泉のような後悔の中にまた俺は落ちた。先の見えない真っ黒な深海の底で今日も彼は立っている。名前を呼んだら振り向いてくれて、俺の瞳からだらだら流れ出る涙を見てあははと笑った。

「また来ちゃいました」
「また来ちゃったね」
「また菜々子が死にました」
「そう。敗因はわかってる?」
「今回も生田目を突き落とそうとする陽介たちを必死に説得しました。生田目をテレビに半分まで入れているときになんとかみんなの動きを止めることはできたんです。でも、陽介の肘が生田目に当たって、」
「それで結果的に突き落としちゃったんだ」
「はい、もうちょっとだった、のに」
「残念だったね」

汗と涙が絶え間なく溢れて2人の周りの水が塩味に満ちている。7回目くらいからだろうか、彼が悔やみの言葉をくれるようになった。青く光る足立さんの瞳には相変わらず何もうつっていないけれど。カチカチと聞こえる操作音。

「どうする?もうやめる?」
「何言ってるんですか、やめませんよ」
「だろうね」

足立さんは泣きはらした俺の目元を見てからまた笑って、瞬きをひとつした。俺の体が重力をなくして宙に浮かび上がる。データを読み込む音が大きく鳴った。

「じゃあもう一周頑張れるね?」
「当然ですよ、菜々子とあなたのためですから」
「はは、しっかりね」

あともうすこし。彼のその台詞を最後に視界はクリアされた。本当のクリアまであともうすこし。俺はまたひとつの世界とひとりの足立さんにさようならをしたのだった。そうしてなんとか目が覚める。世界におはようを言った。


サカナさんのセントレイを聴きながらの息抜き文