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主足未完(P4)

堂島さんちの彼、あいつって人間のふりをしている。ほんとうはポンコツのマシンなのにね。初めて会ったときの、俺を見ようと視線を動かした奴から派手に鳴り響いた機械音はたぶんこの先も忘れはしない。他のお仲間たちにはバレていないようだけれど、僕から見れば人間としての君はかなり不出来なまがいものだよ。何に対してもぎこちなくて、すべて不気味なくらい完璧すぎる。油をさし忘れているんじゃないかなんていう余計な心配をしてしまうほどにね。どうして彼とさほど関わりもない僕がこんなことに感づいているのかというと、まあ単純な話、僕も彼と同じなのだ。ウィーンガシャンと音を立てて動くロボット。

ユキハル未完(つり球)

「もし僕が死んじゃったらどうする?」

驚いたことがふたつあった。ひとつめは、ハルがそんな仮定論を持ち出してきたこと。もし〜ならなんて、そんなifの話をするようなやつではなかったはずだ、俺の友達は。もし、だなんてことを思い起こす脳がこいつに存在していただなんて考えもしていなかった。だからとても驚く。そしてふたつめは、ハルが死ぬ、ということ。僕が死んじゃったら、とハルは言った。言ったが、俺はその言葉の意味がまるっきり理解できない。だってハルは、俺の友達だろ?友達は友達の前から消えたりしないだろう。そうだ、宇宙人のハルが俺の手元から離れていってしまうのは必然的であるし仕方のないことだと諦めがつく、納得もできる。でも宇宙人とかそういうすべてを全部ひっくるめて今はただの友達である俺の中のハルは、ほぼ、いやきっと、確実に、絶対に、俺の傍から離れていくことなんてないだろう。死ぬ、という離別の仕方なんて念頭にも置けない、論外の話だ。ハルは絶対に死なないのだ。俺の友達でいる限り、死ぬことなんてない。友達とはそういうことなんだ。死ぬだなんていうもしもを話すのはなんとも馬鹿らしい。

「なに心配してんだよ、大丈夫だって」

だっておまえ、死なないじゃん。そう言ってハルの背をさすると、ハルはぴたりと動きを止めて俺をじっと見つめた。深海みたいな目だった。海の深くで死にかけている魚のような瞳がやけに俺の心を曇らせる。

ユキ夏未完(つり球)

なつき、って余裕なく漏らされる吐息に似た囁きは、着実に俺の思考回路をぐちゃぐちゃと混線させていく。触れてくる手はどこまでも炎みたいに熱くて、燃えてしまうんじゃないかなんていうばかな錯覚まで起こし始めた。もうなんだかへんに胸がいっぱいで、いっぱいいっぱいで、うまく言葉を見つけることができない。じっと俺を捕らえて離さない瞳が確かな情を孕んでいることだとか、そのすこし強張った表情が決意していることの意味だとか、いまここには、ユキの家には誰もひとがいないことだとか。そういうものばかりが頭を掠め、なんだか妙に照れくさく、ユキの顔を見るだけでわりと精一杯な自分がひどく格好悪く思えた。ふとユキが何かを言おうとして、しかし戸惑うように口ごもったかと思えばすこし視線を泳がせる。やがてかちりとまた俺の網膜を燃やして、熱に浮かされたまま紡いだ。

「夏樹、いい?」

ユキハル未完(つり球)

水族館という世界に触れるとき、魚が可哀想だという場にそぐわない感性を思考がからめ取るときがある。きれいな魚たちは回ったり跳んだりしてたくさんの生を俺たちに魅せるけれど、その生の範囲って人間によって限界まで狭められている。見せ物みたいに展示されて、ぶつかりかけながら箱のような庭を遊泳してさ。あのガラスの中から見たこちら側は彼らの目にどう映っているんだろう。そう俺は考えてしまうけれど、あいつらってなかなかどうして楽しそうに定められた世界を回っているときがある。可哀想だなんて大層な戯れ言を振りかざした俺にとって、それは不思議の対象だったのだ。なあ、おまえらってどうしてそんなに自由なふりが得意なんだよ。
そんな思想に溺れ尽くしていたとき、ハルは唐突に壮絶に俺のもとへやってきた。宇宙なんていう大海原に身を置いていたのに、自ら水槽に飛びこんできたっていうのだから驚きを覚える。それにはまあわりと深刻な事情があったわけだけれど、しかしながらあいつはこの空間をめいっぱい楽しみまくっていた。
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