「かわいいっすよね、トムさんて」

静雄の匂いに包まれた部屋で、ふと部屋の主がそう言った。そいつは今し方かわいいと言われた俺に後ろから抱きしめられていて、身動きがとれない状態になっている。抱きしめる俺の腕に相当力を抑えながら掴まっている静雄の両手には小さい傷がちらほらと。まーた例のあいつと喧嘩したのか。まあ、今はそんなことどうでもいい。

「…どこをどう見たらかわいく見えんべ?」

問いかけると、静雄は照れくさそうに頬を掻く。やがて、えっとですねと前置きしてから言葉を発した。

「トムさん、いつもはその、クールなのに、二人きりになったら抱きついてきたりするじゃないですか。そこがなんか、かわいいです」

途切れ途切れにそう言って、静雄は微笑んだ気配をみせる。耳は面白いぐらい真っ赤に染まっていて、照れていることが一発でわかった。
バカだな、静雄。本っ当バカだよおまえ。なんもわかってねーわ。
抱きしめる力を強めると、腕の中のそいつはびくりと体を跳ねさせたが、すぐに力を抜いた。ほら、そんなとこも、俺よりよっぽど。

「しーずお」
「…なんすか?」
「バッカだなあ、おまえ」
「え、な、なんでですか」

真っ赤な耳に口を寄せて、俺が静雄に囁いてみせるまであと10秒。静雄の耳をさらに赤くさせるまで、あと12秒。

「おまえのほうがかわいいっつーの」



誰だおまえら