春原BAD後
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「ようマイハニー。よだれの跡もカワイイな」

「……………」
おはようの代わりに無言の睨みをきかせても目の前のヤツは何ひとつ堪えた様子もなく最高の笑顔を見せてきやがる。なんか自分の部屋みたいに居座ってるけどさ、お前べつにここの住人でも僕の恋人でもないからね?と言ってやりたかったけどどうせ何言ったってこいつは聞きやしないんだ。それはこの二週間でよーくわかったことだった。
岡崎がこんなことになってもう二週間が過ぎた。前までのすかしてんだかふざけてんだかわからない飄々としていた僕の悪友は相変わらず戻ってこず、こいつは未だに目をハートにする勢いで僕にラブコールを送ってくる。おはよう春原(ハート)、昼飯食おうぜ春原(ハート)、おやすみ春原(ハート)。ヤバイよ、そろそろ病院とか連れてったほうがいいんじゃないのマジで。いつもの冗談と思ってここまで放置しちゃったけどこうも続けてくるのはさすがに様子がおかしすぎる。
「どうしたハニー?じっと俺のこと見てきて。……キス、したくなったか?」
「お前よくそんな自分の都合のいいほうに考えれるなあ……」
キラキラーンて感じのSEを出しながら顔を近づけてきた岡崎から即座に目を離して立ち上がる。まあ難しいことは顔洗ってから考えるか……と思い洗面台に向かった。ばしゃばしゃと顔を洗ったあとに目の前の鏡に映る自分と目を合わせる。うん、今日もイケメンだ、僕は。岡崎が惚れてしまうのもわからなくはない。ないけど、……ないけどさあー。それにしたっておかしいだろ、こんな急に。やっぱ悪い冗談としか思えない。はあと大きなため息をついてから鏡に背中を向ける。と、すぐ目の前に岡崎が立っていた。
「春原」
「ひぃ!」
思わず悲鳴を上げて白目を剥きかける。そんな音もなく背後に立つことってある?僕がゴルゴならお前死んでたよ?心臓をドキドキと早める僕を岡崎は真正面からじっと見つめていた。その眼差しは、なんか、普段と少し違う。う、と警戒心から声がもれてしまった。この目をしているときの岡崎は、なんていうか、朝みたいな態度よりもっと苦手だ。二週間前からたまに見せる、今まで見たことないような真面目な顔。
「告白の返事、いつ聞けるんだ?」
「……いや、返事っていうか。あれ、僕、 ずっと言ってない?」
「やめろって?」
「う、うん」