円バダ未完(稲妻11)

その日、朝目が覚めて時計を見たら、いつもより1時間ほど早い起床だということを知った。ああ、なんだか夢を見た気がする。一週間前に出会ったあの男が、私に笑顔を向けているだけの夢。ただそれだけなのに、私の胸には形容し難い暖かみが去来していた。拳を作って、左胸を軽く2、3度叩く。
「円堂、守」
あれから初めて、あいつの名前を呼んでみた。ただの排除対象ではなくなった、円堂守という一人の男。はつらつとした笑顔も快活な声も、すべて網膜に刻みこまれている。鼓膜に染みついている。脳裏に、焼きついている。
もそりとベッドから体を起こす。布団に感じる名残惜しさはあまりなかった。報告書でも纏めようかと机の上に視線をやったとき、中央を陣取るように置かれた一枚の真っ白い紙がふと目につく。その横には1年ほど愛用しているシャープペンシルが無造作に置かれていた。ああ、そういえば昨日の夜に報告書を纏めようとして、けっきょくそのまま眠ってしまったんだったか。普段ならば報告書なんてものの一つや二つすぐに仕上げられるが、近頃の私は集中力が霧散しがちだ。


粘着系バダップちゃんの80年ネチネチを書きたかったけど力尽きた

日音日未完(AB!)

俺はたった今、別れ話を切り出した。恋人の綺麗な青色が揺れて、薄い紫は困惑の色を含んでいる。こたつに腰まで体を預けて一世代前の野球ゲームをしている完全くつろぎスタイルな日向に突然こんな話をするのは少し躊躇いがあったが、今日じゃなくちゃダメだという俺の決心は揺らぐことはなかった。このまま言い出せないままずるずる続いていくこの関係性が、いいもののはずがない。少しの沈黙があってから、日向はコントローラーを弄る。ゲーム画面がポーズ状態になり、いったん動きを停止させた。どうやら、ちゃんと話を聞いてくれるらしい。上体を起こして俺の目を真っ直ぐと見つめる日向がまず最初に口走った一言は、言ってしまえば典型的なそれだった。

「なんで?」

まあ、そう言うだろうな。性別っていう大きな障害を乗り越えて、もう2年以上は愛し合ってきた。その愛はどれだけ月日が経っても色褪せたり変化したりすることはなかった。なのにいきなりこんな話されたら、そりゃあ訊くだろう。なんで、って。そして、人一倍繊細で自虐的なこいつのことだ。次にくる言葉だって、いとも簡単に想像がつく。

「俺、なんかした?」

ほら、自分のせいだと思いこむ。日向の瞳は、だんだんと不安に満ちてきているし。おまえのそういう救いようないとこ、けっこう嫌いじゃない。

「そういう、なんでも自分のせいだと思いこむところが気に入らない」

でも俺は嘘をつく。できるだけ傷つけて、できるだけ嫌われて。そうしないとこいつはきっと、俺と別れようとしない。いつまでも、なけなしの優しさを俺なんかに注ぎ続ける。そのせいでおまえに無理させるぐらいなら、俺はおまえに嫌われるよ。

「そう、か」

そうか、と呟いて、フローリングに視線を落として小さく頷く。無理やり納得しているような、飲みこめないものを無理に飲みこもうとしているような、そんな挙動だった。覚悟はしてたけれど、ああ俺は今なんて酷なことをしているのかという自覚が本格的に芽生えてくる。まるで自傷行為だ。

「いつもヘラヘラしてるところも、精神弱いところも、嫌いなんだ」


別れ話が書きたくて

音無独白未完(AB!)

「嘘をつきました」

それはもうたくさんの嘘を。星の数ほど、いや星の数は数えたことがないからよくわからないけど、肉眼で観測できるあれらの瞬きと同じかそれ以上には確実に、嘘をついて生きてきた。いいや、生きてばっかりじゃなかった。死んでいたときだってある。死んでいるように生きていたとかそんな比喩表現をしたんじゃくて、本当に魂が生きていた世界を離れて奇妙な世界に転がっていたことがあったんだ。そこにはたくさんの魂や、ないはずの物体が存在していた。死んだ世界とそこでできた仲間たちは呼んでいて、一人の少女は神に復讐を、そのすぐ隣で彼女を優しく見守る男は世界に平和な終焉を、ある少女は女の幸せをあの世界に求めていた。あんな何もない空洞みたいな世界に、自分たちの満足や幸せを追い求めていたんだ。もしかしたら、追い求めさせられていたとでも言うべきかもしれない。その制度こそまずおかしくて、でもみんなに合わせようと、早くこの環境に順応しようと必死で、自分に嘘をついた。それが一度目。


わあ厨二…

大藤未完(AB!)

「僕、誰かの役に立ちたいなあ。こんな地味な僕が活躍できたら、消えちゃってもいいかも」
大山はそんなことをよく言っていた。
それを聞くたびに俺は『じゃあ頑張って役に立てよ』と大山の背中をバシバシと叩いてたけど、本当は心の中でずっと叫んでたんだ。
『俺を残して消えないでくれ』って。

影との死闘から1日後。高松が元に戻って、俺達の思い残すことはほとんどなくなった。あるとすれば、ゆりっぺに直接礼を言えなかったことか。
まあ、つまり。
俺達は今から消える、ということだ。


松下五段、高松、TK、竹山、椎名、遊佐、みんな笑顔で消えていった。野田はどこかに用があるとか言ってそのまま去っていってしまった。
残ったのは、俺と大山。
みんなが消えたあと、中庭で何をするでもなく一緒にいた俺達は、晴れ渡った空を見上げて沈黙を守り続けていた。
いつもならこのへんで俺がバカなこと言って大山にツッコミを入れられるのだが、今はバカを言う気分にもなれない。

(何を言ったら、いいんだろうな)

口を開いたら、俺達は消えてしまうんじゃないか。もう少し、あと1分でも1秒でもいいからここにいたいと、未練ったらしい俺の心が訴えてくる。
ーーわかってるだろ?もう、さよならなんだ。
言い聞かせるように思ってみても、やっぱり口を開こうとは思えない。でも、言わないと。じゃあな、って。笑って言わないと。

「…そろそろ、僕たちも行かなきゃね」

急に、押し黙っていた大山がそう言った。いつもどおりの口調で、なんでもないように言い放つ。
でも、なんとなくわかった。大山はわざと普段どおりにしている。このままお互いが何か言わないと、俺たちはここから去ることができないって、そう思ってるんだろう。だから、自分から前に進もうとしたんだろう。
ーーああ、こいつも、変わったんだな。
いつも立ち止まっておろおろしてて、いっつも誰かについていってたような、そんな大山はもう立派に前に進めるようになったんだ。
それなのに俺が女々しく立ち止まっててどうする。

音日未完(AB!)

「ゆりっぺぇぇぇ!俺変なんだよぉぉ!」

情けない声をあげながら校長室の扉を勢いよく開け放った俺、日向は今ものすごく混乱と戸惑いと愛しさと切なさと心強さt(ry
という感じでものすごく混乱していた。
いつものように机に肘をついて司令塔のように構えているゆりっぺは、混乱する俺を見るなり悟ったような顔をして、『とりあえず落ち着きなさい』と宥めるように言った。

「で?何があったのよ」

やや呆れ顔であからさまにため息までついて俺に訊くゆりっぺ。


序盤からグッダグダだなんてェ
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