「あ」

と声をあげてしまったのは、将来俺たちの愛の結晶になってくれるかもしれない希望の種が捨てられてしまったからで。大きいゴム製の袋に入れられた子供の種が、投げ入れられるようにゴミ箱に入ってしまったからで。いつもこうして、捨てられるのを見る度に、ちょっとだけ悲しくなる。まあ捨てずに置いとくなんてごめんだけどさあ。

「あ?なんかあったか?」

当の捨てた本人はいつもどおりの冷静沈着を擬人化したような体で俺のほうを向く。そうだよな、悲しんでるのって俺一人だよな。こいつは愛の結晶なんて欲しくもなんともないんだろうし。いや、もしできたら俺になんか目もくれなくなるほど全力で可愛がるんだろうけどさ。確実にできないもん、俺たちの間には。でもちょっとぐらい希望持ってみたっていいじゃん。あー、俺今すっごい女々しい。

「…おまえさ、いっつもあれ捨てるたんびに悲しそうな顔するけど、そんなに自分のが好きなのか?」

やけに冷めた目で、いやツンドラにも負けない氷点下みたいな目を音無に向けられた。あれっ、おいこれこいつの中で俺が生粋のナルシスト的な位置づけになる5秒前じゃないか?

「待て待て!俺をそんなド変態ナルシストに仕立て上げるな!」
「おまえってけっこう自分好きだもんな…」
「どちらかっつーと嫌い寄りだっつの!」
「おう知ってる」

そこで俺が何も言い返せなくなり、いったん途切れる会話。なんかさ、けっきょく遊ばれただけだよな。一本取られてばっかなんだけど。こいつも俺で遊ぶのすげー楽しんでるし。くっそ、いつか絶対音無で遊んでやる。

「んで、なんで悲しそうなんだよ」

突然さっきのことをぶり返しますか音無さん。主にこいつの気分で進行してるよな俺たちの会話って。つかそれはあんまり話したくないんだけどな。忘れといてくれりゃよかったのに。
俺が言うのに戸惑っているのを見た音無は、それはそれは楽しそうに嬉しそうに、俺の仕事キターみたいな形相で口元をいやらしく吊り上げた。わあい俺死亡フラグ。

「ん?ん?恥ずかしがらずに言ってみろ?大丈夫だって、なに聞いても笑わ…ブフッ、笑わないから」
「その時点でもう笑ってんじゃねーか!あーもー絶対言わねー!」
「んだよ面白くねーなこのKY野郎が」
「なんでそこまで言われなきゃなんねーんだよ!」

そんな感じでいつもの小競り合いが始まってしまったわけですが。
まあ、こうしてるのが一番幸せだったりするんですよ、俺。
だから子供とか作れない分、愛してやりゃいいかなって思いました!
って音無に言ったら『作文か』だって。他に言うことないのかね。でも顔真っ赤だったから、いちおうときめいてくれたらしいことはわかった。