船員が夕食を運んで来てくれたことでもう時刻が夜だということを知る。ずいぶん法律書を読み耽ってしまっていた。机に皿を幾つか置き、失礼しますと船員は素朴な態度で去っていく。いつも有り難うございますと礼をし、完全に扉が閉まるまで暫し入り口を見つめていた。足音が遠ざかってゆくのを確認した後、扉のカンヌキをしっかりと閉める。さあこれでこの部屋はいったん自由だ。洋箪笥の目の前まで向かい、二度程その扉を叩いた。夕食だ、と端的に告げる。が、すぐには返事が返ってこなかった。
「成歩堂?」
「……あッ!あ、開けていいよ」
焦ったような声と共にガタ、と何かにぶつかるような音が内部から聞こえてくる。眠っていたのだろうか。いや、声は寝起きのそれではなかった。首を傾げながら戸を開けると、成歩堂がいつも通りに三角座りをしてちょこんと収まっている。その頬は普段より少し赤いように見えた。
「何かあったか?」
「いやっ、な、何でも」