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折空未完(TB)

「疲れたでしょう」

今回のヒーローランキングが発表されてから初めて、折紙くんと言葉を交わす今日。トレーニングルームに響いた彼の第一声は、私がかけられるだろうと想像していた台詞とは少し違っていた。残念でしたね、とか、そういう言葉が降ってくるのだとばかり思っていたのに。折紙くんはまず最初に、私を労ったのだ。

「さすがのあなたでも、キングオブヒーローの称号は重いものだったでしょう」

折紙くんはゆっくりと私に語りかける。優しい視線が風のように私を包んだ。まさか、そんなことを言われるだなんて。市民や上司、周りの人たちは皆私に慰めの言葉を発したというのに、君は辛かっただろうと私に問う。いいや、折紙くん、しかしね、辛くなんてなかったさ。確かにほんの少しくらいは、重かったかもしれないけれど。バーナビーくんに譲り渡したあの称号に対して、私は誇りを感じていたぐらいなんだ。

兎虎(TB)

※ヤンバニちゃん
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だから何度も言ってるようにあなたは素晴らしいんです。まるで天使のように神のように深い慈悲を持った奇跡のような存在なんです。いいえ、奇跡そのものなんです。あなたという存在の誕生、生存によってどれほどの命が救われてきたかあなたはわかっているんですか?ああきっとわかっていないんでしょうね。そうですよね、あなたはとてもとても謙虚だから。自分を卑下する代わりに他人を愛する人だから。仕方ないですよね。ああでもね、僕はあなた自身にもあなたの素晴らしさを理解してほしいんです。そうすればあなたはもっと自分に自身が持てるようになりますよ。あれ?なんで謝るの?ねえ虎徹さん、どうしてそんなに謝っているんですか?ねえ?僕なんかのためにあなたの自尊心を失わないでくださいよ。僕なんかのためにあなたのプライドに傷をつけないでくださいよ。ねえ虎徹さん?僕は怒っていませんよ?え?だからどうして謝るのって訊いてるのに。無視するなんてあなたらしくないじゃないですか。だってあなたは僕のどんな言葉だって一度も無視しなかったし聞きこぼさなかったでしょう?ねえどうしたの虎徹さん、もしかして調子が悪いの?ごめんなさい、あなたの体調にすぐ気づけないなんて僕はパートナー失格だ。やっぱりあなたのように他人を思いやるのは難しいなあ。もっと気遣いのできる人にならないと。え、バーナビー?いつもみたいにバニーちゃんって呼んでくれていいんですよ?昔は嫌がってましたけど、僕はバニーと呼ばれることで20年間積み上げてきたバーナビーでも4歳までの自分でもない新しい自分を作り上げることができたんですから。今の僕はバニーという呼び名を一番愛していますから、存分にそう呼んでくださって構いませんよ。ね、虎徹さん。

「バーナビー、たのむ、から、やめ、ごめ、ん」

虎徹さんは弱々しく僕の足を掴んだ。ああ、そんなあなたの血でまみれた手で触らないでくださいよ。興奮する。自由なほうの足で彼のお腹を蹴り上げると、虎徹さんは小さく呻いてまた血を吐いた。ごめんなさい、痛いでしょう?でもね、あなたが悪いんですよ。あなたが低俗な下衆野郎たちと話なんてするから。あなたの口はあんな醜いやつらと言葉を交わすためについているんじゃないのに。あのね、虎徹さん。あなたはとんでもなく素晴らしいんですよ。だからあまり自分を安売りしないでください。わかりますよね、虎徹さん?ね?ねえ、返事をしてくださいよ。ね、虎徹さん?虎徹さん、こてつさん、ねえ、

空シス(TB)

ああ私は今から死ぬのか。身体が派手に破壊されて、感覚が一瞬で絶える。私の体を裂いたのはあの人間、いつも公園に来る彼だった。容姿が違っていたけれど、声音を照合したらぴたりと合致したから。あと、人間はこういうのを雰囲気っていうのかしら、取り巻くそれが彼そのものだったから、すぐにわかった。ねえヒーロー、名前も知らないヒーローのあなた。私の話を聞いてくれる?といっても、もう話せる口もないけれど。それでも言うわね。あのね、私はね、ずっとずっと、自分が嫌いで仕方なかったんだと思うの。誰かに壊してほしくて、でも私は壊すばかりで。だからあなたに破壊されることが、とても嬉しいのよ。あなたに感謝してもしきれないの。あなたのおかげで、私はいま愛さえも知ることができたのだから。アンドロイドにはもったいなさすぎる気持ちを私にたくさん教えてくれたあなたが、眩しくて愛おしいの。こんなにも満ち足りた想いを抱えたままこの空で果てるなんて、ああ、こんな気持ちを幸せって呼ぶのね。できることならもっとロマンチックなシチュエーションで手をつなぎたかったけれど、もうそこまでの贅沢は言わないわ。私、今で充分幸せだもの。ねえ、空色の瞳をしたあなた。せめて名前ぐらいは知っておきたかったわ。さようならヒーロー、そしてありがとう、私のヒーロー!

主足未完(P4)

「もう君の好きにしていいよ」

そんな無気力な無表情で言われてもグッとこないしムラッともしない。待ち望んでいた展開がやっと目の前に転がりこんできたというのに、俺はそれを蹴り飛ばしてしまおうかとさえ考えていた。狭くて古いアパートの一室で、年季を帯びて変色した部屋の床にへたりこむ彼。それは確かに俺の好きな人で、ここは紛れもなくその人の部屋だ。そして彼が告げたさっきの一言。これは、この状況はもう、据え膳という魅惑的な3文字が一番しっくりくる。だというのに、だというのにだ。俺の理性は死んだようにぴくりとも動かない。その原因はやっぱりお葬式の後みたいな彼の表情にあった。

基緑基未完(稲妻11)

俺は今日、子供を産んだ。端正な顔立ちと燃えるような赤い髪を持った子で、外見は実に申し分ない。しかしながら、ひどくとてもそれはそれは、最上級の意味である語群たちを心ゆくまで並べ立てたいくらい、不器用な子供だった。せっかくの容姿はその不器用さのおかげであってないものになってしまっている。宝の持ち腐れってこういうことを言うんだな。なんてぼんやり考える俺にしがみついて、生まれたての子供はひたすらわんわん泣いていた。聞いたこともない大声で、見たこともない顔で。俺が産まれたときも、こんな風に泣いたのかなあ。涙と鼻水をぐちゃぐちゃに混ぜて謎の液体を作り出してたのかな。そのとき顔も知らない父さんと母さんは、きっと俺の涙を拭いてくれたんだろう。なら、俺もこいつの涙を拭いてやらないと。なんたって俺は、こいつの第2の産みの親なんだ。基山ヒロトを産みなおした男なんだから。お疲れ様でしたグラン様、もういいんじゃないですかと声をかけた俺に、ヒロトは怒りも悲しみも寂しさも全部全部ぶちまけた。そして最終的には俺にしっかり抱きついてわんわん泣いている。たぶん彼の中でグランはいなくなって、やっと基山ヒロトが産まれたんだ。その門出を真っ先に祝うのがエイリアの下っ端だった俺だなんて、自分でもびっくりしてるけど。嬉しくないわけじゃない、いやむしろ嬉しくて仕方なかった。初めて産声を聞いたのは、初めて顔を見たのは、初めて抱きしめたのは、この俺なんだ。好きな人の誕生の瞬間を見ただなんて、喜ばしくないわけがない。
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