「おとうさんもうおしごと行かなくてよくなったんだって!だから菜々子ね、これから毎日おとうさんとジュネスいくんだ。それでね、お兄ちゃんともいっしょにいきたいんだけどね、菜々子がはなしかけてもお兄ちゃんはずっとずっとないてるの。お兄ちゃんジュネスいこって何回いっても、お兄ちゃんは菜々子のおっきなしゃしんのまえでじっとしてるだけなの。なんでお兄ちゃんはないてるの?かなしいことあったのかな。菜々子、お兄ちゃんがないてるのみたくないよ」

ちいさな女の子が目に涙を浮かべてこっちを見つめている。もうこれが何度目になるかなんて、そんなことはすっかり忘れてしまった。当たり前だけど君はいつまで経っても変わらないね。ちいさくてかわいいみんなの菜々子ちゃんのままだ。

「君はいつまでも僕を加害者の位置に留まらせるんだね」
「…なに?」
「うーん、菜々子ちゃんはかわいいねって話だよ」

かわいいかわいい菜々子ちゃん。しっかり者の菜々子ちゃん。不幸にも事件に巻き込まれ命を落とした、悲運な堂島菜々子ちゃん。僕の記憶の中にちいさく、でも確実に残り続ける小学1年生の女の子。彼女の姿を目にするたび胃がキリキリと痛んで、喉の奥がじわりと熱くなる。