亜双義。亜双義一真。未だ聞こえているだろうか。聞いてくれ、聞こえているのならどうか是非、その鼓膜に打ち響かせてくれ。亜双義、なあ、人間の指の数は何本だったろうか?ぼくは五本と記憶している。親指、人差し指、中指、薬指、そして小指だ。基本的にこの五本が役立つのだ。少なくとも、ぼくはこの五本の指を持って産まれてきた。分かってくれただろうか。では、今のぼくの指の数を一緒に数えてみてはくれないか。いち、にい、さん、し、「成歩堂」
立ち上がりぼくを見下ろす男の顔にはどこから現れたか素性の知れない太陽による逆光で眩しく覆い隠されていた。ハチマキはいつものように赤く緩やかになびいているが、その感情は窺い知れない。……窺い知れない!どんな顔をしているんだ、おまえ、今。その右手に持った刀を伝う血をどんな想いで見つめているというんだ。
「痛いか?済まないな」
穏やかな声が降ってくる。ああ痛いさ。確かに痛い。けれど泣き叫ぶほどではないんだ。だって出したくても声も涙も出やしないし、痛いよりも強い感覚、感情?それがぼくをきつく包み込んでいた。ぼくの指のひとつ。亜双義一真の左手に、握られているもの。自分の左の手を見やる。薬指があったはずの部分から血が流れ、手甲を濡らしている。
「だが、これで婚約成立だ」


あきた…