大雪原、のような場所でぼくと亜双義は歩いている。前を歩く亜双義と、半歩ほど後ろを歩くぼく。目測で何度も測ったこの歩幅はもはや懐かしいとすら言える域のものだった。辺りはどこを見据えても、どこまで眺めようとただただ白い。間近ではためく眩しいほど鮮烈な赤に網膜は戸惑っていた。
ざくざくと、互いが歩くたびに音が響く。外套を着込んだぼくたちは確実に寒風から身を守っていて、暫定的に定義してもいいのならここは真冬だった。ただ、先刻からずっと声はよく通る。鼓膜が一つの音も逃さない。「なあ」と言ったら間髪を入れずに「何だ」と返ってくる。もうこんな日は来ないと思っていた。
「成歩堂」
「うん?」
「振り返るなよ」
たまに亜双義はこんなことを言った。振り返るなと言ったって、振り返ったって何もないのに。だってぼくはただの白の中でおまえの後ろを歩いているのだから、いま。……気づかせようとしているのか?いったい、何に。
歩き続けていた時、不意に強い風が吹いた。ぼくは思わず目を瞑る。外套が風に揺られてひらりと翻った。成歩堂、成歩堂。亜双義がぼくを呼ぶ。
「果てが見えたぞ」
そう言って静かに差した指先の向こう、白の中で控えめに煉瓦が光っていた。そのさらに先には洋燈があり、次に大きな建物が一つ。221B、と書いてある。ぼくの足は止まった。ああ、親友。いつものように微笑んでいる。
「振り返るなよ」
念押しのようにそう告げられる。振り返るなと言ったって。……後ろから突き刺さる視線が、ぼくに振り返らせることを許さない。知っているとも。立ち止まったおまえ、ぼくの背中を見ていただろう。
泡のように消えた親友の意志だけを手に、大雪原、のような場所を歩む。その心持ちは新雪を踏みしめた時の感情によく似ていた。ぎゅうぎゅうと地面は鳴るし、大声を出したって誰も気づきはしない。真冬だ、親友。……ここは真冬の英国だ。


悪魔と一真って2文字しか違わんぞ
あーーおんなじのばっかり書いてんじゃね〜〜か???