未プレイ時に書いたもの
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イーノックが戦い始めて数時間。そろそろかなと思っていたところで、やはり時間停止の命が下った。おかしい話だとは思うのだが、この命を下している者の顔を私は見たことがない。いや、見たくてもきっとずっと見られないのだろう。頭に響く停止命令に従って、いつものようにぱちんと指を鳴らす。途端に辺り一面が静まり返り、つい先程まで活動的に動いていたイーノックも動きを止めた。いや、止められたというべきか。さてはて、誠に不思議な話なのだが、どうやら戦闘中のイーノックは必ずしも自身だけの意志で動いているわけではないらしい。誰か動かす者、確か神はプレイヤーと呼んでいたな。そのプレイヤーによって動かされているらしいのだ。だから、そのプレイヤーが休憩をとれば、イーノックは自分の意志に添わず動きが止まってしまう。しかし敵はなんの問題もなく動いてイーノックを襲いにくるので、私はこうして全体の時間を止めるのだ。
だが、大きな問題が一つある。これは私が我慢すればする話なんだが、なかなか苦痛なものなんだ。時間を止めている間、私はすごく、とても、驚くほどに、暇だ。暇なんだ。暇すぎるんだ。
今まで動きの止まっている敵を並べて積み木倒しをしたり、逆立ちや腕立て伏せの練習をしたりといろいろやってきたのだが、何をしてもすぐに飽きてしまう。一度イーノックを今いる場所からまったく別のところに移動させてやろうかとも思ったが、いかんせん奴は私には重すぎた。まさかこんなところで体格差の現実を感じるとはな。
これなら天界にいたほうが暇じゃなかったかもなあと思いながら視線を空に向けた。青と白のコントラストが眩しい大空は、見ていると何かを思い出す。確かイーノックに関連している何かだったような、と相変わらず固まっている彼を見やれば、たとえ時間を止められていても変わることのない凛とした瞳が虚空を見つめていた。それは空のように青く澄んでいて、ああこれかと納得する。イーノックに近づいて、ガラス玉のようなそれに視線を送った。鼻先が触れ合うほど顔を近づける。いつもなら顔を真っ赤にして大騒ぎするであろうイーノックは、当たり前だがなんの反応も返さない。面白くないなあと不満を感じながら観察を続けた。私の瞳とは正反対の、落ち着きを与えるような色。影を落とすまつげが思っていたより長いことが意外だった。