百田と王馬未完(論破V3)

『地獄、地獄』と無機質なアナウンスが辺りに響いている。目を開けてみれば地下鉄のホームのようなところにオレは立っていた。軽く見回してみるが人の気配は皆無で、がらんどうのホームにやけに積めたい空っ風ばかりが吹いている。壁はどこもかしこも赤黒く傷だらけで、不気味というには充分の風体だった。立ってるだけで寒気がしてきやがる。急いでエスカレーターに乗り地上へと登ると、着いた瞬間にぱっとあたりが明るくなった。目の前にあるのは商店街のような場所で、どこも店先に提灯が灯っている。地下と違いここには人間が大勢いて、ともかく活気があった。奥には鳥居がいくつも見えてなんとなく不気味ではあったが、地下に比べりゃまだマシだ。思いながらあてもなく街中を進んでいくと、思わぬ人影を前方に見つけた。王馬のヤローだ、アレは。王馬もちょうどオレに気がつき、ひらひらと手を振ってくる。
「やっほー、百田ちゃん!奇遇だね」
「何してやがんだオメー」
「何って、ただその辺をブラブラ見てただけだけど。百田ちゃんはこんなところでどうしたの?」
「ああ?そりゃオメー」
と、言おうとして言葉に詰まる。


地獄でなぜ悪い!!(^-^)飽きた!!!
どれくらい切実な理由があっても人殺したら地獄に落ちてほしいので百田くんは地獄に落ちてほしいけどたぶんそこでは王馬が待ってるんだろーーなと思う
他の全部が相容れなくても死だけは共有するんだよ百田と王馬は そう二人が決めたんだよな

最原と百田未完(論破V3)

正直、リサーチはした。最初に百田くんと酒を飲んでから数週間後、出来るだけ自然に見えるような誘いかたで彼をもう一度居酒屋に連れ出してみせた。彼は何も察してはおらず、ただ珍しく僕から遊びの誘いを入れたことについて上機嫌な様子を示しているのみだった。生ビール、日本酒、焼酎、アルコールの数々を消費していく彼の少し上気した頬を隣で眺めながら、これなら万が一でも大丈夫か、と一人胸中で呟いた。その一言は思ったより最低な音で心に響いた。
「オメーがこんなに酒好きだったとは知らなかったな」
僕の部屋の中で、百田くんが缶ビールの二本目を開けながらそう言って笑う。僕は曖昧な笑みを返しながら梅酒の入ったグラスを傾けた。この前居酒屋に行ってからまだ一週間と少ししか経っていない。さすがに間を空けなさすぎたか、と思う気持ちはあったけれど、チャンスなんてものがあるとするならもう今日ぐらいしかなかった。彼はもうすぐ宇宙飛行士としての訓練が忙しくなるらしく、きっと休みなんて合わなくなる。日は限られていたのだ。百田くんは今日も機嫌良さげにハイペースで酒をあおる。飲んだ量に比例して、その笑顔はどんどん柔らかくなっていった。目尻が酔いにほだされている。口元はゆるゆると弧を描いていた。そんな彼と対照的に僕はきりりと視界を研ぎ澄ませ、口を引き締めている。百田くん、ごめん、僕は嘘をついている。実際はそこまで酒が好きというわけでもない。
初めて一緒に飲みに行った数週間前。アルコールの入った百田くんはよく笑いよく喋り、その声は普段より大きくて、頬は赤く、いつも以上に僕との距離が近くて、そしてとにかく無防備だった。じっと見つめてもしきりに名前を呼んでもただ楽しそうに笑っていた。しかも、次の日になると飲んでいた時の記憶がほとんどないだなんて言ってきた。僕は最低だ。どうしてそんなことを好機だなんて捉えてしまうのか。けれど、そうだ、一度だけでいい。諦めるための大きなきっかけが欲しかった。あればいい、くらいのものだったけど。


あとでまた書くかも

最原と百田(論破V3)

図書室で本を読んでいるときの百田くんはとても静かだ。それが漫画であっても学術書であってもいつも多大な集中力を目の前のものに向かって注いでいる(さすがにいやらしい本を読むときは僕と騒ぎながら読む)。その利発をはらんだ眼差しが珍しくてたまに横顔を観察してしまうのだけど、気づいているのかいないのか百田くんはいつも特になんの反応も示さなかった。今日も隣で黙々と読書をする彼の表情を少しの間眺めたあと、僕は読みかけていた推理小説を開く。今までのペースで考えればちょうど今日で読み終われるはずだ。忘れないうちに読んでおきたかったからちょうどよかった、と挟んでいた紐をたどり、薄黄色のページを開いて物語の世界へ思考を潜らせていく。一度こうして集中してしまえば図書室独特の埃っぽさなどもあまり気にならなくなって、むしろ居心地がいいくらいに思えた。すぐ隣で規則的に紙の捲れる音が聴こえてくるのも立派な環境音の一部になっている。
しばらく小説を読み耽り、ページも残り少なくなった時だった。実は、ほんの少しくらい前からだろうか。なんだか妙な感じがしている。おそるおそる目を活字から離し隣を見ると、案の定まっすぐこっちを見つめていた瞳とぼくのそれがばっちりとぶつかった。やはり気のせいではなかったのか。
「あの……どうしたの?」
隣のページを捲る音が途中から途絶え、僕のほうにいっそ無遠慮なほどの視線が向けられているのをさすがに気がつかないふりで誤魔化すのは気が引けた。なのでそうやって百田くんに一言を問いかけてみると、彼は「ああ」と短く呟いてから持っていた本をパタリと閉じる。そしてそれを片手に持ち、空いた手をなぜか僕のほうに伸ばした。何をされるのかまったく予想がつかない状況だったからだろうか、その指が僕に触れるまでのこの時間、やたらと時の流れが緩慢であるような気分になる。僕をじっと見つめる百田くんの瞳は静かで穏やかで、そこに強い色は認められなかった。それでいいに決まっている、と思う反面、胸に風が吹くような思いがする。
やがて百田くんの指は、僕の前髪を持ち上げ額に触れた。急に視界がぱっと開けて思わず目を細める。目の前の顔は新しい発見をした子供のようににこりと綻んだ。
「下まつげだけじゃなくて上のまつげも長ーんだな、と思ってよ」
そう言うと彼は満足気に手を額から離す。下りてくる前髪に気をとられている間に「邪魔して悪かったな」となんでもないように一言を寄越された。少し髪を押さえて整えてから百田くんに何か言おうとして、でも特に思いつかなかったので言葉の代わりに苦笑を浮かべる。
「オメー、けっこう前髪上げても似合うんじゃねーか?」
さらりとそう言われ、どう反応していいかわからず僕は引き続き曖昧に笑った。上げてると落ち着かないんだ、と返しながら少しずつおさまっていく鼓動の速さに安堵する。この本を読み終えるのはまた次の機会になりそうだな、とひとり考えながら、むずがゆく残った感覚を散らすためにこっそり額を手の甲で軽く擦った。

後日、朝食の時に茶柱さんが「おでこを出した夢野さんはかわいい」という話題を持ち出してきた。なんでも夢野さんを部屋に迎えに行くと寝癖で前髪が跳ねあがっていたらしい。夢野さんは照れくさそうかつ迷惑そうなとても微妙な顔をして興奮する茶柱さんに制止の言葉を投げている。いったい夢野さんの前髪はどういう状態だったのかとすこし気になりながら端で会話を聞くのに徹していると、ちょうど茶柱さんと席の近かった百田くんが何故か得意気にこう言い放った。
「終一もな、前髪上げてもなかなかカッコいいんだぜ」
興味ありませんよ!と叫ぶ茶柱さんの声を聞きながら、僕はおそらく今夢野さんと同じような顔をしている。
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