「ようフレン。オレは見つかったか?」
橋の欄干に座る見慣れた男の長髪が風に揺らいでいる。彼は僕をゆるやかに見下ろしながらその目をすっと細めていた。夢か幻覚か、何かはわからないがユーリ・ローウェルの形は確かにそこにあった。見つかっていない、と返事をすると彼は口角を上げる。
「あの高さから落ちたんだ、見つからねえなら海の底に沈んじまったって考えるのが自然だと思うけどな」
「ずいぶん諦めが良くなったんだな。君らしくない」
「オレはお前の言う『オレ』じゃねえからな。お前が勝手に作り出したもんだ。……自分で作ったもんにぐらい都合のいいこと喋らせりゃいいのによ」
その瞳が三日月に歪む。水面に彼の姿は映っていない。
「まだオレが生きてると思ってんのか?」
「君があんなことで死ぬはずがない」
「買いかぶりすぎじゃねえか」
「殊勝なことを言うな」
君は生きてる、それだけが絶対であり真実だ。そう言うと彼は目を丸くして僕を見る。次の瞬間ひゅうと突風が吹いて、彼の長い黒髪がその顔を隠した。木の葉や花びらが彼の後ろを通り過ぎていく。やがて風が止んでユーリの表情が露わになったとき、そこには満足げな笑みが浮かんでいた。
「お前、ほんとオレのこと好きな」
「……返答は控えるよ」
はは、と笑って三日月は輝いた。相変わらず水面に彼は映らない。