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龍アソ未完(大逆裁)

あっはっは、と高らかな笑い声がぼくの部屋にこだまする。その声の主は、やたら上機嫌に酒をあおり続けるぼくの親友、亜双義一真だった。いつも前を見据えてぴしりと佇んでいるはずのその凛々しさは鳴りを潜め、今はなんだか非常に柔らかい雰囲気をまとっている。シャツははだけ、顔は赤い。時間は夜中の壱時、場所はぼくの部屋。まさかこんなやたら桃色の状況下で亜双義を目にする日が来ようとは。畳の上に座って向かい合いながら、ぼくはそんな亜双義をつぶさに観察している。安い酒だからか、味がよくわからない。
「成歩堂、呑んでいるか?」
御猪口をゆらゆらと揺らしながらそう問われる。亜双義は先刻からたいへんよく呑んでいた。そのおかげで今こんなにゆるゆるとした姿に出来上がってしまっている。ぼくもそれなりに呑んではいるはずなのだが、どうにもうまく酔いが回らない。亜双義のせいだろうか。


記憶なさすぎィ!

龍アソ未完(大逆裁)

亜双義のまつげが小刻みに震えている。唇は控えめに開いていて、瞳の表面には小さな海ができていた。「成歩堂」とぼくを呼ぶその声色はやたらに甘美な響きを持って鼓膜を叩く。亜双義の全身から、ぼくへの恋慕が滲み出ていた。ああ、これは果たして妄想だろうか?それとも嘘のような現実なのだろうか?
答えはもちろん前者だった。そりゃあそうだ、亜双義がぼくに向けてこんな顔をするわけがないのだから。妄想の中でも一等出来の悪いそれであり、もはや笑みさえ漏れ出ない。
初めてこの妄想が現れたのは亜双義が死んで5日ほど経った頃、波の静かな夜更けだった。未だ寝台を使えず洋箪笥に収まっていたぼくに、ふと外から誰かが声をかけた。それはまるで、亜双義の声だった。慌てて洋箪笥を開けてそのまま足をもつれさせ転がり落ちたぼくに、頭上から「ははは」と声がした。声のほうを向けば、そこにはやけに優しく微笑む男の姿があった。それは紛れもなく亜双義一真だった。
そこから亜双義の幻影はふとした瞬間ぼくに顔を見せるようになった。ああぼくけっこう参っていたんだな。そう感じつつ、ぼくはこのぼくの妄想が作り上げた亜双義とどう接すれば良いのか困っていた。何より困るのが、亜双義のぼくを見る瞳だ。生前には無かった色が宿っている。正確に言葉にして言うならば、ぼくに親友としての親愛以上の感情をはらませているのだ。これ以上の陳腐はなかった。亜双義がそんな顔でぼくを見るわけがない。ぼくらは、そう、最高の親友だったのだから。そこに少しの桃色もありはしなかったのだ。そうわかっていたのに、ぼくはなぜだかこの陳腐をなかなか終わらせられないでいた。
「成歩堂」
ぼくの名を呼ぶその声で、意識が現実に引き戻される。


記憶がない

龍アソ未完(大逆裁)

朝起きて、まず隣にある眉目秀麗な顔に驚く。ばっと上体を起こしてしばらくじっとその顔を見つめるうち、次第に脳が覚醒を始めていった。ああ、そうか。昨日は亜双義がうちに泊まっていったのだった。朝一番に見るには慣れない顔立ちだなあ、と速くなった心臓を肌の上からそっと押さえる。ぼくが飛び起きたことにより少しめくれてしまった布団が、亜双義の肩を外気に晒してしまっている。起こさないようにそっと布団をかけ直し、また亜双義の寝顔をじっと見つめた。ぼくのほうが起きるのが早いなんてあまりないことだ。亜双義はいつもたいていは日の出とともに起きて、それから鍛練をこなしているらしいし。眠っている顔はなんだかいつもより少しだけ幼く見える。頬をつついても撫でても寝息は途絶えない。昨夜はあれだけ動いたのだから、そりゃ疲れるだろうなあ。ぼくだって疲労がまだとれていない。
そう考えたあと、ふと気恥ずかしさが襲ってきた。昨夜の諸々の情景が頭に次々と浮かんでくる。亜双義のヤツ声大きかったなあ、だとか、昨夜もやはりいやらしかったなあ、だとか。……ぼくは朝から何を考えているのかしら。


オチわすれた
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