トム静(drrr!!)

「かわいいっすよね、トムさんて」

静雄の匂いに包まれた部屋で、ふと部屋の主がそう言った。そいつは今し方かわいいと言われた俺に後ろから抱きしめられていて、身動きがとれない状態になっている。抱きしめる俺の腕に相当力を抑えながら掴まっている静雄の両手には小さい傷がちらほらと。まーた例のあいつと喧嘩したのか。まあ、今はそんなことどうでもいい。

「…どこをどう見たらかわいく見えんべ?」

問いかけると、静雄は照れくさそうに頬を掻く。やがて、えっとですねと前置きしてから言葉を発した。

「トムさん、いつもはその、クールなのに、二人きりになったら抱きついてきたりするじゃないですか。そこがなんか、かわいいです」

途切れ途切れにそう言って、静雄は微笑んだ気配をみせる。耳は面白いぐらい真っ赤に染まっていて、照れていることが一発でわかった。
バカだな、静雄。本っ当バカだよおまえ。なんもわかってねーわ。
抱きしめる力を強めると、腕の中のそいつはびくりと体を跳ねさせたが、すぐに力を抜いた。ほら、そんなとこも、俺よりよっぽど。

「しーずお」
「…なんすか?」
「バッカだなあ、おまえ」
「え、な、なんでですか」

真っ赤な耳に口を寄せて、俺が静雄に囁いてみせるまであと10秒。静雄の耳をさらに赤くさせるまで、あと12秒。

「おまえのほうがかわいいっつーの」



誰だおまえら

主♂N(BW)

迷って迷ってぐるぐる回って、辿り着いたのがキミだったんだろうね、なんてまた電波なことを口走る彼は、今とても上機嫌なようだ。
ボクらは何度人生を始めて、そして終わったんだろうね。そんな哲学的なことを言われても、ただの子供の俺にわかるはずもない。あの博識のチェレンさえ答えなんて知らなさそうなことだし。
そんな難しいことばっかり考えてて頭痛くならないの?と訊いてみると、考え事が趣味なんだ、なんて天才みたいなことをのたまいやがった。あ、実際この人頭いいんだっけ?なんか俺、この人の抜けてるとこばっか見てるから実感湧かないな。
でもね、と彼は言葉を言い放つ。はいなんでございましょうか、こうなりゃあんたの電波トークにとことん付き合ってやる。
『キミと出会うまでは、ボクはこんな考えてもわからない問題はあまり考えなかったんだよ』と、まるでボクの電波はキミのせいだよみたいなことを言われてしまった。なんだよ俺を電波メーカーみたいに言いやがって。
『今まで数式を解くことや、ボクの行動で未来がどう変わるか、そんなことばかりに頭を使っていたんだけど、キミに出会ってからは、どうして人は人をこんなに好きになるのかとか、どうしてキミといるだけで世界が綺麗に見えるんだろうとか、そんなことばっかり考えるようになった』となかなか長い台詞を口にした彼は、その端正な顔に幸せそうな笑みを浮かべた。
えー、うん、つまりこういうことか。もともと電波だった彼に俺が恋を教えてしまったせいで、彼の電波っぷりに拍車をかけてしまったと。ああ、やってしまったかもしれない。
まあでもあれだ、もういいよ、どれだけ電波になっても。あんたも大概俺にべた惚れだけど、俺もあんたにこれでもかってほど惚れてんだから。
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