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ジョナディオ(ジョジョ)

「男性に告白されたんだ」

学校からの帰り道、夕暮れの橙に染めあげられたジョジョは突然そうやって沈黙を破った。へえ、ああ、そうかい、という風な間の抜けた返しがうっかり口から漏れ出てしまう。こんな男くさいやつに告白をする『男』だなんて、そいつの顔を一度拝んでみたいものである。だいたい見つかったら即刻牢屋行きだというのによくやるもんだ。これだから自分の立ち位置が見えていない阿呆は人生を持て余すんだよな。おれの巡らせる思考など知る由もないという様子でなんだかひどく照れたような困ったような顔をしたジョジョは、すこし眉を下げながら頭を掻いた。

「それで、彼には申し訳ないけれど、断ろうと思っているんだ」
「ああ、うん、賢明だ」
「でもどういう風に断ればいいのかよくわからなくて」

本当に途方に暮れたようにジョジョは重いため息を吐いた。肩を落としてしょぼくれているせいで最近いやに大きくなり始めた図体がいつもより小さく見える。それを見て、ああこいつはこういう奴だよな、と漠然と思った。ジョジョの困惑の理由の一つとして考えられるのは、こいつの恋愛経験の浅さだ。エリナの一件から、こいつには浮いた話がまったく見られなくなった。女性との経験さえ幼少期の一度きりしかないのだから、突然男とくればそりゃあ戸惑うに決まっている。 そしてこいつは変に優しさとかいう不必要なものばかり持ち合わせている奴だ。わざわざ同性に告白なんてする勇気を出した相手に対しての向き合い方をいま必死で考えているんだろう。吐き気のする甘さだ、ああジョジョ。おまえのそういうところ大嫌いなんだ。

「じゃあぼくが代わりに断ってきてやるよ」

そう言ってやると、ジョジョは予想外だったんだろうこの言葉に目を丸めていた。べつにこいつが困っているから助けてやろうとか、そういう魂胆はまったくない。むしろ目的はこいつの良心に取っ掛かりをつけてやることなのだ。おれが断りに行くという行為は、おそらく奴の紳士としての誠意に反することだ。案の定ジョジョはぼくの提案を断ったが、もう奴が断ろうがぼくの意志は決定してしまった。幸いジョジョに告白してきた馬鹿ってのはぼくらの所属するラグビー部の先輩だ。接触する機会はいくらでもあるんだよ、残念だったなジョジョ。どこか不安そうな奴の横顔を尻目に、ぼくはいま最高に素晴らしい気分に酔いしれていた。おまえを陥れるのって、どうしてこうも愉快なんだろうな。ああ口元が緩みそうだ。

夕闇が1日の終わりをがなり立てる。気が狂いそうなほど予定調和な空だ。ぼやけるジョジョの幻影が、ぼくに向かってにこりと笑った。まぼろしでもおまえは甘ったるい奴だよな。バカみたいに曲がりやしない。なあジョジョ、ジョジョ。おまえ知らないだろう。おれが男に無理やり抱かれたことなんてさ。相手はおまえに告白してきた、あの輩だよ。あいつおまえのことを女役として組み敷きたかったらしいぞ。ますます滑稽だよな、おまえみたいな奴をどうやって組み敷くっていうんだ!結果としては相手は誰でもよかったらしく、このおれがめちゃくちゃに抱かれたわけだが。なぜ逃げられなかったかって、あの男はおまえと同じくらいの図体だったし、屈辱的なことにまだ成長途上であるぼくがけっこうな体格差と力のある男から逃げるのは口惜しいが至難の業だったからだ。幸いと言うべきか、そういった屈辱的な経験はロンドンのドブにいたとき少ししていたからまだある程度の許容はできたが。しかしさこれって、ああ、ジョジョ。とんでもない悪だよな。常に正しくあろうとするおまえの忌むべき悪そのものだよな。おまえの正しさはおまえがなんにも知らないまま、おまえが引き起こした悪に負けるんだ。このディオの完全なる勝利。おまえは敗者で、おれこそが1番だ。そしておまえは、そのことに死ぬまで気がつかないのだ!そう思うとおれはもう興奮して、馬鹿みたいに興奮して、汚らしい男を気絶するまで殴りつけてからなぶり倒された自らの体を抱きしめ、懸命にその性器を擦った。突っ込まれているときよりももっとどうにかなりそうで、意識が吹っ飛びそうなほど気持ちがよかった。やがて放たれた混沌を眺めながら、おれはぼんやりと思考したのだ。『正しさ』なんてくそくらえだと。

「ディオ!」

なんにも知らないジョジョが道の先でおれを呼んでいる。今行くよと投げ返した言葉の裏に、たっぷりの憎悪を詰め込んだ。ああ、愚直なおまえの息の根を、この手で止めてやれたなら。最近そんなことをよく考えている。


ちょっとキャラぶれてしまって猛省

ジョナディオ未完(ジョジョ)

「毎回中に出すの、止してくれないかい」

情事が終わってすこし経った時、シーツの上で寝そべるディオがぼくに背を向けながらそう言った。彼のために持ってきたぼくの手中にあるコップの中の水がほんのすこしだけ揺れる。とりあえずベッドに腰かけて彼に水を持ってきたと伝えたが、彼は「そこのテーブルに置いておいてくれ」とそっけなく告げるばかりでぼくの顔を見ようとはしなかった。仕方がないのでベッドの真横にある小さなテーブルにコップを置いておく。程よく筋肉質でたくましげな白い背中はコップがテーブルに着地した音を聞き届けてから新たなる台詞を吐き出した。

「後処理にけっこう骨が折れるんだ。だからって面倒くさがって放っておけば腹を下す。とんだ爆弾さ」
「…それはすまないと思うよ」
「だろう?じゃあ次からこういうことは無しにしてくれよ。君がどういう心情でぼくの中に出してるのかなんて知ったこっちゃあないが、少なくともぼくは君の新婚生活の実験台になるのはごめんだぜ」

ははは、とディオは皮肉めいた笑い声をあげる。ぼくは彼が手繰り寄せるシーツの皺をじっと見ていた。ぼくはべつに未来の妻とのそういう行為をシミュレーションしたいわけではなく、ましてやそのほうが気持ちがいいからと中に出しているわけでもない。ただ事情はひとつあるのだ。ぼくが悪いと感じながらも毎度毎度ディオの中へ出す理由が。しかし理由が理由なので、すこし言い出しにくくはある。流れるような彼の金色を目で梳きながら、この言葉を紡ぐべきかとしばらく逡巡した。そこでふとテーブルに置いたコップのことを気に留め、そこにやった視線の先で一向に減らない水量を確認したとき、ぼくは言葉を紡ぐ決意をした。

「だって君、ぼくが外に出そうとして抜こうとする度、すごく強く爪を立てるじゃないか」
「……?」

上体を起こし、きょとんとした顔でディオがぼくのほうを向いた。本当に珍しいくらいきょとんとした顔をしている。やっぱり無意識だったのか、と思わず肩を落としてしまった。

海翔と長深田未完(ロボノ)

八汐って長深田先生の愛人なの?と、クラスメイトの男に突然問いかけられた。それが昼休みの話。もちろん冗談っぽくからかうように尋ねられたわけだけれど、それにしたって普段ロボ部+重度の格ゲーオタとして敬遠されている俺に同級生が話しかけてくるというのがまず珍しい。向こうも俺が面倒くさくてノリもあまり良くないと知っているだろうに。そこまでわかっていてもそうからかいたくなるくらい、俺はミッチーの愛人っぽいとでも言うのだろうか。失笑ものだよこれは。

「ってことなんだけど、どうしてくれるのさミッチー」
「どう?どうっつってもそりゃお前、先生はなんにも悪くないだろうが!」
「いいや、たいていのアホくさい問題ではだいたいミッチーがその発端だからね。今回もたぶんミッチーのせいでこうなってる気がする」
「あのなあ八汐、なんでも決めつけで判断するのは一番よくないことだぞ。これ豆知識な!」

放課後の現在、偶然にも廊下でばったり出くわした俺とミッチーは、共にロボ部のハンガーへの道のりに沿って足を揃えていた。あき穂はチャイムが鳴ってすぐ教室を飛び出したので、今頃はもうハンガーでガンつく1の整備でもしているのだろう。俺はついさっきまでキルバラのリーダーボード7位の相手と真剣勝負を繰り広げていたため、あき穂はいつの間にやら俺を置いて行ってしまっていた。まったく、薄情な幼なじみだよ。無事7位を倒したときあき穂の姿が見えないことに気づいた俺は少々急ぎ足で教室を抜け、そこから少し進んだところでミッチーに会ったのだ。ちなみにこの不良教師が今日ロボ部に来る理由を先程訊いてみたが、返ってきたのは「なんとなく」というなんだかだらしのない5文字だった。ほんと2年経ってもしっかりしないなあ。

「だいたいなんでアキちゃんじゃなく俺が愛人なんだか。性別的にはアキちゃんが妥当でしょ」
「瀬乃宮妹はなー、愛人って雰囲気はまったくないわな」
「じゃあ俺には愛人の雰囲気があるって?」
「さあなぁ。言われたからにはあるんじゃないか?先生にはよくわからんけどな」

そう言うとミッチーは快活に笑った。笑い方がやっぱりアメ社長によく似ている。この無責任教師め、というか愛人の雰囲気っていったいなんなんだ。まずホモと見られかけてるのも大問題だし…。こなちゃんは喜ぶかもしれないけど、こんな形で後輩を喜ばせたくないよ俺は。

「わかったぞ八汐!」

と、ここでミッチーは突然横を向き頭に電球のマークでも浮かべそうな勢いで何か閃いたことをアピールしてきた。なにどうしたの、とめんどくささを隠すのさえ面倒な俺は我ながらに低い声のトーンで問いかける。するとミッチーは人差し指を立てるお決まりのポーズで、ずばり、と話題を切り出した。

「お前のその気だっるそーな様子が愛人感を漂わせる要因だ!もっとシャキッとしてろシャキッと!」
「ええ…やだよ」

ユキハル未完(つり球)

「どうしても好きだった。だからもう会えなくてもいいと思ったんだ」

いつだって俺の胸を刺す柔らかくて優しいしろのひかり。忘れたことは一度もなかった。ゆらゆら火照るアスファルトの上で笑う金色の魚の、地上に降りた太陽みたいなあの笑顔。肩に背負われた好きが伸ばす影と、路面を滑るパステルカラーの水滴。かわいくて大切な恋の姿。あの夏はきっとこの先何年経っても美しい現在の原型を留めたままの思い出で、俺のすべてを使って輝き続けるのだろう。ハルのいた夏は、目に痛いくらいの極彩色だった。俺は悲しいくらいに素晴らしい恋を、あの灼熱で知ってしまったのだ。それでも未だ過去に成り得ない思い出は楽しい感情ばかりを記憶してるわけじゃない。苦しくて泣きたくて叫び出したくて死にたかった、生々しい苦痛だってちゃんとこの胸はリピートし続けている。ハルに対して芽生えた恋心は俺にとって劇的な素敵だったけれど、悲劇的な強敵でもあった。だって俺たちにはお互いへの理解も時間も何もかも足りなくて、何より俺は外の世界で見知らぬ他者から二人を異質と見定められたくなかった。俺はずっと怖かったんだ。だからハルが俺たちの箱庭を出て行くとき、実は9割のかなしみの底に1割の安堵が根付いていた。もう会えなくてもいい、会わないほうがいいかもしれないって。俺はしがらみから放たれるだなんて思っていた。

ジュアル未完(TOX)

ジュミラ前提
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僕の脳裏でいつも展開される、きっと僕だけしか知らない小さな三文芝居は今日も微量の曖昧を含んで世界を指し示した。それは僕の脳のスペースを間借りした小さな劇場の上、天井に描かれたひとつの星座。あれは僕の星たち、僕の世界だ。僕はその世界を彼女と呼んだ。空でも海でも大地でもあった彼女はいつだって僕を惑わせ、しかし僕を導き正し信じられないほど美しく笑うのだ。ぴんと張った線を点と点の橋として貫ききらきらと光り輝く世界は僕の瞳の表面をひんやりと撫でつける。ああきっとずっともう大丈夫。彼女というきらめきさえあれば僕はもう迷うことがない、この夜に包まれていたって暗闇に足を掬われることはないんだ。根拠を愛さなくてはならない立場に居座っていた僕はそういう風に理屈の禁忌へと逃げこみ、眩い光に縋った。継ぎ接ぎだらけの想いを持ってただ立ち尽くしているのはきっと楽で仕方なかったんだろうね。だってそこにいさえすれば世界は手を引いてくれた。僕は実に無力で臆病で、いつだってどこか物悲しい男だ。でも確かに彼女を愛していた。不出来な言葉になるけれど、それはほんとうに確かだった。
彼女に依存するような形さえ為していた僕は、ある時とても大きな罪を知った。僕がゆるすか、それとも終わらせてしまうか。選択権はこちらが握っていた。
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