「あなたからの脅迫状、くしゃくしゃになるまで読み返しました」
奴の手に握られている白いものはまるで夜の街灯のようにほの暗く僕を照らそうとしていた。しかし、照らされる筋合いなどない。奴の正義の信憑性など存在し得ないのだから。「足立さん」となぜか僕を縋るように呼ぶクソガキの目に、前のような光はない。ざまあみろと思う反面、つまんねえなと思考した。所詮お前なんかさ、正しくもなんともないんだよ。それなのに僕を悪と決めつけて救おうとする、その姿のなんて滑稽なことか。俺を上手に否定もできないくせにね。……ああなんか集中できない。
「二行ぽっちを?」
「……はい」
クソガキの声が恋する少女よろしくに震えている。そこでふと思い至った。そうか、これはこいつによる純粋な告白か。そういえば顔も耳まで真っ赤だし、表情がとにかくせっぱ詰まっている。またきちがいみたいな口上を述べつくして自分語りをしようとしているだけかと思っていた。気づいたからといってべつにどうするわけでもないのだが。
「君はどうして僕を選ぼうとするわけ」
「わかりません、わからないけれど、これは……俺の、宝物なんです……」
コレイジョウタスケルナ。イレラレテコロサレルヨ。そんな文章のどこをどうしたら宝物になるんだ?やっぱり相変わらず狂っているらしい。でもそれ以上に、こいつはいま疲れている。
「破いてやってもいいよ」
「え?」
「宝物なんだろ」
そう言ってみると、クソガキの濁った目がみるみるうちに輝きを取り戻した。そうすると次にどんどん目に涙がたまっていき、最後にはきったねえ面に成り下がっていた。イケメンなのにね、台無しだ。
「ありがとうございます」
聞き取れるギリギリでそういった彼は、存外幸せそうだった。まるで僕が正しいかのように、僕に向かって笑っているのだ。