主明(P5)

「パレスにいるときの明智の仕草ってさ、なんかどれも見たことない?」
発端は杏の一言だった。明智がよくするキザなポーズや動きが何故か懐かしく感じる、と杏は不思議そうに続けて、竜司もその言葉に共感を覚えた様子で「わかるわ」と呟きながら頬をかく。
「なんかこう、ガキの頃に見た気がすんだよな」
「そうそう。たぶんテレビか何かで……」
二人が首を傾げながら記憶の糸を手繰り寄せ始めたとき、ふとパソコンのキーボードをタイピングする音が止まった。視線をやると双葉が「ほい」と言ってモニターをこっちに向けてくる。そこにはあるひとつの動画が表示されていて、双葉が再生ボタンを押すと聞き覚えのある元気な声が屋根裏に響いた。杏と竜司があーっと声をあげて画面を指差す。
「これだこれ!フェザーマン!」
「超なつかしい!ピンク好きだったんだよね」
「ちなみに明智が一番意識してるのはNEOのレッドのポーズな」
双葉のさすがの知識に二人が「へえ」と声をあげる。フェザーマンは俺も昔よく見ていた。ポーズもずいぶん真似したし、当時クラス中のみんなが持っていた変身グッズを母親にねだったりもしたものだった。
「でもなんか意外。あの人もこういうの見てたんだ」
双葉がオススメだと言う歴代変身シーン集を夢中で見ている竜司の横で杏が呟く。フェザーマンをあまり知らないらしく端で様子を眺めていた真が「そうね」と呟いた。
「彼もさすがに昔は普通の子供だったのかしら」
「すごく好きだったんだろうね。今でもヒーローの真似するなんて」
春の言葉にそれぞれが頷く。しかし、あの明智にもそういう純粋な子供時代があったというのはなんだか妙に不思議だった。あの人もヒーローの活躍に泣いて笑って、自分もいつかヒーローになるのだと胸に志したことがあったのだろうか。何度想像しようとしてもまったく子供時代のあの人が頭に思い描けず、しまいには諦めてかぶりを振る。やがて祐介が新発売のじゃがりこを手に屋根裏にやって来たことで話題はそっちにシフトしてしまい、明智のことはそのまま頭の隅に追いやってしまった。

「あれ、偶然だね」
空き缶が鉄のゴミ箱の奥に落ちる音とほぼ同時に明智はそう言った。駅に落ちていたゴミをゴミ箱に捨てる大人気イケメン名探偵、絵面としては完璧だな。なんて少し下世話なことを考えながらゆっくりと頷く。明智に出会ったのは本当に偶然だった。会おうとして会ったわけじゃないし、尾けられていたわけでもないと思う。警戒を解くなよと鞄の中のモルガナが俺にぼそりと囁いた。目の前の男はにこにこと人の良さそうな作り笑いを惜しげもなくこっちに振りまくが、夕日がその大半を逆光で隠している。
「学校帰り?」
「ああ。明智も?」
「うん。でもこれからまた雑誌の取材に行かなくちゃならないんだ」
「……忙しいんだな」
当たり障りのない会話はどこか空虚に耳に響く。向こうも同じことを思っているだろうか。明智は腕時計をちらと見やってから次の電車まで少し時間があると呟いた。その後近くの自動販売機まで歩いていったかと思えば俺にくるりと振り向く。
「何か飲む?奢るよ」
「えっ、いや……俺はいい」
「遠慮しないで。いちおう君よりお兄さんなんだからさ、たまには年上面させてよ」
「一個しか違わないだろ」
「それでも上は上だよ。さあ!何がいい?」
まったく引く様子を見せない爽やかな微笑みが俺の顔にぐさぐさと突き刺さる。恐らくこれ以上何を言っても最終的には奢られるのだろうと察し、少し逡巡したあとに「微糖のコーヒー」とだけ返した。了解、と楽しげに応える奴の指は黒手袋越しに自販機のボタンを押す。ガコンと音を立てて落ちたそれを俺に手渡すと、続いて機械に硬貨を入れた明智はブラックコーヒーを買った。
「……ありがとう」
俺の横に来てさっそくコーヒーを口にしている明智にそう言うと、奴は上機嫌そうに口角を上げたまま「どういたしまして」と言葉を紡ぐ。微糖は飲んでみると想像以上に砂糖が入っていたが美味しかった。
「うん、おいしい。けど君のところのコーヒーがやっぱりいちばんかな」
明智は零すようにそう呟いたが本心なのかはわからない。今のこいつの態度と言葉は『その時』までを安泰に暮らすためのただの道具だ。いくら耳触りのいいことを言っても、それは俺を喜ばせようという意識の中からのセリフに過ぎないはずだ。この男は本当はどういう言葉で喋るのだろう。獅童との電話も核心には近いだろうが、明らかに本質ではなかった。
『でもなんか意外。あの人もこういうの見てたんだ』
ふと杏の言葉が脳裏をよぎった。今俺たちを騙して陥れようとしているこの男も、昔は正義の隣人だった。ヒーローに憧れ、正義は悪を滅ぼすと謳っていたはずだ。明智の正義は今もその体の中に存在しているのだろうか?
「どうしたの?ぼーっとしてるね」
声を掛けられてようやく我に返る。慌てて「悪い」と呟き取り繕うための笑顔を浮かべた。きっとヘタな笑顔だったから何かを見透かされていないかと少し不安になる。明智は特になんの感情も見せず、ただ愛想だけをこちらに見せた。
「作戦、頑張ろうね」
「……ああ」
「僕たちで正義を守ろう」
そう言った明智は今までの笑顔を消し、ひどく真面目な表情をして俺を見る。その瞳の奥には確かな光が点っていた。音として生まれた正義の三文字が耳に残る。俺には今この男が嘘をついているようには見えないが、それは俺がまだまだ真贋を見分けられない子供だからなのだろうか。
「付き合わせちゃってごめんね。そろそろ行くよ」
腕時計を一瞥したあと、明智はさっきと声のトーンを大きく変えて明るくそう発した。じゃあまた、と手を振り踵を返すその体に向けて返事をする。夕陽に染まり橙色になった男の背中が遠くなっていくのをずっと見ていた。


明智吾郎は死んだ。それはたぶん正義に所以する死だった。最後の瞬間、あいつの瞳には煌々と信念の炎が燃え上がっていた。ストーブの中で鈍く閃く火にその光景を見る。そばで橙に光る自分の手はあの日の明智の背中を思い起こさせた。
正義は明智を二度殺した。一度目は父親に、二度目は俺に。けれど、正義なくして明智は生きることが出来たのだろうか?テレビをつけると戦隊ヒーローが悪と戦っていた。今日は日曜日だ。子供の多くはこれを見て育って、正義という大義に憧れる。明智の両の手には泥と花が握られていたのだ。あの日、落ちていた空き缶をゴミ箱に捨てたのだってきっとあいつの正義だったし、正義という言葉を軽々と使わなかったところにもあいつ自身の正義が込められていた。あいつですら気づいていなかったそういう本能の部分が俺は無意識に好きだったのかも知れない。相手がいなくなってからそれが分かってしまった。
「お前、こういうの好きだったのか?」
布団で丸まっていたモルガナがぼうっとテレビを見ていた俺に話しかけてくる。うん、と答えてから笑った。
「今も好きなんだ」
「へー。まあいいんじゃないか?」
「うん」
正義だなんだと言ってきたけど、明智のことが気になったのはもっと単純で俗っぽい理由だった。あいつもこういうの見るんだ、俺も見てた。なんか可愛いなって。……お前は呆れるだろうな。

主モナ(P5)

「モルガナ、お願いだ、やめてくれ」
ソファとワガハイに挟まれた状態でぶるぶると首を振る暁は赤いような青いようなよく分からない顔色をしていた。必死に顔を背けようとしやがるので両手(今の姿なら両前足と言ったほうが分かりやすいか)でその顔を挟んでこっちに向けさせる。
「往生際が悪いぞ、ジョーカー!ワガハイとオマエは協力関係にあるんだから、何事も助け合うのが筋ってもんだろーが」
「き……聞けない、これだけは」
何度交渉しようとも暁はかたくなにそればっかりを繰り返した。何だよコイツ、キスの練習台になってほしいってだけの頼みがそんなに嫌なのか。確かにワガハイ今はちょっと猫だから変な感じになるかもしれないが、もし急にニンゲンに戻ってアン殿とお付き合いすることになったときのために感覚ぐらいは掴ませてくれたっていいだろうに。へたくそとアン殿に思われでもしたらワガハイは確実にショック死する。
「オマエけっこう経験あるんだろ?カッコいいやり方とか知ってるんじゃないのか」
ワガハイに伝授しろ、そう告げると暁は目をぱちくりと瞬かせた。そしてすぐさままた顔をへんな色に戻し、さっきまでより激しく首を振る。
「ないっ、ない……!」
「はあ?あるだろ、あれだけモテてたら」
「みんなただの友達だ!俺、あの、本命がいるから、誤解しないでくれ……」
そう話す暁の声量は後半に行くにつれ小さくなっていった。本命?と思わず目を細めながら聞き返してしまう。何とも疑わしい発言だ。昼夜構わずいろんなニンゲンと遊びたおしているコイツが心に決めたただ一人なんて本当に存在するのだろうか?というか、本命がいるのによそで遊び呆けてたらその子の信用を失くすんじゃないのか。コイツのこういうところは未だによく分からない。
「まあこの際ニンゲンなら素人でもいい。暁、観念してワガハイの練習台になれ」
ううっと呻いた暁はしばらくのあいだ押し黙っていた。が、やがて、なぜか目に涙を溜めはじめる。さすがに泣かれるほどとは思っていなかったのでめちゃくちゃ驚いてしまった。
「そ、そんなに嫌なのか」
「いや、そうじゃなくて、モルガナが考えてる意味じゃなくて」
暁の吐露は要領を得ない。落ち着け、と肉球で顔を撫でてやると涙の溜まっていた目尻からひとしずくが零れ落ちていった。暁はなかなか整った顔をしてるので泣き顔もけっこうキレイだ。
「俺、練習じゃなくて、普通に」
「普通に?」
「………」
「?」
駄目だ、わからん。わからんがとにかく暁はワガハイとキスをするのが嫌ということらしい。べつにワガハイだってしたくてしようと言ったわけじゃないが、何となく寂しくなるのはどうしてなのか。しかし泣くほど嫌がらなくても良いんじゃないのか。はあ、とため息をつき暁の顔から前足を引いた。
「わかったよ!そんなにしたくないならしなくてもいい。ユースケにでも頼んでくるとするぜ」
悪かったな、と付け足して暁の腹の上からどこうと動く。その瞬間、がし、と足のひとつを掴まれた。訳が分からず頭に疑問符を浮かべながら振り返ると、ひとしずくどころか号泣の様相を呈した暁がじっとワガハイを見つめていた。ちょっとしたホラーだ。
「モルガナ、やっぱりやろう。いや、やらせてくれ」
「は?嫌なんじゃなかったのかよ」
聞き返すと『いいんだ』とやたら語気の強い一言が返ってくる。やっぱり訳が分からねー。コイツ、変な物でも食ったんじゃないだろうな。
やってくれ、モルガナ!と叫びソファに完全に身を預けた暁はそのまま目を瞑る。相変わらず両目からは涙がとめどなく溢れているのでそんなに気合を入れられてもやりづらかった。しかし、勢いでユースケの名前を出したもののワガハイだって練習相手は誰でもいいわけではない。コイツが一番いいと思ったから声を掛けたわけだから、こう潔く頼みを受けてくれたのは有難かった。暁の胸に前足を乗せ、顔を近づける。胸板の下で心臓がありえないほど脈打っているがやっぱり調子が悪いんだろうか。 
「暁、その、ワガハイが言うのも何だが。調子が悪かったり本気で嫌だったらちゃんと断れよ」
言ったら、暁は泣きながらブンブンと首を振った。本当に大丈夫なのか?と心配しつつ顔をぐっと近づけると、へんな色だった暁のそこは完全な赤になった。
「いくぞ、ジョーカー」
うう、と唸った暁は目をさっきよりきつく瞑った。口も不自然なくらいぎゅっと引き結んでいる。ここにワガハイの口を押し当てれば、キスができるってわけだ。そう意識すると妙に気恥ずかしくなってきてしまった。しかしこんなことじゃ駄目だ、本番でアン殿とキスをするときに備えて、これぐらいはスムーズに出来るようになるべきだ!
心の中で気合いを入れ、ついにワガハイは目を閉じて口を暁の唇めがけて突き出した。瞬間、想像よりも柔らかい感触が伝わってくる。ニンゲンの唇というのはこんなに柔らかいものなのか。それともコイツの唇がものすごく柔らかいというだけなんだろうか。
しばらくして、ワガハイはそっと暁から顔を離した。その涙は未だに顔面をベチョベチョに濡らしている。パチリと瞼を上げた暁の目はすっかり真っ赤になっていた。鼻を一回大きく啜った暁は、モルガナ、とワガハイを呼ぶ。
「キスって、かつお節の味がするんだな」
「……すまん、さっきゴシュジンにもらったんだった」

喜多杏未完(P5)

自分でも分かっているのだが、想像としての女性を描いたとき、それは全て「高巻さん」に近い。瞳や口元はサユリに似るのだが、髪や目、鼻筋は無意識下で高巻さんを意識してしまっていることが表れていた。学校でも「誰かモデルがいるのか」と指摘されたことがある。彼女は俺の、サユリに次ぐ理想の存在だった。派手に主張される眩しいくらいの美しさがむしろ良かった。もっとも、彼女を前にして、その絵を描くことは叶わなかったが。
「今日すっごい見てくるね」
杏はじゃがりこを食べ進めながら少し困ったような顔で俺に言った。じゃがりこ、羨ましい。俺も買ってくれば良かった。
「杏」はもう「高巻さん」ではない。俺は杏の絵は描けない、彼女は理想の存在ではなく俺の友人だからだ。その認知はなかなか強力で、一度杏と呼んだとき、何もかも作り替えられるように高巻さんは俺の前から居なくなった。思ったよりも無邪気な笑顔で笑う、子供のような少女だけが俺の目の前に現れた。今こうして俺に見せつけるようにじゃがりこをほうばっているのももう間違いなく杏だ。ああ腹が空いてきた。
「じゃがりこ欲しいの?……あー、ごめん、これでラス1……」
空の容器を覗きこんだ杏は申し訳なさそうに頬を掻いた。

主喜多未完(P5)

「食うか?」
「え?」
ハワイのビーチの水平線に夕陽が落ちていく、なんて非日常的な様子を眺めていたら、唐突に隣の祐介がそう声をかけてきた。顔をそっちに向けると食べかけの海老が皿の上にぽんと乗っている。しっぽの存在感が大きい。
「お前、海老好きなのか」
「見た目も味も興味深い。食わないのか? 美味いぞ」
「いや、いいよ。お前が全部食べてくれ」
普段うちのカレーを真に迫りながら食らっているこいつの胃袋事情を知っている身で「少しもらってもいいか」だなんて言えるわけもない。祐介は「そうか」と淡泊につぶやくと海老を黙々と食べはじめた。
もうすぐ陽が完全に落ちる。そろそろ竜司たちや先生に呼ばれてしまう頃かもしれない。別々の高校だから、祐介とは別々に帰らなければならないな。普段はそんなことあたりまえなのに今は妙に名残惜しいと思った。お互い女でもないのに、おかしな感覚だ。
「美しいな、ここは」
ふと祐介がそうつぶやいて、海老のしっぽの残った皿を砂の上に置く。いつものように手でフレームを作って、落ちていく橙をその視界に収めていた。
「こう言っちゃ何だが、嵐が来て良かったのかも知れない。こうして海を見ることが出来た」
「ロスにも海はあるんじゃ?」
「あるが、きっとこっちのほうが綺麗だ。お前たちがいるからな」
自然に、当たり前のようにそう言い放った。注意していないと聞き逃してしまいそうなさりげない言葉だった。
「美しさというのはきっと、感情にも起因している。サユリを見ればそれが分かる。お前たちのおかげで、きっとまたいい絵が描ける」
濃い橙を頬に乗せた祐介の、細められた眼差しがこっちに向けられる。本当に何から何まで非日常だ。

主モナ(P5)

最近どうにも心配なのが暁の立ち居振舞いだ。誰にでも優しくて聞き上手で思わせ振りな態度ばっかり取っていやがるから、みんながこいつに寄ってくる。それも老若男女も何も問わずだから恐ろしいもんだった。連絡はひっきりなしに来るし毎日誰かのものになりに忙しなく出掛けていく様はまさに魔性の男で、人たらしっていうのはこういうやつを言うんだなといっそ参考にすらなる。一度体はもつのかと訊いたことがあるが、「平気」と涼しい顔で一言だけ返してきた。まあ本人が大丈夫ならそれでいい。
……とはいかないのが現状だ。こいつは前述のとおりまさに魔性で、特に女の子に関しては憎たらしいことに引くほどモテモテなのだ。知ってる限り片手で数えられないくらいの女性に好意を向けられている。あんまり安易に気を持たせるのもどうなのかと思うし、いつかとんでもない修羅場になっちまうんじゃないかと考えると何故か本人よりワガハイのほうが心配になった。だいたい男なら一人の女の子に一途になるべきなんじゃないのか。ワガハイのアン殿一筋という姿勢を見習うべきだぜ、この男は。
そうして考えている間も暁はワガハイの横でベッドに寝そべってスマホをいじっていた。覗き込んでみると案の定女の子にチャットを送っている。嬉しい顔ひとつせず慣れきったような真顔なのが癪に障った。
「オマエ、いつか刺されるぞ」
呟いてみると、暁はこっちに目を向けてのほほんと微笑む。笑い事じゃないと思うが。自覚ってもんが足りていない。
「大丈夫だよ」
「へん、ワガハイどうなっても知らねーからな」
「心配してくれてるんだな」
言ってろ、と返して暁に背を向けて寝直す。出会った頃はもっと野暮ったくて冴えなくて何もかも不慣れって感じのやつだったのに、いつの間にかえらく垢抜けちまった。最初パレスの中で不安そうにワガハイに着いてきていたのももうずいぶん昔のことみたいに思える。
そうだ、今となっては人間関係も怪盗業もさっさと上手にこなしちまうこいつも、最初はよくワガハイのことを頼っていた。戸惑いを一心にこっちに向けてくるこいつの目は今でもよく覚えている。まあいろんなことに馴れてくれたおかげでパレスとメメントスの攻略なんかもかなり楽になって、取引相手としてはそうやって垢抜けてくれたのはもちろん喜ばしいことだ。それは違いない。ーー違いないはずなんだが、最近なんとなく面白くないような、妙な気持ちになる。
「モルガナ、怒ってる?」
ふと声をかけられる。それがどうも寂しそうな雰囲気の声だったから、仕方なく暁のほうに体を向けてやった。その眉がいつも以上に困ったみたいに下がっている。スマホはもういじってなくて、枕元に雑に置かれていた。
「怒ってはねーよ」
「よかった」
ああ、今の顔はちょっとなつかしいなあと思う。最初の頃の不安そうな顔と同じだ。例えばあの頃とか、満員電車でこいつが窮屈そうに縮こまってる時とか、クラスのやつらにひそひそ噂されてる時とか。ワガハイいつもぼんやり考えてることがあったんだ。
「なあ。オマエが女に刺されるのは自業自得だが……」
「うん」
「それ以外の事からは全部、ワガハイが守ってやるからな」
もうワガハイのほうがこいつより弱いのは分かってるし、こいつにはワガハイ以外にも守ってくれるやつがいっぱいいることも分かっている。けれど守ってやりたいことを諦めるのは嫌だった。なにせワガハイ男だし、紳士だから。……なんだかアン殿に抱くのと同じような気持ちだ。
「ありがとう」
暁は嬉しさをまったく隠そうとせず表情に出す。その笑顔があんまりに無防備だったから、これを見られるのはワガハイだけだったらいいのになあ、と柄にもないことを思ってしまった。


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