「陽介」
聞き慣れた低音が耳をくすぐる。真っ直ぐにこっちを見てくる目のおかげで俺はどうも居心地が悪くて、しかし逃げ場なんてひとつもないから困った。追いやられた先の壁に背はぴったりくっついてしまってるし、さらに顔の横に手なんてつかれちゃ、もう。視線を逸らせど繰り出される「こっちを見ろ」という強要。というか、命令。これが今時のオトメに人気のオラオラ系イケメンてやつ?ホントにこれこそ、女の子にしろってやつなのだが。つうかここ学校だよ、そんでベタに体育館裏だよ。いくら人はあんまり来ないっつっても、この状況、言い訳もなにもすぐにできるのか。…いや、いかがわしいことしてるなんて事実はまったくないけども。俺とこいつは純粋な友人関係、ただそれのみの事実しかない。
「昨日、告白されてたのか?」
と、脳内でぐるぐると回っていた俺の思考回路を相棒はぶち切ってきた。何の話だ、いきなり?この流れで突然それか?まず告白って、そんなことされた覚えは微塵もないし、もしされていたら覚えてるに決まっている。俺はこいつほど頻繁に女子に呼び出されることはないんでね!なんて僻みながらも本気で心当たりが存在しないので、なんだそれ、と正面をきって訊いてみる。すると相棒は眉間に皺をきつく寄せて俺を強めに見つめた。
「女子に話しかけられてただろう」
「え」
女子に話しかけられてた?俺が?すぐに思い当たる出来事が浮かばなかったので、とりあえず昨日の記憶を詳細に辿っていく。確か昨日は午前中はいつも通りで、午後は……。
と、そこで心当たりを拾いあげた。そういえば昨日の昼飯の前、教室前の廊下で俺は確かに女子に話しかけられた。ピンときた俺の顔を見て、目前の顔にさらなる凄みが走る。こええよ。取り調べ中の堂島さんってこんな顔してんだろうな。
「思い出したか」
「ああ、うん、思い出したけどさ……」
「で、どうなんだ」
どうって、何が。とも聞き返せない雰囲気だった。威圧感がびりびりと全身に駆け巡る。誰か来てくれ、いや来られても困るけど。
「えっと、あのさ、なんで告られてるって思った?」
ほとほと困り果てた末にそう問うと、相棒はまたもやじっと俺を見つめてから、やがて目線を下に移動させた。突然うつむいたそいつに首を傾げていると、ぼそりと小さな声で一言。
「……聞こえてきた」
「な、何が」
「好きなの、って声が」