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トム静未完(drrr!!)

びっくりした。それはもうびっくりした。心臓が止まりかけた。そんなにびっくりするようなことでもないのに、目ん玉飛び出しそうにさえなった。理由は、ただ、後輩の笑顔が思ったよりも可愛かったってだけ。中学時代にさんざん見てきた、むしろ中学時代のほうが無邪気で可愛らしかったそいつの久しぶりの笑顔が、こんなにも俺を驚かせる効力なんて持ち合わせていないはず。なんだが、20代男の笑みにしてはまあちょっと幼いかなと思うぐらいのそれに対して、こんなにも動揺している自分は確かに存在しているわけだ。それは変えられない事実であるわけだ。照れくさそうな、しかしながらやたらと嬉しそうな後輩の笑顔が、頭の中を巡回している。首の後ろを掻きながら、擬音で表すとにへら、といった風に。他愛もない日常会話での、ほんの少しの表情の変化。そこに揺さぶられる自分の網膜にはもはやクエスチョンマークを浮かべるしかないんだが。だが、真実を追うとすると、金色の髪が揺れて、グラサン越しに目を細め、口元を綻ばせた後輩はやっぱりなかなかどうして可愛いものだったさ。女から見たら『きゃあ可愛い』って叫びたくなるだろうぐらいには。
池袋の喧嘩人形、なんて呼ばれているこいつのこんな間の抜けた顔を知ってるやつなんて、ここらでは俺くらいのもんじゃねーのかとちょっとばかし自惚れるほどには。

「トムさん?どうしたんすか?」

はっ、と我を取り戻したときには、目前にあった後輩の不思議そうな表情。なんだか知らんが照れくさくて、1、2歩後ずされば、今度は後輩が驚く番だ。目を丸く見開いたかと思えば、だんだんと表情を曇らせていく。曇天色の後輩の顔は土砂降り5秒前で、それでも歪な笑みを貼り付けている。だがその虚勢は、次に発する俺の言葉次第ではトランプタワーのようにいとも容易く崩れ去ってしまうだろう。やばい、今のはまずかった。どうやら怖がられたとでも思ったらしい。

「お、俺、なんかしました…?」

静臨未完(drrr!!)

うぜえ。ああうぜえ。俺の部屋に、しかも長年愛用しているベッドの上に陣取っている野郎は明らかに害虫のあいつだった。俺が飛び起きたせいでぐちゃぐちゃになった布団は寝ている間にほとんどこの害虫に横取りされていたらしい。どうりで寒いわけだ。よだれを垂らして布団を手繰り寄せるアホ虫は、にへらにへらと間の抜けた笑みを浮かべている。普段は虫ずが走るほど整えられている黒い髪がぼさぼさに跳ねていて、使い古されているんだろう灰色のスウェットは不格好によれていた。気だるげに腹を掻く姿はおっさんそのものだ。容姿端麗も何もあったもんじゃねえ。こいつの身なり褒めてた奴全員に見せてやりたいザマだった。いや、そんなことを言ってる場合でもない気がする。どうしてこいつがここにいるのかを、まずは考えるべきだろう。寝起きのせいで頭がうまく働かないのかそれが二の次になってしまった。

トム静(drrr!!)

「かわいいっすよね、トムさんて」

静雄の匂いに包まれた部屋で、ふと部屋の主がそう言った。そいつは今し方かわいいと言われた俺に後ろから抱きしめられていて、身動きがとれない状態になっている。抱きしめる俺の腕に相当力を抑えながら掴まっている静雄の両手には小さい傷がちらほらと。まーた例のあいつと喧嘩したのか。まあ、今はそんなことどうでもいい。

「…どこをどう見たらかわいく見えんべ?」

問いかけると、静雄は照れくさそうに頬を掻く。やがて、えっとですねと前置きしてから言葉を発した。

「トムさん、いつもはその、クールなのに、二人きりになったら抱きついてきたりするじゃないですか。そこがなんか、かわいいです」

途切れ途切れにそう言って、静雄は微笑んだ気配をみせる。耳は面白いぐらい真っ赤に染まっていて、照れていることが一発でわかった。
バカだな、静雄。本っ当バカだよおまえ。なんもわかってねーわ。
抱きしめる力を強めると、腕の中のそいつはびくりと体を跳ねさせたが、すぐに力を抜いた。ほら、そんなとこも、俺よりよっぽど。

「しーずお」
「…なんすか?」
「バッカだなあ、おまえ」
「え、な、なんでですか」

真っ赤な耳に口を寄せて、俺が静雄に囁いてみせるまであと10秒。静雄の耳をさらに赤くさせるまで、あと12秒。

「おまえのほうがかわいいっつーの」



誰だおまえら
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