「百田ちゃんはさ、なんでそこまでバカみたいに人を信じるわけ」
『そこ』に寝そべりながら、王馬は細い声でオレにそう問いかけてきた。振り返ってその表情を窺うと苦しげに寄せられた眉間が皺を作っている。青ざめた頬の血色は悪いなんてもんじゃない程の色で、それは確かにもうすぐ死ぬ人間の顔だった。
「人間なんて嘘ついて当たり前じゃん。キミの大好きな最原ちゃんだって、相当嘘つきだよ?信用なんてしても嘘で裏切られるのが普通なのにさ」
「そこまで何かを信じられるのって、やっぱりキミの長所だよね」
そう言って王馬は薄く口角を上げた。こいつから褒め言葉まがいのものを投げられると思っちゃいなかったから面食らってしまう。絶対にこの言葉も嘘なんだろうとは理解しているが、ただ王馬の目は意外なほど真っ直ぐにこっちを向いていた。
「あーあ。せめてキミが一番に死んでくれてればなあ」
言って、王馬はオレから視線を外しゆっくりと目を閉じる。かなり毒が回っているのか、語尾はほとんどかき消えるようにか細かった。
「……オメーの長所は嘘の上手さだな」
「それにどれだけ悩まされたかわかりゃしねえよ」
簡潔に、それでも身の丈を越すほどの実感を詰めて王馬にそう返す。そしたらそいつはいかにも嬉しそうに、呪いじみた笑顔で幕切れを示した。
「オレ、勝ち逃げって大好きなんだよね」