「死んじゃおっか」

よく考えたら俺は社会からのはずれもの。いちばん愛される予定だった父親と母親にまで捨てられたかわいくもなんともないただ二酸化炭素を吐くだけの人間なんだ。地平線をぴんと張り詰めたまま静止する夜の海が怖い。今ここに飛びこんだら泳げない俺は絶対に死ぬよ。足にばかみたいな重さの鉛をつけて生きているせいで、どうしても海でだって浮けない。でも海は好きだよ。だからこそ海が好きなのかな。

「死ぬのこわい」

すっごくこわいんだよ。ずっと俺の手をにぎりしめていたハルが言った。怖いかな。そう口にして笑いかけるとハルも穏やかに微笑む。

「僕ね、大気圏で燃えかけたときとブラックホールに吸いこまれそうになったときすーっごいこわかった」
「そんなことあったんだ」
「宇宙人、大変。宇宙すっごーい!けどキケーン!」
「そりゃ、危ないよなあ」

なんてったって宇宙なんだから。まだ人間が完全に解明できてない、未知の期待と未知の恐怖が果てもなく広がる場所だもの。いろんなこわさが、そりゃああるよ。そんなところを日常的に遊泳するハルは、もしかしたらすっごく、すごいのかもしれない。