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兎虎(TB)

※死ネタで電波
ヤンバニちゃん
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彼は二酸化炭素を吸い酸素を吐くような人だった。だから僕の吐いた二酸化炭素を吸って生きてくれるかと思った。僕も彼の吐く酸素を吸って生きれば、もう二人で生きていけると。

「そう思ったんです」
「なんだそりゃ」

見当違いだったらしい。彼は二酸化炭素と僕を咎める言葉しか吐かない。

「期待してたのに」
「意味がわからん」

部屋の中には二酸化炭素だけが充満していた。呼吸をするのが苦しい。生きていくために絶対にしなければならない、当たり前のことがこんなにも困難だなんて。酸素は偉大だ。見えないところで僕たちの生を支えてくれていたんだ。

「なあバニー、バニーちゃんや」
「なんですか」
「死んじまうよ」

ひゅうひゅうと、吹き荒ぶ木枯らしのような音を彼は奏でる。先程から僕の背中を掻き抱く手が小刻みに震えている。

「こんなとこにいたら、おまえも俺も、お陀仏だ」

肩に乗せられた彼の顔が、青白く染まっていることも当に知っている。けれども僕はここを出ようとは思わなかった。だってここは二人きりの世界。信じるものはあなたしかないし、ここでずっと見張っていれば裏切られる心配もない。難点は、すこし息苦しいことぐらい。最高の場所だ。震える彼の体を強く抱いて、耳元でそっと囁く。

「大丈夫ですよ、死にませんよ」
「んなこと言ったって、ここには酸素が、」
「大丈夫、大丈夫ですよ。死にませんよ」

ぽんぽんと彼の背中を優しく叩く。不安なんだな、きっと。大丈夫、苦しいだけですから。死んだりなんかしませんからね。もし死んだとしても、ここよりもっと素晴らしい場所に行くというだけです。天国ってね、存在していると僕は思うんですよ。僕の父さんと母さんはそこで幸せに暮らしているんですよ、きっと。きっとね。

「なあバニー、死ぬよ、死んじまうんだよ、わかってくれよ」
「大丈夫、大丈夫ですから」
「だめなんだよ、ここにいたらだめなんだよ、ふたりぼっちじゃ生きてけねえんだよ」

おかしなことを言うなあ虎徹さんは。ふたりぼっちが一番幸せなかたちなのにね。酸素がなくたって大丈夫、愛を吸って生きていけばいいんですから。こわがらないで。

「なあバニー、バニー、無理だ」
「否定的な言葉なんてあなたには似合わないですよ」
「バニー、」
「虎徹さん」
「、ばに、」
「虎徹さん…」

ああ視界が霞む。きっとこの先に天国があるんだ。だらりと垂れた彼の腕を掴んで、色をなくした肌に、手の甲にキスをした。これからはずっと一緒ですね。
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