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びっくりした。それはもうびっくりした。心臓が止まりかけた。そんなにびっくりするようなことでもないのに、目ん玉飛び出しそうにさえなった。理由は、ただ、後輩の笑顔が思ったよりも可愛かったってだけ。中学時代にさんざん見てきた、むしろ中学時代のほうが無邪気で可愛らしかったそいつの久しぶりの笑顔が、こんなにも俺を驚かせる効力なんて持ち合わせていないはず。なんだが、20代男の笑みにしてはまあちょっと幼いかなと思うぐらいのそれに対して、こんなにも動揺している自分は確かに存在しているわけだ。それは変えられない事実であるわけだ。照れくさそうな、しかしながらやたらと嬉しそうな後輩の笑顔が、頭の中を巡回している。首の後ろを掻きながら、擬音で表すとにへら、といった風に。他愛もない日常会話での、ほんの少しの表情の変化。そこに揺さぶられる自分の網膜にはもはやクエスチョンマークを浮かべるしかないんだが。だが、真実を追うとすると、金色の髪が揺れて、グラサン越しに目を細め、口元を綻ばせた後輩はやっぱりなかなかどうして可愛いものだったさ。女から見たら『きゃあ可愛い』って叫びたくなるだろうぐらいには。
うぜえ。ああうぜえ。俺の部屋に、しかも長年愛用しているベッドの上に陣取っている野郎は明らかに害虫のあいつだった。俺が飛び起きたせいでぐちゃぐちゃになった布団は寝ている間にほとんどこの害虫に横取りされていたらしい。どうりで寒いわけだ。よだれを垂らして布団を手繰り寄せるアホ虫は、にへらにへらと間の抜けた笑みを浮かべている。普段は虫ずが走るほど整えられている黒い髪がぼさぼさに跳ねていて、使い古されているんだろう灰色のスウェットは不格好によれていた。気だるげに腹を掻く姿はおっさんそのものだ。容姿端麗も何もあったもんじゃねえ。こいつの身なり褒めてた奴全員に見せてやりたいザマだった。いや、そんなことを言ってる場合でもない気がする。どうしてこいつがここにいるのかを、まずは考えるべきだろう。寝起きのせいで頭がうまく働かないのかそれが二の次になってしまった。
「かわいいっすよね、トムさんて」