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日向独白未完(AB!)

えーいやこらせと肩の荷を下ろそうとしたらなんかに阻まれて下ろすに下ろせなくなった。なんだなんだまだ背負ってなきゃいけねーのそろそろ下ろさせてよなあ早く。悠に1トンは超えてんじゃねーかなってそれがもう厄介で厄介で仕方ない。なーなんでこんなん持って歩かなきゃなんねーのと尋ねても返ってくるのは無言のみ。なんか返事しろよバーカ。なんて心で思っても口にゃあ出せないからマジめんどくさい。なんつったって悪態つくたび背中にある荷の重量が増してくんだもん。だるいわこれ。でも心ん中に溜めこんでたらそれはそれで重くなってくしさ。はーあーもー意味がわからん。どうしろってんだっつーね。まあでもなんでこんなしんどいとこに俺は居続けてんのかっつーのが一番の謎なんだけど。まあこんなことを思ってたって今日も俺らは罪なき生徒から食券を巻き上げて飯を食うし、悪びれる様子もなく校長室を独占するんだ。べつにそれ自体は負担でもなんでもないし、むしろ楽しいんだけど。

日音未完(AB!)

今年からアパートで一人暮らしを始めた俺の部屋は、家賃が安い割にけっこう広くて立地条件も良く、自慢の部屋だった。ただ男の性かなんなのか、俺は掃除が苦手だ。脱いだ靴下は脱ぎっぱなしで放置、取りこんだ洗濯物はタンスに片づけもせず部屋の四方八方に散らかっていた。四隅を歩くと埃が舞い、白かったはずの壁は微妙に黄色く変色している。恋人に掃除を頼んでみたこともあるが、向こうも俺と同じぐらい掃除が嫌いらしく丁重に断られた。まあそんな風に散らかり放題だった俺の部屋が、大学から帰ってくると、なんの前触れもなく見違えるほど綺麗になっていたとしたらどうする?
ただし、部屋の中で動物たちの大合唱が行われていることを条件に。

いつものように鍵穴に鍵を差しこんでがちゃりと半回転。開いた扉を引きながら『ただいまー』と告げる。後ろ手で扉を閉めてから靴を脱ぎ散らかして部屋の奥を覗くと、そこはまさにファンタジックな世界だった。

「…なんだこれ」

ネズミ数十匹がモップを手にフローリングを駆け回る。天井には公園でよく見かけるようなハト数羽がくちばしで電球の埃を払い落とし、ちょうど埃が落ちる位置にゴミ袋を構えてスタンバイしているのが…フナムシ数百匹…。

「お、おま、おまえら出てけええええ!!」

何がなんだかよくわからないが、とりあえずこの一風変わった動物園みたいになっている部屋の状況を打破しようと、窓を開けてネズミとハトを追い払う。案外あっさり出ていってくれてほっとしたのも束の間、フナムシが窓枠にうじゃうじゃと寄ってきた。

「うひ…うわぁぁぁぁぁ!!」

ご近所さんへの迷惑も考えずにどでかい声で叫びながら部屋の端に走って逃げる。情けないことに今俺は半べそだった。だってこの状況は泣きたくもなるだろ!なんだよこれ!

「おいおい、なんの騒ぎだよ」

不意に、風呂場から声が聞こえてきた。鈴の音みたいな、綺麗な声。低く落ち着き払っていながらも、人を元気にするような、不思議な声。見ると、ぺたりぺたりと湿りっ気のある足音を響かせる声の主が、風呂場の前に立っていた。
……ああ、そうだ。あったよ前触れ。

昨晩、俺はバイトの帰りに歩道橋にへたりこむ一人の男を見つけた。普段ならすぐさま駆け寄るんだが、何分その男の着ている服や雰囲気がおかしい。シンデレラみたいなフリッフリのドレスに、その手にはガラスの靴。しかし体格はどう見ても男。コスプレかと思いながら遠くから様子を窺っていたが、その男が頬に涙を伝わせたのを見て、ああ困ってるんだろうかと声をかけてしまった。近づいてよくよくその顔を見てみると、いかんせん綺麗な顔で泣いてるんである。更にその男が俺のほうを振り向いたから、不覚にもドキッとしてしまった。いやいや俺には恋人がいるんだぞと邪念を振り切るように頭を小さくぷるぷると振ってから、『どうしましたか』とまた声をかけてみる。すると、その謎の男は言った。

「……もう、歩けないんだ」

想像以上の綺麗な声に、思わず一時停止する。はっと我に返ると途端に熱くなる顔。うわあ俺もうダメかもわからんね。必死に顔を隠しながらちらりと男の足を見てみると、それは痛々しく腫れ上がって、ところどころから出血していた。

「うわ…大丈夫っすか」

思わず顔をしかめる。男は小さく首を振ってまた俯いてしまった。たぶん相当痛いんだろう。今さら見て見ぬフリもできねえし、しゃあねえ、病院まで負ぶっていくか。

「あの、病院まで負ぶっていきますよ」
「…え?」

男は俺のほうを見て、きょとん、という擬音が似合う表情を浮かべた。そのあと首を傾げながらこう言ったのだ。

「病院って、なんだ?」

…え?
一瞬何かの冗談かとも思ったが、男があまりにも不思議そうな顔をしているため、恐らく本気だということが窺い知れた。
ーーえ、病院だぞ?誰もが必ず一度は行かなきゃならない場所だぞ?健康優良児と噂のこの俺でさえ人生で2回以上は行ったぞ?

「病院…聞いたことはあるな……ああ、大勢の人を一人の医者が診るっていう慈善施設か」

このお方、一人でそんなことを呟いておられる。おいおい、嘘だろ。超世間知らずのコスプレイヤーってわけか?意味がわからん。

「あのー…もしかして、病院行ったことないとか…」
「ないな…。俺にはかかりつけの医者がいるから」

つまりどういうことだってばよ?えーと…つまりこの男の家は超のつく金持ち…ってことか…?だからドレスもそんなに凝ってんのか…。いったいコスプレにいくらの金を使ったんだろう。想像するだけで恐ろしい。しかし、それなら世間知らずなのもまあ頷ける。

「まあ、とりあえず病院行くから乗っ…あ」


某映画パロがしたかったんです…
なぜか日向の恋人役が松下五段って設定で書いてました

日音日未完(AB!)

俺はたった今、別れ話を切り出した。恋人の綺麗な青色が揺れて、薄い紫は困惑の色を含んでいる。こたつに腰まで体を預けて一世代前の野球ゲームをしている完全くつろぎスタイルな日向に突然こんな話をするのは少し躊躇いがあったが、今日じゃなくちゃダメだという俺の決心は揺らぐことはなかった。このまま言い出せないままずるずる続いていくこの関係性が、いいもののはずがない。少しの沈黙があってから、日向はコントローラーを弄る。ゲーム画面がポーズ状態になり、いったん動きを停止させた。どうやら、ちゃんと話を聞いてくれるらしい。上体を起こして俺の目を真っ直ぐと見つめる日向がまず最初に口走った一言は、言ってしまえば典型的なそれだった。

「なんで?」

まあ、そう言うだろうな。性別っていう大きな障害を乗り越えて、もう2年以上は愛し合ってきた。その愛はどれだけ月日が経っても色褪せたり変化したりすることはなかった。なのにいきなりこんな話されたら、そりゃあ訊くだろう。なんで、って。そして、人一倍繊細で自虐的なこいつのことだ。次にくる言葉だって、いとも簡単に想像がつく。

「俺、なんかした?」

ほら、自分のせいだと思いこむ。日向の瞳は、だんだんと不安に満ちてきているし。おまえのそういう救いようないとこ、けっこう嫌いじゃない。

「そういう、なんでも自分のせいだと思いこむところが気に入らない」

でも俺は嘘をつく。できるだけ傷つけて、できるだけ嫌われて。そうしないとこいつはきっと、俺と別れようとしない。いつまでも、なけなしの優しさを俺なんかに注ぎ続ける。そのせいでおまえに無理させるぐらいなら、俺はおまえに嫌われるよ。

「そう、か」

そうか、と呟いて、フローリングに視線を落として小さく頷く。無理やり納得しているような、飲みこめないものを無理に飲みこもうとしているような、そんな挙動だった。覚悟はしてたけれど、ああ俺は今なんて酷なことをしているのかという自覚が本格的に芽生えてくる。まるで自傷行為だ。

「いつもヘラヘラしてるところも、精神弱いところも、嫌いなんだ」


別れ話が書きたくて

音無独白未完(AB!)

「嘘をつきました」

それはもうたくさんの嘘を。星の数ほど、いや星の数は数えたことがないからよくわからないけど、肉眼で観測できるあれらの瞬きと同じかそれ以上には確実に、嘘をついて生きてきた。いいや、生きてばっかりじゃなかった。死んでいたときだってある。死んでいるように生きていたとかそんな比喩表現をしたんじゃくて、本当に魂が生きていた世界を離れて奇妙な世界に転がっていたことがあったんだ。そこにはたくさんの魂や、ないはずの物体が存在していた。死んだ世界とそこでできた仲間たちは呼んでいて、一人の少女は神に復讐を、そのすぐ隣で彼女を優しく見守る男は世界に平和な終焉を、ある少女は女の幸せをあの世界に求めていた。あんな何もない空洞みたいな世界に、自分たちの満足や幸せを追い求めていたんだ。もしかしたら、追い求めさせられていたとでも言うべきかもしれない。その制度こそまずおかしくて、でもみんなに合わせようと、早くこの環境に順応しようと必死で、自分に嘘をついた。それが一度目。


わあ厨二…

大藤未完(AB!)

「僕、誰かの役に立ちたいなあ。こんな地味な僕が活躍できたら、消えちゃってもいいかも」
大山はそんなことをよく言っていた。
それを聞くたびに俺は『じゃあ頑張って役に立てよ』と大山の背中をバシバシと叩いてたけど、本当は心の中でずっと叫んでたんだ。
『俺を残して消えないでくれ』って。

影との死闘から1日後。高松が元に戻って、俺達の思い残すことはほとんどなくなった。あるとすれば、ゆりっぺに直接礼を言えなかったことか。
まあ、つまり。
俺達は今から消える、ということだ。


松下五段、高松、TK、竹山、椎名、遊佐、みんな笑顔で消えていった。野田はどこかに用があるとか言ってそのまま去っていってしまった。
残ったのは、俺と大山。
みんなが消えたあと、中庭で何をするでもなく一緒にいた俺達は、晴れ渡った空を見上げて沈黙を守り続けていた。
いつもならこのへんで俺がバカなこと言って大山にツッコミを入れられるのだが、今はバカを言う気分にもなれない。

(何を言ったら、いいんだろうな)

口を開いたら、俺達は消えてしまうんじゃないか。もう少し、あと1分でも1秒でもいいからここにいたいと、未練ったらしい俺の心が訴えてくる。
ーーわかってるだろ?もう、さよならなんだ。
言い聞かせるように思ってみても、やっぱり口を開こうとは思えない。でも、言わないと。じゃあな、って。笑って言わないと。

「…そろそろ、僕たちも行かなきゃね」

急に、押し黙っていた大山がそう言った。いつもどおりの口調で、なんでもないように言い放つ。
でも、なんとなくわかった。大山はわざと普段どおりにしている。このままお互いが何か言わないと、俺たちはここから去ることができないって、そう思ってるんだろう。だから、自分から前に進もうとしたんだろう。
ーーああ、こいつも、変わったんだな。
いつも立ち止まっておろおろしてて、いっつも誰かについていってたような、そんな大山はもう立派に前に進めるようになったんだ。
それなのに俺が女々しく立ち止まっててどうする。
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