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主足(P4)

いつか死んだって愛してくれるとあなたは言ったことがあるんですよ。俺が死んだってあなたが死んだって世界の何もかも全部が死んだって愛すって。たくさんの不条理を吐きながらあなた風変わりな遺言を俺に託した。そうしてそのあと誰かが死にましたよね。あれは俺だったかあなただったかふたり以外のすべてだったか、なんだかうまく思い出せない。でももうそれは、そんなことはどうでもいいんです。問題はあなたが俺を愛すと言い放ったこと。あの日から俺の愛は弾け、形を変え、思わず目を逸らしてしまうような美しさへと成り下がったのです。気味が悪い安らぎの象徴、くすみ剥げかけた輝かしい冬?ああ、継ぎ接ぎだらけで素晴らしいですよ!それはもう本当に死んじゃいたいくらいに!俺は醜いあなたをただ愛していてただけなのに、ある日それがすべて無意味な希望へ繋がっただなんて滑稽な話じゃないですか。あのときのあなたは道化がお得意でした。例えば俺があの日あなたの銃で自ら死体に生まれ変わったとして、そうしてもあなた本当に俺を愛してくれたのかしら。わからないですね、なんにもわかりはしないですね?本当に愛してくれていたのなら、それはもう、嘘みたいに幸せだけれど。とにもかくにもあなたの愛が俺には凶器に見える。心臓にひんやりとした刀の切っ先を突きつけられているような気持ちになるんですよ。それくらい愛しているのか、それっぽっちの愛なのか。少なくとも後者は有り得ませんね。だって何年も何年もずっと愛してきた。今さらそれっぽっちだとか、冗談でも言えませんよ。…ああ、どこかで、女が喘いでいる。どこか悲しくなる音色ですね。もう声も掠れてしまっていて、聴くに耐えないくらい…。


「愛してたよ」
「嘘つき!」

あのとき君には言わなかったけれど、本当は僕ね、あの日のことを覚えていたよ。もう何もかも遠のいた、淡い昔の記憶としてちゃんと頭に残っている。確かに君が死んだって愛していると僕は言った。あの日の僕はとち狂っていて、君がかわいくて仕方なかったんだ。正常な思考回路がすべて死んでいた。でも、たとえ嘘だと言われようと狂っていようと、あのとき僕が君を愛していたのは残念ながら事実だ。はっきりと形を成した状態の愛は音を立てて僕の目の前に転がった。信じてもらおうだとかはべつに、そこまで思ってもいなかったけど。でもあのあと、僕は君が思い出せないという死人の正体になった。あれはちょっと困ったなあ。まさか終わらせられるなんて考えていなかったから。僕は確かに君をなめていたし、変な安心感をずっと抱いていた。まさかそんな、どちらも、殺す勇気を持ち得るまでのゲームには至らないだろうと。でも君はたくさんの涙を流しながら歯を食いしばって、僕を勢いに任せて殺したね。それでも死の直前に見えた目をひん剥いて鼻水垂れ流した君の顔は実はけっこう可愛かったよ。つまり僕は自分でも信じられないことに、命が途絶える一瞬間までは、ちゃあんと君の気味を愛していたのさ。おどろくだろうね、これは。嘘吐きだと言われても本当に仕方がない、僕だって嘘にしか思えないもの。

「嘘じゃない。確かに愛していたし、今だって君のことを嫌いじゃあない」
「…、信じられません」
「それでいいよ。信じなくていい」

信じられないのなら、わざわざ信じさせることもないさ。昔の僕は君にとてもひどいことをしたしね。それでも、友情も努力も勝利もすべて僕のために燃えかすへ変えてくれた君に、僕は少なからずの感謝を覚えていたりするんだよ。ああこれも信じられないか。ならそれでいいよ。ただ、僕は君を愛していて、今も嫌ってはいない。本当に、これだけは本当だ。もう一度殺されたっていいくらいには。あと、君が聞いた女の喘ぎの正体は、どうして死んでしまったのと泣き喚く君自身の声だよ。知らなくってもいいけれど。ああもう夕陽がジュネスの後ろに隠れているよ。君も僕もオレンジ色に染まっている。やっぱり、僕は君をまだ愛しているかもね。また女みたいに涙を零す君を見て漠然と想った。
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