豪鬼未完(稲妻11)

重ねられた手と手が作り出す温もりにすがってしまえればどれだけ楽かと思考回路に問いかけた。隣に腰掛けるそいつは絶対に俺を拒絶するなんてことはしないだろうし、むしろ新たな温もりを与えてくれるのかもしれない。一見冷たく見える容姿とは裏腹に、底抜けに優しいこいつの性格を俺はよく知っていた。もしかしたら、チームメイトの誰よりも知っているのかもしれないと、錯覚する程度には。いや、きっとそれはないだろうけれど。豪炎寺のことをチームの中で一番知っているのは、恐らく円堂だ。


いつか続き書きたいです

さや杏未完(まどマギ)

「あんたは自分の価値を知らないの」

むしゃり。発せられた台詞の直後に、さやかはドーナツを貪った。突然そんな意味不明なことを告げられても、あたしとしては『は?』としか返す言葉がないわけで。まずこの状況からして意味わかんないんだよ。道端でばったりこいつと会っちまって、フランスパンの入った紙袋抱えてたせいで両手塞がってたから逃げようとしたら、猫にするみたいに首根っこひっ掴まれてそのまま近くのファーストフード店にご入店なんだから。なんか知らないけど奢られてるし。こいつに、っていうか人に借りを作るのは嫌で嫌で仕方ないけど、意地張れる金もないししょうがない。しかし、いきなりこんなとこ連れて来られたと思ったらこれなんだから、あたしはどうしたらいいのかそろそろわからない。とりあえず首を傾げるしかないあたしを見て、さやかはあたしに人差し指を突きつけて割と大きな声を張り上げた。

「ほら、その挙動とか!その小首傾げがどれくらい価値のあるものかなんてあんた全然わかってないんでしょ!」
「はあ…?」

言い終わると同時に勢いよく立ち上がるさやか。そんなこと叫ばれても、ただ首傾げてるだけでなんの価値があるってんだ。自然と眉間に寄るしわを伸ばそうという気も起こらず、不機嫌を露わにしてさやかを見上げる。すると、さらに何かまくし立てようとしていたさやかがぴたりと動きを止めた。訝しげにまた視線を送ると、さやかの白い肌に赤みが差す。それはみるみるうちに頬を染めていって、最終的には面白いぐらい真っ赤になってしまった。さやかの眉間には、あたしと同じように深いしわが刻みこまれている。

「え、おい、どうした」
「…上目遣いはだめでしょ…」
「は?」
「…なんでもない」

ふい、とさやかがあたしから目を逸らした。少し素っ気ない口調は、どことなく機嫌の悪さを窺わせるようなそれで。もしかしてあたしは今、さやかを怒らせるようなことをしたんじゃないかという思考がちらつく。いや、べつに怒らせることなんてしょっちゅうだし、今さらびくびくするようなことじゃないんだけど。でも魔法少女じゃない時くらい、佐倉杏子と美樹さやかっていう二人の人間である時くらいは、対立は避けたいって、心の中のあたしが叫んでるんだ。こんなこと思うの、たぶんこいつが初めてで、慣れない感情に自分でもちょっと戸惑うけど。

「あの…さやか、えっと…あたし、何かしたか…?」

だから、恐る恐るこう言ってみたんだけど。

「…んなっ…」

当のさやかは面食らったように1、2歩後ずさって、ただでさえ赤かった顔を発火させたみたいにさらに赤くした。あれ、あたしまたなんか変なこと言っちまったのか?

「……杏子」

さやかはぶるぶる肩を震わせる。なんて言えばいいのかわからなくて、『あ』とか『その』とか言葉を選んで視線をあちこちに逸らしていると、突然さやかが勢いよくあたしの肩を掴んだ。へ、と自然に漏れてしまった声は笑えるほど素っ頓狂で、自分でもちょっと恥ずかしい。そんなあたしの胸中なんてお構いなしに、さやかはまたしても声を張り上げた。それはもう、店内どころか街中に響き渡るぐらいの大きさで。

「可愛すぎるって言ってんのよバカああああ!」
「………は?」

しーん、という擬音を生まれて初めて耳にした気がした。店員も客も凍りついたように硬直していて、今店内にいる全員の視線があたしとさやかに向いている。そんな数多の目なんて全く関係ないとでも言うみたいに、さやかはまだまだあたしに言葉の雨を降らせた。

「だいたいあんたなんなの!?初めて会ったときから思ってたけどさあ、その八重歯!反則でしょうが!そんで最初はツンツンツンツンしてたくせに、最後にゃデレッデレよ!もう!なんなの!猫みたいと思ってたらまさかの犬タイプなの!あーもう!プリティ!キュート!可愛い!KAWAII!」
「わかった!わかったからやめてくれ!恥ずかしいから!」

こっぱずかしい台詞をつらつらつらつらと並べ立てるさやかに一旦ストップをかける。ちなみにあたしは今顔がすげえ熱い。あと涙目。
さやかは俯いて肩で息をしたあと、大きく深呼吸をした。すーはーすーはーと2、3回息の往復を繰り返すと、軽く咳払いをしてから『とにかく』とまた話し始めた。

「あんたは…その、自分で思ってるより…か…可愛いんだから…も、もうちょっと、自覚を持ちなさいってことよ!」

りんごみたいに真っ赤な顔で、そう言われて。蚊が鳴くような声だったけど、あたしの耳が正常なら、確かに聞こえた『可愛い』の一言は恥ずかしさを含みまくっていた。さっき勢い任せに言われた可愛いよりももっとずっと影響力を持っていたそれに、なんでかあたしまでさっきの10倍ぐらい恥ずかしくなって、ただただ俯くしかできない。もじもじ、なんて音が聞こえてきそうなくらい手と手を忙しなく擦り合わせたりしてる自分がひどく女々しい。あたしはいちおう女なんだから女々しくていいのかも知れないけど、普段の行いからすると違和感満載なんだろうな、なんてことを考える。ちらりと向かい側を見やると、いつの間にか席についていたさやかはあたしと同じく照れくさそうに俯いて眉をしかめていた。その姿を見てると、あれ、なんか、へんな気持ち。

「…さやか、おまえ」
「へっ?な、なによ」
「か……可愛い…な…」
「……はっ!?」

思わず口をついて出た言葉にはあたしでさえびっくりしていて、それを向けられたさやか自身はかなりの動揺を見せた。口をぱくぱく動かして、両手をばたばた振り回して、それはもう外国人並みのオーバーリアクションで。な、とか、あ、とか上手く言葉に乗せられないらしい一字をひたすらに紡いでいるさやかは、やっぱりその、可愛いって思える。ああもう、あたしどっか変になっちゃったのか?
やがて狼狽えていたさやかは今日2度目の深呼吸を実行して、調子が整ったところでふんぞり返るように腕を組んだ。でも顔は依然として真っ赤だからあんまり偉そうには見えない。そして、あたしからあからさまに視線を逸らして、ふん、と鼻を鳴らしてから呟いた。

「ま、まあ、あんたの可愛いさには負けるけどね」
「…なっ…!?…」

さやかの口から転がり落ちたのは予想外の誉め言葉で、一気に全身が熱くなるのを感じる。もう思考がぐちゃぐちゃになってきて、勢いに任せてさやかに叫んだ。

「お、おま、おまえのほうが可愛いっつの!」
「な、あ、あんたに決まってんでしょ!」
「いーやおまえだ!おまえのほうが可愛い!」
「あんた!」
「おまえ!」

円ヒロ未完(稲妻11)

俺が彼に初めて出会ったとき。
自分の二酸化炭素で埋め尽くされて、呼吸もままならないほど息苦しかった俺の世界に、酸素が生まれた。呼吸をするには充分の、有り余るほどたくさんの酸素。俺はそれに縋るように、大きく大きく大気を吸った。目を閉じて、深呼吸を3回繰り返す。そして瞼を持ち上げたら、世界のすべてが変わっていた。酸素に満ち足りた世界と、同じ酸素を共有する、たくさんの仲間たちが目の前に存在していた。行き止まりだったはずの足元には、道が拓かれていた。
君の言葉はまるで酸素みたいだ、そう言うと彼は困ったように眉を下げて『どういうことだ?』と俺に言った。無意識にみんなを生かす君が、ますます好きになる。でも、ごめんね円堂くん。君がどれだけ酸素を吐いてくれても、俺は二酸化炭素しか吐けないや。君に必要とされない物質しか、吐き出すことができない。ああ、不甲斐ないね俺は。今日も君に、一方的に生かされている。君は宇宙人にまで酸素を与えるっていうのにね。東京なんて1首都だけになんて留まらずに、北へ南へ、果てには宇宙にまで人が生きるための気体を持ちこむような君に、俺は本当に不釣り合いだ。どれだけ多くの人間を救ってるか、きっと自覚してないんだろうなあ。


サイトに置いてるやつの失敗版

日音未完(AB!)

日曜の朝っぱらからブオーンブオーンと、まるで操作してる本人みたいにうるさい機械音が部屋を駆け回る。リビングでコーヒー牛乳を嗜みながら新聞の興味深い見出しをところどころで頷きながら読んでいる俺としては、その音は集中を阻害する不快音でしかなかった。

「なあ」

呼びかけてみるが、返事はない。けっこううるさい音出す掃除機だから、大声で呼びかけないと聞こえないらしい。最近は無音の掃除機が増えてきたってのに、買い換える金がない俺たちはずっともらいもんのぼろっちいやつを使い続けてるから、そろそろガタがきてるらしい。なんか変な音まで鳴ってるし、はあ、買い換えたいよなあ。

「なーあー!」
「ん?」


倦怠期が書きたかったらしいです

音無独白(AB!)

ひゅうひゅうと風のように喉の奥が騒いでいた。頭から手から足から脇から、目からも汗が湧き出して、止まることを知らないそれは衣服にシミを作っていく。目の前がぼやけて仕方がなかった。拭っても拭っても汗は瞳に膜を張る。その水は涙なんて綺麗なイメージしかない単語を当てはめるのもおこがましいほどぐちゃぐちゃでどろどろで滑稽で、でも紛れもなく俺の涙だった。これを見る度に俺は自分のことが嫌いになっていく。泣くというのは、全てを出してしまうことだ。よかったこと嫌だったこと、それを全て出してしまうことだ。じゃああいつらのことも、かなでのことも、俺は全て忘れ去ろうとして、こうやって泣いているのかと思う。反吐が出た。
今日も俺は泣いた。早く消えたい。
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