主足未完(P4)

堂島家の畳は寝心地がいい、そんな割とどうでもいいようなことを僕は今知った。顔を横に向ければ視界に入る机の足には、恐らく今より小さい頃の菜々子ちゃんが描いたと見られる落書きが点在している。おとうさん、おかあさん、ななこ、と覚えたての字で絵の横に乱雑に書かれたそれからは家族の暖かさをひしひしと感じ取ることができた。しかしそれに意識を注いでいる場合でもない、残念ながら。素敵な家族愛の証を眺めて微笑むことは、この状況下ではできそうにもなかった。だというのになんとかして現実から目を背けたくなるのは、満面の笑みで僕の上に乗っかってるこいつのせいだと声を大にして言いたい。いやもしかしたら本当に大声を出すべきなんだろうか。だってこの態勢って明らかに、あれじゃないか。僕、襲われる5秒前じゃない。

「足立さん」

苛立つほど端正なお顔に上品な笑みを載せるクソガキは、バカみたいに強い力を駆使して僕の両手から自由を奪っている。

雪千枝未完(P4)

王子様はお姫様を迎えに来るのよ。息を切らして、切羽詰まった顔をして、汗をぼとぼと垂らしながらお姫様のために必死になって走って来てくれるの。それを確認したお姫様は、捕らえられた鳥かごの中から出したこともないような大きな声で叫ぶの。王子様、来てくださったのねって。2つの目に涙を浮かべて、口元をゆるゆる綻ばせて、喜びに満ち溢れた笑顔で王子を呼ぶの。

足立と山野アナ未完(P4)

死にそうに暑い夜のことだった。確か、白地のTシャツを汗で濡らしてトランクスさえも脱ぎ去ろうかと暑さにやられた頭で考えていたときのこと。やっぱり真夏に扇風機のみで生き抜くのは無理があるかもしれないと首を振りながら自室の空気をかき乱すそいつをこちらに向けようとしたとき、膝近くにあったリモコンを見事踏んでしまい器用なことにテレビがついた。すぐさま消そうとリモコンと視線を液晶に向けたその瞬間、僕は手からそれを取り落とすことになる。ブラウン管越しに目が合ったのだ、超絶な美人と。どうやら女子アナであるらしいその人は、清楚な雰囲気を醸し出しながら淡々と赤い唇を動かし続けている。カメラが彼女の顔をアップで撮れば、長いまつげの下にある瞳がきりりと引き締まった。その様子からは、昨今の媚びを売り歩いているようなバカ女共とは似ても似つかない凛々しさを感じ取れる。そんな彼女から目が離せなくて、しばらくぼうっと画面に視線を注いでいた。

「次のニュースです」

透き通る声が鼓膜を大げさに揺さぶる。聴いたこともないようなきれいな音は、上司の説教ばかりで腐った僕の耳を浄化していくようだった。
前の記事へ 次の記事へ
カレンダー
<< 2011年07月 >>
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
アーカイブ