔いしれていた。おまえを陥れるのって、どうしてこうも愉快なんだろうな。ああ口元が緩みそうだ。

夕闇が1日の終わりをがなり立てる。気が狂いそうなほど予定調和な空だ。ぼやけるジョジョの幻影が、ぼくに向かってにこりと笑った。まぼろしでもおまえは甘ったるい奴だよな。バカみたいに曲がりやしない。なあジョジョ、ジョジョ。おまえ知らないだろう。おれが男に無理やり抱かれたことなんてさ。相手はおまえに告白してきた、あの輩だよ。あいつおまえのことを女役として組み敷きたかったらしいぞ。ますます滑稽だよな、おまえみたいな奴をどうやって組み敷くっていうんだ!結果としては相手は誰でもよかったらしく、このおれがめちゃくちゃに抱かれたわけだが。なぜ逃げられなかったかって、あの男はおまえと同じくらいの図体だったし、屈辱的なことにまだ成長途上であるぼくがけっこうな体格差と力のある男から逃げるのは口惜しいが至難の業だったからだ。幸いと言うべきか、そういった屈辱的な経験はロンドンのドブにいたとき少ししていたからまだある程度の許容はできたが。しかしさこれって、ああ、ジョジョ。とんでもない悪だよな。常に正しくあろうとするおまえの忌むべき悪そのものだよな。おまえの正しさはおまえがなんにも知らないまま、おまえが引き起こした悪に負けるんだ。このディオの完全なる勝利。おまえは敗者で、おれこそが1番だ。そしておまえは、そのことに死ぬまで気がつかないのだ!そう思うとおれはもう興奮して、馬鹿みたいに興奮して、汚らしい男を気絶するまで殴りつけてからなぶり倒された自らの体を抱きしめ、懸命にその性器を擦った。突っ込まれているときよりももっとどうにかなりそうで、意識が吹っ飛びそうなほど気持ちがよかった。やがて放たれた混沌を眺めながら、おれはぼんやりと思考したのだ。『正しさ』なんてくそくらえだと。

「ディオ!」

なんにも知らないジョジョが道の先でおれを呼んでいる。今行くよと投げ返した言葉の裏に、たっぷりの憎悪を詰め込んだ。ああ、愚直なおまえの息の根を、この手で止めてやれたなら。最近そんなことをよく考えている。


ちょっとキャラぶれてしまって猛省

ジョナディオ未完(ジョジョ)

「毎回中に出すの、止してくれないかい」

情事が終わってすこし経った時、シーツの上で寝そべるディオがぼくに背を向けながらそう言った。彼のために持ってきたぼくの手中にあるコップの中の水がほんのすこしだけ揺れる。とりあえずベッドに腰かけて彼に水を持ってきたと伝えたが、彼は「そこのテーブルに置いておいてくれ」とそっけなく告げるばかりでぼくの顔を見ようとはしなかった。仕方がないのでベッドの真横にある小さなテーブルにコップを置いておく。程よく筋肉質でたくましげな白い背中はコップがテーブルに着地した音を聞き届けてから新たなる台詞を吐き出した。

「後処理にけっこう骨が折れるんだ。だからって面倒くさがって放っておけば腹を下す。とんだ爆弾さ」
「…それはすまないと思うよ」
「だろう?じゃあ次からこういうことは無しにしてくれよ。君がどういう心情でぼくの中に出してるのかなんて知ったこっちゃあないが、少なくともぼくは君の新婚生活の実験台になるのはごめんだぜ」

ははは、とディオは皮肉めいた笑い声をあげる。ぼくは彼が手繰り寄せるシーツの皺をじっと見ていた。ぼくはべつに未来の妻とのそういう行為をシミュレーションしたいわけではなく、ましてやそのほうが気持ちがいいからと中に出しているわけでもない。ただ事情はひとつあるのだ。ぼくが悪いと感じながらも毎度毎度ディオの中へ出す理由が。しかし理由が理由なので、すこし言い出しにくくはある。流れるような彼の金色を目で梳きながら、この言葉を紡ぐべきかとしばらく逡巡した。そこでふとテーブルに置いたコップのことを気に留め、そこにやった視線の先で一向に減らない水量を確認したとき、ぼくは言葉を紡ぐ決意をした。

「だって君、ぼくが外に出そうとして抜こうとする度、すごく強く爪を立てるじゃないか」
「……?」

上体を起こし、きょとんとした顔でディオがぼくのほうを向いた。本当に珍しいくらいきょとんとした顔をしている。やっぱり無意識だったのか、と思わず肩を落としてしまった。
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