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ユキハル未完(つり球)

「僕、きっとユキより早く」
「ハル」
「きっとずっと早くにね、死ぬと思う」
「…やめろよ」
「…死んじゃうよ、ユキのこと置いてく」

それでもユキは僕と一緒にいるの、僕は嫌だよとハルは俺に言葉を遮られようと気丈に続けた。それを受けて俺は、ああやっぱり、ハルが好きだなと思った。器用なんかじゃないくせに俺にうそをつくことをハルはいつだってやめようとしない。初めて大嫌いだって言われた日のことを思い出す。ハルのうそは決まって俺の胸を抉り、しかし俺を守ろうと必死なのだ。

ユキ夏(つり球)

ユキに好きだと言われ1ヶ月が経ったが、ふたりの間に大した変化が訪れることはなかった。いつもどおりに集まって釣りをしたし、ヘミングウェイでくだらない話に花を咲かせたりする毎日が平行線上で続いている。本当に特別なことは何もなく、ただ友達として日々を過ごしているのみだった。その間俺はユキへの返事をうやむやにしたままで、ユキも俺に何かしらのアクションを取ることはなかったと記憶している。ああでも、一度だけ。あんなことを言ったけれどこれからも変わらず一緒に釣りをしてほしいとバイトの帰り道に言われたことはあった。当たり前だろと取り繕うように作り上げた言葉を受けたユキは、ありがとうなんて口にしてなんだか寂しそうに笑っていたのだ。その笑顔はなぜだか今でも脳裏に貼りついている。とにかく、変わったことと言えば本当にそれくらいしかないほどだった。しかし、表面的には何も現れていなくても、告白された日から俺の内面に少しばかりの変化が到来しているのは否定できない事実である。隣に並ぶときの距離についてだとか、電話をかけるときの妙な緊張感だとか、見つめ合ったときの瞬きの回数だとか。本当に些細で、でも確実な変化らしい変化だ。何かにつけてユキと自分の関係を振り返り、ぶつかりかける視線を少しだけずらす。不思議と高鳴る心音はなかなかしつこく俺を焦らせ、おさまるにはすこし時間がかかるのだった。はあ、とため息をつくのももう指で数えることができない回数にまで至っている。花が開くように芽生えた意識は、緩やかに緩やかに、俺の奥の深いところを浸食しているように思えてならない。真剣な顔つきで水中に糸を垂らすユキをちらりと盗み見る自分の胸中をよく確かめようとしないのがたぶんその証拠だ。深追いはしてはいけない。でもこのもやのようなものを形としてなぞりたいという気持ちも確かに存在して、俺は今日も水面に映るユキに視線を注ぐのだ。さてここで俺はひとつ悩みを抱く。けっきょくあいつが俺のことを好きなんだったか俺があいつのことを好きなんだったか、よくわからなくなってきた。


乙女すぎた

主足未完(P4)

「実は俺6回目の2011年に死んでいるので足立さんがいつも見ている俺は足立さんが作り出した幻覚の俺なんです。それにしても足立さん、もう20回目にもなるのにまだ俺がいると思いこんで虚空に話しかけているの?どれだけ俺のこと好きだったんですか、ばかですね」

足立さんを小馬鹿にしながらも俺は涙が止まらなかった。だってあなた誰もいない空っぽで冷えた部屋の壁に延々と独り言を呟いているんですよ。自分の状況を客観的に見てください。すごくへんなひとですよ?俺はいちおう、俺と足立さんの認識としては足立さんの視線の先に存在しているから、返事はきちんとするけれども。外でこんなことしてたら確実に怪しまれますよ、足立さん、いつまで俺の影を追ってくれるんですか。俺が死んでもまだ俺のこと苦しめるんですね、なんてひどいひとなの。
涙と鼻水が混ざってよくわからないものになった液体をぼたぼたと床に落とす俺を見やって、足立さんは小さくため息をついた。そしてめんどくさそうに言葉を零す。

「気づいてたよそんなの」
「えっ」
「でも君、無視すると寂しそうな顔するじゃないか」
「してませんよ、べつに」
「してるよ。だって君、僕の幻覚っていうのは嘘っぱちでしょ。ほんとはただの幽霊のくせに」
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