龍アソ未完(大逆裁)

死姦表現あり
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「成歩堂。もし、オレが死んだら」
その言葉にも、そこから先の言葉にも耳を疑った。まさかそんな、コイツがそんなことを言うはずがない。ただ真っ直ぐに未来を見据えている男が死の話など。いや、見据えているからこそ、なのだろうか? それならばまだ納得がつく。しかし、ならば問題はそのあとの、あまりにも支離滅裂かつ意味が不明であるその言葉だ。何もかもがおかしい。まずぼくたちはただの親友で、何も、何一つ他意などはない。それが急に完全な他意を持ってぼくの記憶を刺してくる、真っ直ぐな瞳で。いやそんな些細なことはどうだっていい。人間には倫理というものがある、そこが一番の問題ではないか。亜双義、おまえに一等必要なものではないのか、倫理。おまえは弁護士なのだろう。言葉は無数に浮かんだが、ぼくは何 を形にすることもできはしなかった。冗談だろうと何故軽く言えないのか。……きっと確実に、刀にかけれられているその手の存在感のせいだった。
「オレの死体を抱け」
丁寧にくるまれた毛布を乱雑に取り払い、そこにあるものをしっかりと確認する。手に持った"写真"とその姿をじっくり見比べて、完全に同じ顔だなともはや意味のない確認をした。友の顔は青白く、唇は紫色にかさついていた。ぼくの想像通りの色だ、やはり寸分の間違いもありはしなかった。押しつぶされそうなほどの喪失感に体がすっぽりと覆われる。実物を見ると見ないではこんなに違うのか。「ああ」と呟いて、これは本当に自分が発した声なのかと驚いた。全身の力が抜けて、友の亡骸を抱きながらがくりと膝をつく。終わってしまった。
けれど、まだ終わってはいけなかった。これは、ここからはぼくとあの男の約束なのだ。脅迫とも呪いとも言える、けれど確かに約束だ。してしま、った、から。しなければならない。何もかも綺麗に整ったまま永遠となってしまったその顔を見つめる。頭が鈍く痛みはじめた。手や足ががくがくと震え、喉の手前と胃のあたりが熱を持ちはじめる。嫌だ。どうしても嫌だ。けれど、しなければならない、約束してしまった。
手のひらの震えを縫いつけるように拳を作り爪を立てる。皮膚を破る感触をつま先に感じた。何度も何度も深呼吸を繰り返し、息を必死で整える。その頬に手を添えた。それだけでもかんたんに絶望した。氷のように冷たくて硬い。拒否反応から出そうになる涙を必死に押し込めて、ぼくはまず、その頬に口をつけた。唇を冷徹な感触が襲う。次に鉢巻の上から額に口づける。床に寝そべっていたからだろうか、少し埃っぽいように感じられた。止められるものなら止めてしまいたい。けれど、駄目だ。紫に目を向ける。薄く開いたそこはもう何の音も出してはくれない。もういい、よくやった、ありがとう親友、そう言ってくれはしないだろうか。お願いだ言ってくれ。数瞬のうちにただ祈った。けれど、奇跡など 起こるはずはないのだ。ぼくは亜双義と唇を合わせた。そこはただかさついていた。しばらく啄んで、薄く開いた中に向けて舌を差し込んでみる。歯に阻まれて先までは進まずに済んだ。唇をそっと離し、もう一度その顔を見つめる。物言わぬそれは何も変わらず目を瞑っている。ぼくは自らの唇に指先を這わせた。直後、こみ上げた胃液をおさえることができず、それを床にすべて吐き出した。冒涜だ。死者への最大の侮辱を今ぼくは冒している。ぼくは亜双義一真という男を尊敬していた。尊重したいと思っていた。それがこんな最期か。これは、亜双義、おまえがぼくに寄越した罰か何かなのか? どうしておまえはぼくにあんな遺言を遺した。……また胃液がこみ上げてくる。唾とともにそれを飲み込んだ。


これもう上げてたっけ!?記憶なし

百最未完(論破V3)

「あっちいなぁ……」
「百田くん、口に出すと余計に暑くなるよ……」
夏も真っ盛りで蝉はうるせーし太陽なんていつ見てもかんかん照りで、それも楽しくはあるがこう連日続いちゃうんざりする日も出てくる。加えて今日はあろうことか寮全室のエアコンのメンテナンスと来たものだから死人でも出やしねーかと不安にすらなった。学園内で一等クーラーの利いている図書室は見事に満員のぎゅうぎゅう詰めで逆に一番暑くなっちまっていたので、それならまだこっちのほうがマシだろうとオレは終一を連れて全体的に日陰になっている空き教室に避難していた。風通しなどは良くはないが日照りのないぶんまだ涼しく思える。終一は夏休みの課題を片付けるため、この暑い中せっせとプリントと教科書とにらめっこを繰り返していた。口元を手で覆う仕草はこいつが熟考するときの癖だ。
「ハルマキはどこ行っちまったんだろうな?ボス直々に探しに行ったっつーのにどこにもいやしねえ」
「ああ、たぶん赤松さんと街に買い物に行ったんだよ。昨日赤松さんと春川さんが街の地図を確認してたから」
「マジかよ……そりゃ見つからねえわけだ。つーかテメー、知ってたんならもっと早く言え」
机に向かってうつむきがちの無防備な終一の額を指で弾く。不親切な助手は肩を跳ねさせ、「いて」と小さく呟いた。オレが指を引っ込めるとそこを軽くさすりながら苦笑を漏らしている。
そこからまたすぐに課題の消化へ戻った終一は、ただ口の中で何かを呟きつづけた黙々とペンを走らせつづけた。ボスとの時間より課題が大事か、と考えながら手持ち無沙汰にそれを見つめる。めずらしくシャツを第二ボタンまで開けている終一の首もとには汗が浮かび、額に髪の幾本が貼り付いていた。顔はまとわりつくような熱気のせいだろう、少しだけ赤くなっていやがる。よほど暑いだろうにじっとそれを耐えている助手の、内包されているんだろう感情に妙に不思議な心地がした。
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