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さや杏(まどマギ)

さやかちゃん魔女化阻止ルート
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あんたはあたしにはなれないしあたしはあんたにはなれないよ。一般常識だよ。ポーズをとったらフュージョンができたり、階段から二人同時に転げ落ちたら人格が入れ替わったりすると思ってた?漫画の読みすぎだよあんた。もっとも、あんたの境遇で好きに漫画を買ったり読んだりできたのかなんてわからないけど。協会生まれなら、聖書とかばっかり読んでたの?それなのに言葉とか行動にはそれがちらりとも垣間見えないのが不思議だね。失礼なこと言ってたらごめん、謝る。でも最初に言ったとおりあんたもあたしも違う人間で、同一になるのは許されてないの。誰にって、そりゃ神によ。造りが違うんだもの。髪の色も目の大きさも鼻の高さも唇の柔らかさも輪郭の丸さも以下省略。全部全部違ってるの。神様も細かいことしてくれるよねえ。細工師みたいよ。また論点がずれちゃったけど、つまりあんたがあたしの痛みをわかりあいたい、一緒に苦しみたいっていうのはお門違いなわけなのよ。仮にあたしがじゃあ一緒に苦しんでって返事をしたとしても、なんの変化もないよ、あたしたちの間には。ただいつもみたいに冷ややかな空気が行き交ってるだけで、お互いの触れてほしくないところには干渉しないことを暗黙の了解とする、もしくはそれを踏まえた上でわざと弱点を刺激する。そういう天敵の体制をとった付き合いが続くだけだよ。ねえ杏子、笑い話にもならないよ、あんたのそれ。あんたなんかにあたしの悲しみも苦しみもわかってほしくないの。一緒にいてほしいなんて誰が頼んだの?頼んだのは、あんたの想像上の美樹さやかでしょう。あたしは、現実の美樹さやかなの。寂しいなんて決めつけられたら困るのよ。ねえ、わかってよ杏子。気づいてよ。

「…それでも」
「それでもあたしは、あんたの傍にいるよ」

ああ。やめてよ。聞きたくないのよそんな薄っぺらい台詞。まだ会って日が浅いあんたとあたしの間にはそう断言できるくらいの友情は根付いていないでしょう。綺麗事を吐きたいだけなら他をあたって。あいにくあたしは綺麗なものばっかり見てたら疲れる性分なの。残念だったわね。口先だけの正義は楽しかった?声をなくしたあたしの代わりにいっぱい偽善を叫んでるの?見せつけてるんだ。あんたってとことん性格悪いわ。神父の娘とは思えない。あんたがいたらどんなミサもぶち壊されて神に捧げる歌はすっかりデスメタルね。ああもう消えてよ、顔も見たくないのよ。赤い髪が視界にちらついてうっとうしい。あたしの視界を荒らさないで。

「あたしはあんたと泣いたり笑ったり怒ったり照れたりしたい」
「幸せになっていくあんたを見ていたい」
「あんたが困ってるなら助けてやりたいと思ってるよ」

いやだいやだ、こっちに来るな。あんたなんか嫌いだ。大嫌いだ。消えてって言ったじゃない。来ないでよ、お願いだから。もういやなのよ。関わりたくないの。来ないで、来ないでったら。

「さやか、おまえは美樹さやかだろ。人魚姫なんかじゃないだろ」
「泡になんてならなくてもいいじゃないか」
「人魚姫なんてここにはいないよ、さやか」

ちかちかちか、急に目の前が光に包まれる。黄色と緑色が交差して絡み合っている。見るからにハッピーカラーだ。やめてやめてよ、あたし緑は嫌いなの。その光は杏子から出ていて、気づけば手を握られていた。なんなのよ、もういやだって言ってるのに。なんであたしなんかを引っ張り出すのよ。ずっとここにいたいんだってば。バカ、離してよ。

「嘘だ、離してほしくなんかないんだろ」
「大丈夫、すぐここじゃないとこに連れてってやる」
「そこにはあんたの親友もあんたの好きな奴もちゃんといる」
「あんたのことを待っててくれてるんだ」
「そこに着いたら、まずはあんたの親友に謝ろう」
「それから、あんたの好きな奴に告白するって言ってたほうの親友に、本当のこと訊いてみよう!」
「あたしはあいつらが本当に両想いになったのかがいまいち信用できないんだ」
「もしかしたら親友があんたの好きな奴にあんたのことをよろしくーって話してたのかもしれないし!」
「もしそうだったなら、告白してみなよ。きっと二つ返事でOKされるよ」
「あ、こんなゾンビを恋人になんてしてもらえるわけないって思ってるだろ。でもさ、あたしはあんたがそれっぽっちであんたのことを嫌いになるような奴を好きになるとは思えないんだ」
「どんなところも好きになってくれるさ、なんたってあんたが好きになった男なんだからさ!」
「だからさ、外に出ようよ。さやか」

杏子の言葉は変わらずに薄っぺらくてその場しのぎだった。でも、あたしは泡になれなかった。この世界から消えられなかった。愛と勇気と夢と希望を、どうしても嫌いにはなれなかったらしい。あたしは今も綺麗事が好きだったらしい。小さな手を握りしめたら、握り返してくれる感触。思わず落ちた涙さえも泡にはならない。そうだな、外に出たら、まずはまどかにごめんって言おう。ひどいこと言ってごめんって。それから仁美に、恭介とはどうなったのか訊くの。勇気を出して。うまくいったなら祝福するし、万が一、億が一、あたしのためのものだったなら、きっと泣いて仁美を抱きしめる。そして次は、恭介に告白するの。もし仁美と付き合ってたとしても、けじめをつけるために、諦めるために恭介にきちんと告白する。もし、もし仁美と付き合っていなかったなら、もしOKしてくれたなら。たぶん号泣するなあ。みっともないぐらい大泣きして、恭介のこと困らせる。呆れられないようにしなきゃ。そしたら最後にはね、あんたにお礼を言うよ。ありがとうって、ちゃんと言うよ。そのときはちゃんと、笑顔見せてよ。あたしずっと、あんたの笑ったとこ見たかったんだ。

さや杏(まどマギ)

さや杏が平和な世界でキャッキャウフフしてたらそれはとっても嬉しいなって
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あー、人はよくそれを前置きにして言葉を発する。他にも『えー』とか『うー』とか人によって種類はいろいろあるみたいだけど、母音のボス(と、あたしは勝手に思っている)である『あ』+伸ばし棒は世間的にもメジャーであると思う。なんて、あたしの考察はべつにどうでもいいのよ。こんなこと考えても腹の足しにすらなりはしないんだから。ぐるぐる回る思考回路はぐるぐる鳴るお腹に比例する。空腹に気を逸らしたいからといって小難しいことを考えたのは逆効果だったかもしれない。あー、お腹空いたなあ。あ、ほら今もあーって言っちゃった。どうでもいいか。

「さやか!さやかぁー!」

キッチンから聞こえてくるのは杏子の声。そして鼻をくすぐる香りは…焦げ臭いね、うん。またアップルパイ作るの失敗したな杏子のやつ。もう数えきれないぐらい作ってるのに、なんで未だにあたしの手伝いがないと作れないんだろ。あー、ほんとにドジだなあ、杏子ったら。

「あー、はいはい今行くー」

とりあえず、あたしのお腹が満たされるのはもう少し後らしい。キッチンの扉を開けたら、少し焦りながらオーブンを指差す杏子の姿。そこからは毒ガスのように黒い煙が立ち上っていた。

「あー…」
「こ、このオーブンがいきなり煙吐きやがってさあ…」
「こらこら、オーブンのせいにしないの!」

とりあえず今はこれをどう処理するか二人で考えようか。あー、なんか平和だなあ。『あー』の数が増えていくたびそう思える。あー、って待ちぼうけたときだったり落胆したときとかに呟くことが多いけど、今のあたしの『あー』は幸せの意味だから安心してよ。あー、こら、泣きそうな顔しないの!ほら笑って笑って!
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