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ティムとピカチュウ(名ピカ)

ピカチュウが普通のピカチュウになった設定


すべての事件が終わって、父さんは無事にぼくたちのもとに帰ってきてくれた。ピカチュウも父さんの顔を見た瞬間にすべての記憶を取り戻したみたいで、コーヒーを嗜みながら久々の相棒との再会をお互いに喜び合っていた。何もかもが大団円だとみんなで笑った。今回のことがきっかけでぼくは父さんと同じ探偵になることを決めて、またピカチュウと一緒にいろんな事件を解決しようと張り切っていた。けど、残念ながらこの物語は大団円で終わることはなかった。ある日を境にピカチュウは、突然ぼくの言葉を理解できなくなった。それどころか人間のような振る舞いをしていた彼はきれいさっぱりどこかへ消えてしまって、普通のピカチュウみたいに四つの足で走って、お菓子をあげたら素直に笑うようになった。ぼくらのピカチュウはいなくなってしまった。そう思うのも無理はないだろう。
それでもピカチュウは以前と変わらずコーヒーが好きで、たまに飲ませてあげるとひどく喜んだ。砂糖はもちろん一つも入れない。安くて味のいまいちなものをあげると十万ボルトを出してしまうから少し困った。やっぱり彼はハイハットブレンドのような本物のコーヒーが好きみたいだ。
「ただいまピカチュウ。今日はパブロさんがコーヒーをサービスしてくれたよ」
帰宅直後に玄関からそう声をかけると彼は勢いよく走ってぼくの元にやってくる。コーヒーの入った袋を見せて「これだよ」と呟くと目を輝かせて大きな声で鳴いた。キッチンのほうへまた走っていくピカチュウを笑いながら追いかける。
温め直したコーヒーから上がる湯気は深みのある香りを部屋にゆっくりと漂わせた。早くしろと言いたげにぼくにしがみつくピカチュウの前にお皿を置くと、嬉しげに目を細めたあと彼はそれに口をつける。いつも思うけど、熱くないのだろうか。考えながらぼくも自分のコーヒーを一口啜った。相変わらずパブロさんのコーヒーはライムシティの中で一番おいしい。
誰も喋らない空間はなんとなく手持ち無沙汰な感じがして、苦し紛れにテレビをつけると事件のニュースが報道されていた。これは確かエミリアさんたちが最近追っていたものだ。GNNはこのところ今まで以上に忙しくなったようで、エミリアさんも目を回しているようすだった。でもその分やりがいがあって楽しいんだそうだ。溌剌に笑う彼女の笑顔を見ているととても癒やされる。
『ティムくん、最近疲れてない?休めるときはきちんと休んでね』
そういえばこの間、久々に会った彼女にそんなことを言われた。そんなにぼくは疲れた顔をしていたのだろうか。鏡はいちおう毎日見ているけど自分のことはよくわからない。……『名探偵』のピカチュウなら、ぼくに「ひどい顔だ」とでも言ったんだろうけど。今は自分で気づかなくちゃならない。それが妙に悲しくなるときがある。
「おいしい?」
「ピカ!」
もうすでにコーヒーを半分ほど飲み干しているピカチュウにそう尋ねてみると、元気な返事だけがひとつ返ってくる。あの長い薀蓄すら聞きたい気分になっているのだからぼくは本当に疲れているのかもしれない。一人での探偵業は思っていたより過酷だ。彼のアドバイスにどれだけ救われていたかと今さらになって深く感じている。
「ピカチュウ、今日は複雑な事件があってさ」
「でも一人でなんとか解決できたよ」
「ぼくはえらい?」
テレビの音に紛れるくらいの声でそう呟いた。ピカチュウは顔を上げてぼくをじっと見つめる。しばらくして鳴いたその口の動きが、『ティム』と形作られたように見えた。けれどすぐにまた無邪気にピカチュウらしい声で鳴き始める。その姿に微笑みを向けながら、何分かぶりにまたコーヒーを啜った。せめてもう一度だけ君の声で褒められたいなんて、ガキっぽいって笑われるだろうか。きっと笑うだろうな。そういうやりとりも今思えば心地が良かったのかもしれない。……ぼくのコーヒーはすっかり冷めてしまっていた。



勢いでかいたけどマジで悲しくなって死んだ
ピカチュウとティムはズッ友なんで…
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