ホームズと悠仁(大逆転)

「ミコトバ、遺言はないかい?」
「……ありませんよ、まだ死なないので」
「ボクもないなあ。当分ライヘンバッハには行かないからね」
「なんですかそれは」
「アイリスいわく『ボクの冒険の最終回(仮)』だそうだ」
「よくわかりませんが、私より先に死なれては困りますよ」
「その言葉、そっくりそのままキミにお返しするよ」
「まだ私に失えと言うのですか?置いていかれるのはもう御免だ」
「はは!そんなにコワイ目で睨まないでくれよ」
そう言ったあと、ホームズは今まで騒がしく動いていたその口をふと閉口させた。そして静かに私を見つめる。十年ぶりとはいえ、彼のそういう突飛は体に染み付いているので戸惑うことはない。波立たぬ声色が、ミコトバ、と私を呼んだ。
「パーティーはこれから始まるだろう。会場は違うが、夜が明けたらまた踊り明かそう」
「英国紳士らしい言い回しですね」
紳士だからね、と言う彼の言葉に被せるように汽笛が大きく鳴り響いた。別れを思わせるその音が今日だけは違う響きを持っているように聞こえる。私は年甲斐もなくわくわくしていた。次に会うとき、君とどんな謎を共に追えるのだろう。
「さあミコトバ、賽は投げられた。今からボクらの新たなパーティーの始まりだ!」



ネズミ取りに挟まる悠仁ちゃんホントすこだった

龍シャロ(大逆転)

ホームズさんの間違いを正す瞬間、ガラスの割れるような感覚をおぼえる瞬間。ヒビが入り砕け、一枚が粉々になるところをゆっくりとした速度でぼくは眺めている。ガラスの向こうには彼がいる。彼は先刻までの騒がしくおかしく空々しい態度とはうってかわって、じっとぼくを見詰めている。すべてわかっていたという目をして、ぼくを見ている。ぼくがあなたを粉々にするのをわかっていたというのですか?視線でそう尋ねると、目尻を意地悪く歪めてただ笑ってみせる。
「もうすぐキミの視界が晴れる。ガラスが砕け散り、地に落ちる」
「それまでボクらは恋人同士だ」
言って、彼はボクに手を振るのである。その言葉の意図をはかることはぼくには出来ない。けれど確かにこの一瞬の無音、まるで世界にぼくと彼しかいなくなったかのような。真実が作り出した一瞬の先で、彼は静かに笑っている。ぼくはガラスが音を立てて砕け散るのを、名残惜しく待っている。
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