「あっ」
大英帝国から持ち帰った荷物の中にあった物を見て、思わずそう声を上げてしまった。分厚い一冊の使い古された本、その表紙には『法律全書』と物々しい字体が印字されている。これにはずいぶん助けられたし愛着もあるけれど、慣れ親しみすぎてこれの本来の出処をすっかり忘れてしまっていた。
「成歩堂さま、どうかなさいましたか?」
ぼくの荷物の整理を手伝ってくれていた寿沙都さんが不思議そうにこちらに視線を向けている。その目はぼくの手元を一瞥すると穏やかに綻んだ。
「法律全書でございますね。よく読み込まれていることが一目でわかりますとも」
「ですよね。これ、実は亜双義の物なんですよ」
「……ああ、そうでございましたね!」
合点がいった、という顔をして寿沙都さんは手のひらをぽんと叩く。アラクレイ号の事件の後、枕の下にあったこれを拝借してぼくは弁護士の勉強に勤しんでいた。あらゆるところにある細かい書き込みや何度も指で擦ったことが分かる頁端の丸まりなんかを見るたびに最初は辛くなっていたけれど、この中の知識には数え切れないほどの窮地を救ってもらったと思う。だから狩魔や腕章に抱くのと同じような気持ちで事務所でもずっと手元に置いていた。……置いていた結果がこれだ。
「またしばらく借りておくしかなさそうですね」
そうでございますね、と寿沙都さんは眉を下げる。果たしていつ返せるのやらとぼくも苦笑したが、同時に返す宛てがあることを少し嬉しく思った。そうだ、隣にいなくとも亜双義は海の向こうで生きているのだ。


法律全書ないけど亜双義ちゃんと枕の高さ合わせられてるかなって龍ノ介が心配する話だったんすけど(?)挫折した