主ナミ(P4)

時間ですよ、優しくそう告げた彼を俺はきっと知っていた。俺より少し長い、純白の髪を愛でたことだってきっとあった。美しく歪む唇にキスを落としたことだってあったはずなのだ。彼は、すらりと伸びた手を俺に差し伸べて、にこやかに微笑む。その手をとったら、俺はどこに連れられるのか。君に連れて行かれた場所で、俺はきちんと君のことを思い出せるのか。どうしてだか、怖くて訊くことができなかった。それを訊いてしまったら、俺の旅路はここで終わってしまうような気がして。まだ終わるわけにはいかない、俺にはたどり着かなければならない場所があるらしいから。

「さあ早く。きっとあなたの大切な人たちも待ちくたびれていますよ」

そうか、この先に、俺の大切な人たちが待っているのか。それなら急がなきゃならない。でも、俺にはきっと、君だって大切だったはずだ。俺を送り届けたあと、いったい君はどこへ行くんだ。またこうして、会えるのか。

「会えますよ、必ず。あなたが望まなくても、私たちは出会ってしまいます。ここで永遠のお別れができればあなたにとってそれは喜ばしいことなんでしょうけれど、何せ人間は欲深い。きっとまた、私たちは会ってしまいます」

もう会えないほうが幸せだなんて、どうしてそんな。だって君はこんなにも悲しそうな顔をしているのに。でも、君を抱きしめることさえ今はできない。やっぱり俺は君を思い出せないのだ。嫉妬深くて、健気で、誰よりも優しかったような気がする。君の性格はおぼろげに覚えているのに、肝心の名前はどうしても、思い出せなかった。

「さあ、急ぎましょう」

そう言って俺を急かす薄い赤は、なおも綻んでいた。もう少しここにいちゃあいけないか、と投げかけると、あなたはここにいてはいけませんよ、と目元で弧を描く。よく見ると、まつげが震えていた。ああ俺は早く行かなくてはいけないんだな、彼が泣いてしまう前に。白すぎる5本の指に手を差し出す。すると彼は数秒ほど動きを止めたあと、俺の手を強く握った。その感触を知ったとき、突如脳裏に浮かんだとある4文字。ああそうだ、やっと思い出した。きっとこれが君の名前だ。神様みたいに素敵で、たまに人間くさい、俺の大事な人の名前だ。君の名前は、きっと、

「また会いましょうね、イザナギさん」


旦那が6股とかしてる間もガソスタでひたすら旦那を待ち続ける嫁は健気すぎると思いましたイザナミちゃん好きだよおおおちゅっちゅぺろぺろ
外見的に男っぽかったから番長に彼って呼ばせたけど実際のところどうなんだろう ペルソナミちゃんには乳っぽいものがあるようなないような

主足未完(P4)

「好きです」

これだから子供は苦手だ。勘違いを真実だと信じこんで、感情のままに動こうとしやがる。せっかく正常に作動している頭を使おうともせず、ただ一直線に猛進しやがるんだ。無様で滑稽で厄介にもほどがあるその行動に気づく努力すらしないで、なんとまあ困ったことにそれが正しいと思ってるんだから目も当てられない。確かに自分にもそんな時代はあった。今となっては遠い昔の話だが。きらきらと瞳に光なんて振り撒いて、がむしゃらに走ろうと助走を始めていたときもある。しかしそれは現実という大きな壁によって実にあっさりと阻まれた。勉強しなさい、どこに行っても聞こえてくる親や先生の怒号。ああうるさいうるさい、そうは思ってもそれを反抗という名の行動に移すのは面倒くさくて、けっきょく自分の人生マラソンはいつも小走りオンリーだった。最初に本気で走ってしまうと、最後まで体力は続かなくなる。そんなことはどんなバカでも知っているし、勉強ばかりしていたせいで知識だけは豊富な自分はなおさら理解済みだった。だから最初から全力疾走しているやつを見ると、自然と嘲笑が零れる。呆れを通り越してむしろ哀れにすら感じられる。そして今目の前にいるこいつも、そんな可哀想な人種の一人だ。しかしこいつは前を目指して走っているわけではないらしく、どうやら大幅に横路に逸れてしまったらしい。17歳といえば、まだまだ周りに女なんてたっくさんいるだろうに。しかもこいつはなかなか顔もいいし、手に余るぐらいの出会いは望めるだろうに。よりによって、この僕を、好きだと言う。ああこの少年はいったいどこでボタンを掛け違えてしまったのか。本当に可哀想で仕方がない。あ、もしかしたら罰ゲームでしょうがなく告白してる、とかそういう理由があるのかもしれない。というかそう信じたい。信じたいんだけど、そうであってはくれなさそうだ。目前のそいつの目はいつにも増して真剣そのものだし、その剣幕はものすごいし。あーこれ逃げ場ないな。

「返事はいりません」

いやべつに返事しようとか思ってないし。まずかける言葉すら見つからないし。だいたい今僕が言えることといえば『誠に残念ながら僕と君にはご縁がなかったようです。君に新しく素敵な恋の縁が舞いこむことをお祈りしております』みたいな就職不採用通知の真似事的な言葉ぐらいだろう。そんな台詞を言わせるためにこいつはわざわざ僕に告白してきたんじゃないことぐらいわかるし、下手な慰めを口走ったことによってこのガキとの仲が険悪になるのもできれば避けたかった。まあ、告白された時点でもう普通の仲からは逸脱してしまったわけだけど。こいつは面倒くさいことに堂島さんの甥だ。下手に関係を崩してしまったら、その影響は少なからず堂島さんとの仲にも及ぶだろう。ただでさえポカやらかして左遷されたダメ刑事のレッテル貼られてんだ、これ以上職場での立場を危うくしたくはない。そのためにこいつとの関係をまあるくまあるく収めて大団円ハッピーエンドに持ち越したいんだが、それはこいつの出方次第だ。さて、返事はいらないってことは、ただ好きだって気持ちを伝えたかっただけってことなんだろうか。うっわーなんつーお笑い種。でもそのままお笑い種でいてくれりゃあこちとら大助かりだ。『こんな僕を好きになってくれてありがとう。君の想いは忘れないよ』とでも言っとけばベソかきながら帰ってくれんだろ。どこの安っぽい恋愛ドラマだっての。笑いすらこみあげねーわ。
嘲笑混じりに胸中で呟いていると、そいつは射抜くような瞳をこっちに向けた。今目ぇ逸らしたら殺されそうだな、と頭のどっかで考える。鋭い眼光は堂島さん譲りで、もしこの目で事情聴取なんかされたらたぶんほとんどのやつは2分かそこらで音を上げるだろう。実際、堂島さんの事情聴取で耐えれたやつなんて数えるほどしかいないって聞くし。こいつも将来刑事になればいいのになあ、と珍しく他人の将来なんかを想像していたとき、そいつは腹が立つくらい整った唇からぼとりと言葉を落とした。ぽろり、とか、そんなかわいい擬音じゃ似合わないような、笑っちまうぐらい自分勝手な言葉を、ごく自然に吐いたのだ。

「あんたがなんて言おうと、勝手にあんたを俺のものにしますから」

ガキの勘違いほど面倒なものはない。それを心の底から思い知った瞬間である。青臭い台詞を並べ立ててかっこいいと思いこむのは特に悪いことだとは思わないけれど、そのかっこつけごっこに人を巻きこむのは感心しない。いや感心しないどころじゃない、非常に迷惑極まりない。ごっこ遊びなら友達と勝手にやってろよ、そこに大人を巻きこむな。はーぁと大げさについたため息は風に運ばれてどこかに消えた。

主花未完(P4)

「陽介はそんなに人殺しになりたいの」

唐突にそう言ったのは確かに目の前のこいつである。こいつであるんだが、どうもその事実を享受できなかった俺は返答を見送った。いつも冷静で穏やかで、俺が僭越ながら相棒の座に居座らせてもらってますって言いたくなるぐらいの完璧超人のこいつが、いきなりそんな物騒なことを言い出すんだからそりゃあ俺じゃなくても驚くだろう。転校三昧の人生だったからか人の気持ちには誰よりも敏感なこいつが、まさかそんな無礼発言をぶちかますなんて。なに、おまえの中ではもう無礼講の季節来ちゃってんの?春はまだ先だぞ?見ての通り俺だいぶ厚手のジャンパー着てるぐらいまだ寒いよ?あと無礼講っつっても無礼に振る舞っていいって意味じゃないからな。と、こいつは今お花見特有のはっちゃけ感を持ち合わせて無礼講大会気分にでも浸ってるのかと冗談半分いや冗談全部で考える。が、冗談にはすぐ飽きた。さて、そろそろ本格的に思考の回路を巡らせようじゃないか。そう思ったが、右や左から聞こえてくる老若男女の様々な声がどうしても耳に入ってきて気を逸らさせられる。ああ日曜のフードコートは苦手だ、ざわざわしてるのは嫌いじゃないけどこれは人が多すぎる。こんなちっさい町のどこからこんなに人が来るんだよ。さすが天下のジュネスと胸を張ることさえ億劫なんだから相当だ。というかわざわざこんな混雑した場所で、なんでこいつはさっきの台詞を俺に投げたのか。そこも疑問の一つだった。とにかく今は、こいつの考えてることが珍しくわからない。1年近くの間ずっと傍にいて、こいつのことはある程度わかっているつもりだったが、どうやらそれは自惚れだったのかもしれなかった。


花村が生田目をテレビに落とそうとしたことについて怒ってる番長を書きたかったはず

トム静未完(drrr!!)

びっくりした。それはもうびっくりした。心臓が止まりかけた。そんなにびっくりするようなことでもないのに、目ん玉飛び出しそうにさえなった。理由は、ただ、後輩の笑顔が思ったよりも可愛かったってだけ。中学時代にさんざん見てきた、むしろ中学時代のほうが無邪気で可愛らしかったそいつの久しぶりの笑顔が、こんなにも俺を驚かせる効力なんて持ち合わせていないはず。なんだが、20代男の笑みにしてはまあちょっと幼いかなと思うぐらいのそれに対して、こんなにも動揺している自分は確かに存在しているわけだ。それは変えられない事実であるわけだ。照れくさそうな、しかしながらやたらと嬉しそうな後輩の笑顔が、頭の中を巡回している。首の後ろを掻きながら、擬音で表すとにへら、といった風に。他愛もない日常会話での、ほんの少しの表情の変化。そこに揺さぶられる自分の網膜にはもはやクエスチョンマークを浮かべるしかないんだが。だが、真実を追うとすると、金色の髪が揺れて、グラサン越しに目を細め、口元を綻ばせた後輩はやっぱりなかなかどうして可愛いものだったさ。女から見たら『きゃあ可愛い』って叫びたくなるだろうぐらいには。
池袋の喧嘩人形、なんて呼ばれているこいつのこんな間の抜けた顔を知ってるやつなんて、ここらでは俺くらいのもんじゃねーのかとちょっとばかし自惚れるほどには。

「トムさん?どうしたんすか?」

はっ、と我を取り戻したときには、目前にあった後輩の不思議そうな表情。なんだか知らんが照れくさくて、1、2歩後ずされば、今度は後輩が驚く番だ。目を丸く見開いたかと思えば、だんだんと表情を曇らせていく。曇天色の後輩の顔は土砂降り5秒前で、それでも歪な笑みを貼り付けている。だがその虚勢は、次に発する俺の言葉次第ではトランプタワーのようにいとも容易く崩れ去ってしまうだろう。やばい、今のはまずかった。どうやら怖がられたとでも思ったらしい。

「お、俺、なんかしました…?」

番長と菜々子(P4)

ああ今日は記念日だ。きみがこの世に再び生を受けた記念日だ!ほら、お日様もにこにこ笑顔で笑ってるよ。きみの安らかな寝顔に柔らかい陽をあてて微笑んでるよ。きみがいま起きていたら、今日は洗濯日和だねって笑うんだろう。きみのパジャマとお父さんのシャツと俺の制服を物干し竿にてきぱきと吊していきながら、お洗濯たのしーねって、言いながら笑うんだ。その嬉しそうな声を、俺は失わずにすんだ。諦めかけた希望は、まだ輝きを損なってはいなかった。ああ、よかった。本当に。もしきみがこの世からいなくなっていたかと思うと、情けないけど震えが止まらない。あの機械に表示された直線と0という数字を思い出すだけでも、涙が出そうになる。部屋を支配した機械音は俺に大きな絶望を植えつけていった。それが今またこうして一定間隔の音を室内に響きわたらせていることが、いったいどれほどの希望を俺に与えていることか。ああ、菜々子、菜々子。血は繋がっていないけれど、俺の大事な大事な、たった一人の妹。きみが生きていてくれたことで、救われた人が何人いたか。きっと数えきれないほどの人が救われたはずだ。俺はもちろんその一人で、きみが生きていてくれたことが嬉しくてしょうがない。ああ、視界がぼやける。泣き虫なお兄ちゃんでごめんな。でも、今だけは許してほしいな。
なあ菜々子、俺はきみのお兄ちゃんになれて、すごくすごく幸せだよ。頼りないお兄ちゃんだけど、これからは絶対にきみを守るから、どうかずっと俺の妹でいてほしいんだ。お兄ちゃん頑張るから、これからもよろしくな。大好きだよ、菜々子。


ななこが生き返ったときはさすがに号泣したんじゃないかな番長 ちなみに私は雄叫びあげながら号泣しました
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