窓の外を眺めていると、珍しい虫さんがぴょこんと草むらを跳ねるのを見かけた。あの虫さんとは前に会った時あんまり仲良くなれなくて寂しかったから、今日は仲良くなりたいな!そう思って、急いで窓を外して外に出た。草むらの近くに駆け寄ってさっきの虫さんを探す。小声で虫さんを呼んでみるけれど、恥ずかしがり屋さんなのかなかなか出てきてはくれなかった。
「おい、ゴン太!」
急に後ろから声をかけられてすごくびっくりしてしまう。振り返ると腰に両手を当ててとても怖い顔をしている王馬君がゴン太を睨んでいた。どうしよう、見つかっちゃった!
「ごめん王馬君!窓の外に虫さんが見えたから……」
「はあ?お前ってやっぱり脳みそスカスカのバカだよね。オレ前に言わなかったっけ?このシェルターにはもうオレとゴン太以外の動物はいないんだって」
そうだった。ここにはもう虫さんはいないんだった。そもそもゴン太達がここにいる理由は、有毒ガスや隕石のせいですごく危なくなった外の世界から一時的に避難するためだ。危ないから一歩も部屋から出るなって言われているから見たことはないけど、ここではとっても大きな空気清浄機が回っていて、それは虫さんにとってあまりいい空気じゃないらしい。だから虫さんはもうこのあたり一帯にはいないんだって王馬君は前に言っていたっけ。じゃあさっきの虫さんはただのゴン太の見間違いなのかな。確かに見たと思ったんだけど、王馬君がいないって言ってるんだから、いるわけがないのかな。
「あのさあ、ゴン太。お前頭だけじゃなくて目まで悪くなって、そんなので外の世界の復興なんか手伝えると思うか?もし外なんか出ていってもお前は一生みんなの足手まといだよ」
「ええっ、それは嫌だよ……!」
「だろ?」
王馬君の目元が優しくやわらぐ。ゴン太を見る王馬君の表情は森の家族みたいに柔らかくて暖かかった。でも何か冷たいような生温いような、不思議な温度にも感じられる。ああ、うまく言えない。ゴン太は本当にバカだなあ。
「いいか?みんなの足を引っ張りたくないなら、絶対にここから出ようなんて思うなよ。ここじゃないとお前は生きていけないんだからな」
ゴン太に言い聞かせるように王馬君はそう言った。でも、ずっとここにいて王馬君に迷惑をかけ続けるわけにもいかない。それにゴン太は早くこの世界のみんなのことを助けたいんだ。だから王馬君の優しさは本当に嬉しいけど、ゴン太は絶対にここから出ていかなくちゃいけない。よし、ゴン太はここで紳士になる準備をしよう。それが今のゴン太に出来る唯一のことだ。
「王馬君!ゴン太は早く紳士になって、外のみんなを助けられるように頑張るよ!」
「……お前結局全然話聞いてないじゃん」