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イールシ未完(シャダイ)

未プレイ時に書いたもの
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私よりいくらか骨ばっていて、しかし少し低い位置にある隣の肩に頭を乗せてみる。びくりと大げさに身を跳ねさせた男は、うわずった声で私を呼んだ。しかしそんなのは無視してやって、寝たふりを決めこんでみる。本来天使は睡眠なんてあまりとらなくても生きていける。このことをこいつが知っていたらすぐばれる嘘だが、まあいい。そのときはそのときだ。おまえをからかった、と言ったらどんな風に困ってみせるのかも興味があるし。何かちょっかいを出す度にいちいち違った挙動を見せるこいつは本当にからかい甲斐があるなあ、と胸中で呟いて、悟られないようにほくそ笑む。多種多様な感情を持つところは、やっぱり天界にいる天使たちとはなかなかどうして違っているものなんだな。天使たちは何をしても『どうなさいましたか』と返答するぐらいしかバリエーションがないから、まったく面白くないんだ。だからおまえのそういう人間らしいところも気に入っているよ、私は。
1分、2分と時が過ぎていく。しかしこいつは最初に私の名を呼んだきり、黙りこくって動かなくなった。どうやら私が寝ていると思ってくれているらしい。お人好しなこいつのことだ、起こしちゃ悪いと気づかって動くに動けないんだろう。ああ、そう思うと動きたくなくなってくるな。

イールシ未完(シャダイ)

未プレイ時に書いたもの
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鳥のさえずりが意識の向こうで聞こえて、瞼を持ち上げると部屋に日差しが射しこんでいた。ああ、朝か。いやもしかしたら昼かもしれない。久々のまともな寝床が気持ちよくてつい寝過ぎてしまったのか、体にけだるさを感じる。
昨夜、休憩場所を散策していたときに草の生い茂る地の奥にひっそりと存在している村を発見した。希望は薄かったが、村の入り口近くにいた老人にここで少し休ませてはもらえないだろうかと掛け合ってみたところ、意外にもあっさりと了承をもらえたうえに少しと言わずに一晩泊まっていけとありがたい言葉を頂いたのだ。そして、その老人の家で寝具を借り、ぐっすり睡眠をとって、今に至る。
やはり野宿とでは到底寝心地が違う。外で寝るには、いつ敵が襲ってきてもすぐ対応できるように座って眠りにつくことが多いから、こうやって横になれることが幸福に感じられる。もう少しだけこの幸せを味わいたくて、起きるのがだんだんと億劫になり始める。この辺り一帯の気温は低めだから、この毛布の温もりは反則だ。ああもう離さないぞむにゃむにゃ。

「おい」

私が毛布を強く握りしめたと同時に、布の上からから聞き慣れた声が降りかかった。耳に低く響く重低音はきっと、私の信頼するサポート役の彼だ。ん、しかし昨日村を訪ねたときにはいなかったのに、どうして今ここにいるんだろうか。思考していると、体を小さく揺すられた。

「そろそろ起きたらどうだ」

ゆさゆさと一定のリズムで揺られる体がむしろ心地よくて、また微睡みの中に飛びこんでしまいそうになる。起きろと囁く声も、もはや子守歌の代わりにしかならない。ああ、でも起きないと。せっかくルシフェルが起こしにきてくれているんだから、この温もりとも別れないといけない。それは頭ではわかっているが、いかんせん体のほうが言うことを聞かないんである。かろうじて滑り落とした言葉は、『あと5分』というただの悪あがきだった。

「あと5分とかなんとか言って、けっきょく1時間は寝るんだろう?ほら、早く起きろ」

イールシ未完(シャダイ)

未プレイ時に書いたもの
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イーノックが戦い始めて数時間。そろそろかなと思っていたところで、やはり時間停止の命が下った。おかしい話だとは思うのだが、この命を下している者の顔を私は見たことがない。いや、見たくてもきっとずっと見られないのだろう。頭に響く停止命令に従って、いつものようにぱちんと指を鳴らす。途端に辺り一面が静まり返り、つい先程まで活動的に動いていたイーノックも動きを止めた。いや、止められたというべきか。さてはて、誠に不思議な話なのだが、どうやら戦闘中のイーノックは必ずしも自身だけの意志で動いているわけではないらしい。誰か動かす者、確か神はプレイヤーと呼んでいたな。そのプレイヤーによって動かされているらしいのだ。だから、そのプレイヤーが休憩をとれば、イーノックは自分の意志に添わず動きが止まってしまう。しかし敵はなんの問題もなく動いてイーノックを襲いにくるので、私はこうして全体の時間を止めるのだ。
だが、大きな問題が一つある。これは私が我慢すればする話なんだが、なかなか苦痛なものなんだ。時間を止めている間、私はすごく、とても、驚くほどに、暇だ。暇なんだ。暇すぎるんだ。
今まで動きの止まっている敵を並べて積み木倒しをしたり、逆立ちや腕立て伏せの練習をしたりといろいろやってきたのだが、何をしてもすぐに飽きてしまう。一度イーノックを今いる場所からまったく別のところに移動させてやろうかとも思ったが、いかんせん奴は私には重すぎた。まさかこんなところで体格差の現実を感じるとはな。
これなら天界にいたほうが暇じゃなかったかもなあと思いながら視線を空に向けた。青と白のコントラストが眩しい大空は、見ていると何かを思い出す。確かイーノックに関連している何かだったような、と相変わらず固まっている彼を見やれば、たとえ時間を止められていても変わることのない凛とした瞳が虚空を見つめていた。それは空のように青く澄んでいて、ああこれかと納得する。イーノックに近づいて、ガラス玉のようなそれに視線を送った。鼻先が触れ合うほど顔を近づける。いつもなら顔を真っ赤にして大騒ぎするであろうイーノックは、当たり前だがなんの反応も返さない。面白くないなあと不満を感じながら観察を続けた。私の瞳とは正反対の、落ち着きを与えるような色。影を落とすまつげが思っていたより長いことが意外だった。

イールシ未完(シャダイ)

未プレイ時に書いたもの
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「駆け落ちでもするか」

と、いつもの大天使然とした態度と声域でルシフェルが呟いたのは、確か2日前。彼が何を思ってそんなことを言ったのかはいまいちわからなかったが、ルシフェルがそれを望むならと駆け落ちを了承して、多少の準備をしたあとに出発したのが昨日。そして、冷たい結晶に真っ白に塗り変えられたこのステージで、何をするでもなく隣にお互いの存在を感じながらぼーっと座りこんでいるのが今。辺り一帯が見渡す限り銀世界で、空に解けていく息は煙のように白かった。そういえば昔、始めて寒い土地に赴いたときは、息が白いことに驚いて体の中が火事になったんじゃないかと大騒ぎしたな。今思えばものすごく恥ずかしい。
強く冷たい風が髪を揺らす。鎧の隙間に風が染み入って、少し寒かった。ルシフェルはかなりの薄着だが、そんな衣服で大丈夫なんだろうか、私でもわりかし寒いのに。
少し心配しながら隣を見やると、彼はいつもとなんら変わらない様子で遠くを見つめていた。ああ、そうだった。確か天使は暑いとか寒いとか、そういう感覚は存在しないんだったか。彼らにとっては、いらない感覚だから。でも、それは少し寂しいな。傍にいるのに、体温を感じてもらえないだなんて。

「…一晩でずいぶん遠くまで来たな」

先程まで押し黙っていたルシフェルがふと言葉を零した。突然のことに、少し驚く。そうだなと返して、彼の視線の先を目で追った。降り積もる雪は地上にいた頃も天界にいた頃もあまり目にしたことがなく、ここが本当に私たちにとっては未知の、遠い場所なんだと思想させた。

「さて、次はどこへ行こうか」
「…うーん」

彼はこうやって休憩するたび、次はどこへ行くかの選択を私に委ねる。自分では決めないのかなと思いながら、私は適当に右左と選択してきた。しかし一晩歩きっぱなしではさすがに疲れる。もう少し休憩していたいなと感じたところで、彼がくれたジーンズの収納スペース(確かぽけっとと言ったかな)の中に入れてきた少量の菓子のことが頭に浮かんだ。

「ルシフェル、先を行くのはもう少し後にしないか?実は茶菓子を持ってきたんだ、それを食べよう」
「…遠足気分かイーノック…。出発前に準備していたのはそれか」

呆れたように肩を竦めて嘆息を漏らす。こういう彼の動作はけっこう好きだなあ、なんて思いながら、紙で包まれた「あめ」や「ちょこれーと」を地面に置いていく。これは全てルシフェルがくれたものだ。遠い未来の食べ物らしく、彼はこれらの食べ物を気に入っているらしい。私もこれらを気に入っていた。
赤、青、黄といろんな色の菓子が地面に転がる。ルシフェルはその中の一つを手にとって、包装紙を剥がすとそれを口に入れた。その様子を見守りながら、私も赤い包みのものを掴んで、紙の中の黒い塊を口に入れた。噛み砕くと、甘い味が舌に広がる。

「それで、どうして駆け落ちなんて言い出したんだ」
「ん」

そろそろ訊く頃合いだろう。どうして彼がいきなりこんなことを思いついたのか。例え私たちがどんなに遠くへ行こうとも、神にかかればかくれんぼよりも簡単に見つけられるだろうに。逃げたって、意味がないのに。
ルシフェルは深い赤をした瞳をこちらに向けると、舌であめを転がしながら飄々とした風体で言った。

「理由なく駆け落ちしちゃあ駄目なのか?」
「理由なく駆け落ちすることはあまりないと思うが…」
「ああ…確かにそうだ」

顎に手をやり納得した様子で頷くルシフェル。うーむと唸ったかと思えば、はぁと嘆息を一つ。何か言いにくいことでもあるんだろうか。
「そうだな、少し照れくさいが白状しようか」
「?」

首を傾げると、ルシフェルは「よっこらせ」という大天使にあるまじき掛け声と共に立ち上がり、静かに私を見下ろした。そして、照れくさそうに頬を掻きながら言うんである。

「おまえと二人きりになりたかったんだ」
「……私と?」
「ああ」

私と、二人きりに。

イールシ未完(シャダイ)

未プレイ時に書いたもの
現パロ
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爪を噛む彼の姿は、まるでひまわりの種をかじるハムスターのようだ、と毎回思う。手慣れた様子でかりかりかりかり、小動物のように自らの爪を噛む彼の姿は、小動物というより猫のような普段の立ち振る舞いとのギャップもあってか正直可愛かった。私の隣でソファーにもたれかかって大学の課題プリントに熱い視線を送っているルシフェル。考え事をするときに爪を噛むのは、彼の癖だ。

「ルシフェル、また爪を噛んでるぞ」

もっと見ていたいと思ってしまうが、それじゃあ彼のせっかくの綺麗な爪がぼろぼろになってしまう。私もそれは悲しいから、最近はルシフェルがこうやって爪を噛みだしたら注意をするよう二人で約束していた。彼は歯の動きを止めて、視線をプリントから私に移す。

「ろっとぉ、またやってしまっていたか。ありがとう、イーノック」

集中しているとどうしてもやってしまうな、と言って彼は眉を下げる。

「癖というのはなかなか直らないからな。仕方ない」

私だって、未だにストローを噛む癖が直っていない。だからもしストローを噛んでいたら注意してもらえるようルシフェルに頼んでいる。噛み癖についてはお互い様だった。
彼は柔らかく微笑んで、またプリントに目を向けた。私もテストが近いし勉強しようと横に置いてあった鞄からノートを取り出す。それを机に広げて復習を始めれば、部屋には静寂が訪れた。今この空間には、チクタクという時計が動く音と、シャープペンシルが紙に文字を綴る微量な音と、かりかりという音しか存在しない。…ん?かりかり?
横目でルシフェルを見やる。彼は深刻そうに眉間にしわを寄せて、親指の爪を噛み始めていた。

「ルシフェル!噛んでる!」
「ん?…あ」
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