スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

龍アソ(大逆裁)

「オレについて来い。後悔はさせん」
煙草を手先でふらふら遊ばせながら長く白い煙を吐いて、亜双義一真はそんなことを言う。ぼくの部屋の中で溶けていくその白はなんだかきれいにあたりをたゆたった。口元には笑みを貼りつけながらも、こっちに寄越す視線は火傷しそうなほど熱く、誠実だ。何だ、その雰囲気は。いつにも増してカッコいいじゃないか。
「……だから、無理だよ」
いくら誘われたところで、ぼくには英国へ渡る術などない。頑張ってくれとおまえを送り出すことしか許されていないのだ。そう何度も伝えているのに、亜双義はまったく聞く耳をもたない。ぼくは困惑してしまう。もしかして本当にあてがあるのではないかしら、コイツのことだから。なんて淡く無駄な期待すら持ちかけてしまう。
「往生際が悪いぞ」
「それはおまえのほうだろ……」
「はは、確かにな」
軽く笑いながら、また亜双義は煙を吸い込む。なんだかやけに和らいだ雰囲気を纏っていた。まさか、冗談なのだろうか。けれどこの目、軽口のそれではない。ぼくはどういう態度で居ればいいのかいまいち掴めずにいた。目前の酒をちびりちびりと飲むが、酔いはなかなか回らない。
「……オレはこの国の司法を変える」
不意に亜双義が静かな声でそう言った。横に目を向けると、まじめな顔がひとつある。
「そのために、倫敦でおおいに暴れてやるつもりだ」
「おまえらしいな」
「ああ。……だが大暴れするとなると、一人ではもの足りん」
「……」
ぼくはお猪口の水面を見つめた。どう返事をすればいいのかわからない。口を開こうとしては、すぐ閉じる。隣から漂う煙草の香りに、なぜだか胸の奥のほうが痛んだ。
「成歩堂、オレはキサマを信頼している」
亜双義の瞳がぼくを射抜く。口から離された煙草は、亜双義の手の中でただ黙々とその命を消費した。もう一方の手は拳になっている。その様子はいつもの自信に満ちたコイツでは確実に為されないそれだった。つまり亜双義は今、緊張しているのだ。ぼく相手に、まるで人生のすべてを賭けるかのような顔を向けている。ああこれは、本当に本気なのだ。とてつもない類いの誠意なのだと、ぼくはとうとう完全に理解してしまった。
「オレは倫敦でもキサマと共に在りたい。……共に来てはくれないか」
心の底から、懇願するように。亜双義はぼくにそう告げた。ぼくはやはり困ってしまった。おまえにそう言われて断れるぼくではない。おまえはぼくの恩人であり、親友なのだから。すっかり意志をまとめあげられてしまった。
「何だか、さっきからさ」
「うん?」
「求婚されてるみたいな気になるんだけど」
「……あっはっは!まあ、そうだな。似たようなものか」
一世一代の告白に変わりはない、なんて言いながら大笑いするので、ぼくもつい声をあげて笑ってしまう。 そのうちにゆるやかかつ強固に、ぼくの気持ちはすっかり決まってしまった。亜双義、と、その名を呼べば、ぼくの目を見て何かを悟ったようすの亜双義が、柔く微笑んだ。 ぼくは言葉を紡ぐ。ずっと言いたかった言葉だ。
「ぼくを、倫敦に連れていってくれ」
「……ああ、勿論!」
けっこうな力で肩をばしりと叩かれて、体が大きく揺れる。痛いよと抗議しても上機嫌な亜双義は聞く耳を持たなかった。まったく、なんて呟いてはみるけれど、ぼくも満更ではないのだ。胸の痛みがきれいさっぱり消えたくらいには。
とはいっても、ぼくはどうやって英国に渡ればいいんだ。そう亜双義に訊くと、「トランクにでも詰めて運べば問題ない」なんて返事がひとつ返ってきた。………柔軟体操でもしておいたほうがいいのかしら。

龍アソ(大逆裁)

祭壇に立つ男の姿を目にして、神の御前にあるかのような気持ちをおぼえる。おそらくオレは今、気が狂っている。頭の中がばらばらと散らばって、なんの纏まりも産み出さず雑然としたままに此処にある。どうすることも出来ない。祈る想いばかり抱き、焦燥する。焦がれて焼け焦げる。燃え尽き灰になり骨も残らず、痕跡すらも消し去られる。オレを燃やすのはこの海をたゆたう瞳か。もえる水、嗚呼。
(この気の狂いは、一体何だ?)
果たしてこの空想の暴走にどういう意味が含まれているというのか。思考の檻を抜け出し、ゆっくりと目を伏せる。

通俗小説を読み終え、ぱたりとその世界を閉じた。ずいぶん情熱的なものだった。恋い焦がれ請い焦がれ、最早たった一人の人間しか望まないという激情。愛情を裏返した先にある狂気。そういったものに人々は共感を示す。これが通俗、世俗だ。安堵か疲労か、嘆息が洩れ出る。まさかここまで頭を使うものだとは思わなかった。法律全書でも読んでいた方がよほど心が安らぐ。眉間の皺を軽く揉み、目を強く瞑った。そこで読んでいるあいだ脳裏にこびりついて離れなかった男の存在をより深く実感する。折角だ、ヤツにも貸し付けてやろうか。ヤツなら果たしてどういう感想を持ち出すのか、どこに印象を刻むのか、興味がある。考えていると自然に口元が緩んだ。

十字架に磔にされた男の姿を目にして、神の御前にあるかのような気持ちをおぼえる。気が狂っていた。机に叩きつけられた手のひらも真っ直ぐに伸びる人差し指も、何もかもが炎を宿している。その瞳の奥に存在していた海さえすべて蒸発し、すべからく冴え渡っていた。指先から燃え尽くされ灰になる。骨も残らず、痕跡すらも消し去られる。もえる意志、うつくしき青い炎。嗚呼、この気の狂い、これが恋か。


超楽しかったけど読み返したらまったく意味わからんかったやつ
亜双義を燃やそう(提案)という話です 話でした
前の記事へ 次の記事へ
カレンダー
<< 2015年12月 >>
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31